第11話 進撃のギャオス

「ねぇ、僕のおかげじゃないか」


「前言撤回」


「というか関係ないことも思い出さないでくれる? 」


話は戻って今現在。

ギルドの外へでて三人はたむろっていた。

Aランクとなり、それなりに稼ぎがよいものも多くそしてあまり怪しまれずに依頼をこなしてきたアスベル達。

そもそもAランクというものはどの国のギルドにも2~3パーティーと数が少なく、カリオストロ国にいたってはアスベル達しかいない状態であった。

しかしカティスがアスベル達をAランクへとあげたときは何も言わなかった。なんでも……


「Bランクのあんた等がSランクの魔物を倒したことの驚きで頭が一杯でそれどころじゃなかった」


とかなりごもっともなことを言ったのだ。


「なんかAランクってだけでこれだけ優遇されるのはいかがなものかと……」


他のパーティーは汗水流して必死に依頼をこなしているのにアスベル達は汗一つかかずに、涼しい顔をして戻ってくるため一部のアスベル達に嫉妬したパーティーからは変な噂を流されることもある。

例えば本当はSランクの魔物を倒してはおらず、でたらめを言っているのではないかなどだ。

しかし、アスベル達はきちんと大陸皇帝亀キングアースタートルの甲羅と皮を持って帰ってきている。

それをカティスに渡したとき倒れそうになったのは言わないでおこう。

もちろんそれを知っているフィオラや他のギルド職員はその噂を信じることはなかった。


「それにしても脱走して早2週間か……。時の流れは早いものだね」


アスベルの頭には故郷であるバシーニードが映る。

時間の感覚など存在しない、同じ風景だけが広がる世界。


「……時間ってこんなにも尊いんだ」


しんみりとした雰囲気が漂う。

それに耐えられなかったのかエルマが声をあげる。


「あーもう、つまらないわね。観光でもするわよ。今まで依頼受けてばっかりで全然この国のこと、知らないんだから」


「それもそうだな、たまにはそういう日もいいのかもしれない」



「新しい店、見つけよう! 」


「さっき朝飯食べたばっかでしょ!」


エルマの声とローランのため息を無視してアスベルは楽しそうに走り出した。


・ ・ ・


白く長い廊下にコツリと足音が響く。

様々な装飾が施された柱に大理石のようなものでできたその壁は繊細なものを感じる。


ここはカリオストロ国の中心に佇む白亜の城。

名をエステル城と言う。

エステル城の奥には現国王であるレーデル・フォン・エステラクスが造ったとされる初代国王の像があると言われている。


そんな城の廊下には四つの影があった。

一つは青の帽子を被り、金の長髪を揺らし、杖を持った少女。

一つは少女と同じ金色の長髪に白の盾に槍、鎧を身に纏う女性。

一つは赤いハット棒に軍服を身に付け、銃を腰に携える鳥人の男性。

一つは黒色の長髪に狐の耳と尻尾のある着物を纏い、刀を腰に携える獣人の男性。

そんな四人のなかの鳥人の男性が嘴を開く。


「なあ、知ってるか? 宿ギルドでAランクのパーティーができたらしいぜ。それもたった3日でなったとか」


「ああ、その話なら僕も聞いたよ。なんでもFランクのときにSランクの魔物を討伐したとか。最初は耳を疑ったよ」


男性は耳をピクピクと揺らす。


「私も驚きました。しかし、そんなことがあり得るのでしょうか? 」


白い鎧を身に纏う女性は半信半疑のようだ。


「そのAランクになった方々、かなりの強者なのでしょう。少し興味があります」


「そうね、私も興味があるの! 」


金髪の少女は目をキラキラとさせ、頷く。


「だって今までAランクのパーティーは出なかったですから。どんな方なのかしら。会ってみたいです! 」


「もしもお嬢様に手を出そうとしたら即刻この私が……」


女性は槍を構えるが鳥人の男性にとめられる。


「落ち着けって。会ってみなきゃどんな奴かわかんねぇだろ? 」


「それに僕達はここからあまり離れられないからね。機会がくるのを待つしかないよ」


苦笑いを浮かべながら狐の獣人の男性は答える。


「うふふ、会うのが楽しみです」


少女は周りに花が咲きそうなほど可愛らしい笑みを浮かべた。


「だけど、王から直々の呼び出しだなんて何かあったのでしょうか? 」


疑問を持ちながらも四人はその足を王の間へと進めていくのであった。


・ ・ ・


「へっくしゅ! 」


「……っくしゅ」


「くしゅん! 」


カリオストロ国を観光していたアスベル達は同時にくしゃみをした。


「うー、くしゃみなんて久しぶりなんだけど」


「俺もだ」


「風邪は私達ひくことないし、なにかしら? 」


鼻を啜りながら不審に思うエルマ。ふとローランの頭にあることがよぎる。


「……そういえば、人というのは誰かに噂されるとくしゃみがでるらしい」


「え、本当に? てことはどこかの誰かが僕達のことを話題に噂しているってこと? 」


「そうなるんじゃないか」


「僕らも知名度あがったねぇ。上がりすぎるのは嫌だけど」


アスベルは持っていた串焼きをぱくりと噛む。

あふれでる肉汁にアスベルは顔をほころばせたが、財布はそうではなかった。

エルマは不機嫌な表情になるとアスベルを咎める。


「あんたねぇ、それで8軒目よ。少しはお金のことを考えてくれる? 」


その言葉に肉が含まれた口から「ふぇ? 」という声が漏れる。

肉を噛みしめ、飲み込む。


「え、もうそんなに行ったっけ? でもまだ全然お腹膨れてない」


「あんたの胃袋に合わせてたらこっちが破産するわよ」


財布として使っていた麻袋を揺らす。中の金が重なりあい、カシャリカシャリと鳴る音が聞こえるが、先ほどのものよりも音が軽い。


「毎度毎度言ってるじゃない? そろそろ自重してくれないと……」


エルマの目がアスベルを捉える。その眼光はアスベルにとっては凶器に等しかった。


「依頼の報酬をあんたの食費には回さないから」


その言葉にアスベルの顔から血の気が引く。


「そ、それだけはやめてください! どうか許してください! 」


串焼きを食べ終わったせいか両手があき、その手をアスベルは顔の前にあわせる。そもそもアスベルの食費のために始めた仕事だ。アスベルの食費を抜かせば辞めるのは容易い。


「頼むよぉ、これからは気を付ける……」


その声はピタリと止まる。

ローランもぼんやりと空を眺めている時とは違う表情を見せる。

エルマも耳と鼻を生かし、その気配を取り逃さないように集中していた。


「だんだんと近づいてきてるわね」


耳を動かしたままエルマは空を見上げた。


「かなり気配が大きいな、これは……」


薙刀を抜いたローランは珍しく楽しそうにしていた。


「今まで戦ってきた奴の何倍も強そうだ」


「だからって羽目を外さないでね」


アスベルのようにはならないだろうがローランにも一応注意をしておくエルマ。

そしてとうとう三人が察知した気配の正体が明らかになった。

三人がいる場所よりも離れた場所から悲鳴があがる。それを筆頭に多くの人々が悲鳴や怒号などを叫んで走り回っていた。

突如として現れた魔物はドラゴンの姿をしており、翼を広げて咆哮を国中に響かせていた。

その赤い鱗は太陽の光にあたって美しく見える。

口から覗く牙は一本一本素晴らしいほど鋭くできていた。


「あれって確か……ギャオスだったよね」


アスベルはいつの間にか剣を抜いており、すぐにでも戦えるようになっていた。

突如として現れたギャオスというものはドラゴン系にはいる魔物であるがその力はドラゴンのなかでも引けをとらないほどである。その爪、牙、鱗はギルドではかなり高く売られているため討伐しようとするパーティーが多くいたというがほとんどのパーティーがギャオスによって全滅にさせられたほどだ。


「どうするのよ、こんなに人の目があるんじゃ下手に力は出せないわよ」


「しかしあのままだとかなり危険──」


ローランの声を遮るような巨大な音が鳴り響いたと思ったらギャオスによって城壁が破壊されていた。

逃げ惑う人々の声が先ほどよりも大きくなる。


「それなら討伐するというよりあっちからお家に帰って貰おう」


アスベルはギャオスのところまで走り出した。それをローラン、エルマも追う。

人々の波を避けていき、城壁にのり我が物顔で居座るギャオスの前にアスベル達は立つ。

周りにはほとんど人はおらず、ギャオスによって崩壊した城壁と家屋があるだけだ。


「ちょっといじめちゃおうか! 」


アスベル達はギャオスに向かって飛び込んでいった。

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