第10話 家族もののドラマは大抵ティッシュを使いきる

「助けてくれてありがとう! 」


「ありがとう、ひぐっ」


アスベル達が大陸亀から命を救った兄のロルトと妹のセナは三人に頭を下げてお礼を言った。

セナはよほど怖かったのかまだポロポロと涙を流している。


「ほら、もう泣くなよ。オレたち助かったんだぞ」


ロルトはセナの頭を優しく撫でるとセナはこくりと頷いて泣かなくなった。


「無事でよかったよ、ところでどうして君達はここにいたんだい? 」


ここは森のかなり奥に面しており、子供が簡単に来れるような場所ではない。するとロルトはポケットから何かをとりだした。


「これって……」


ロルトが手に持っていたのはドングリのような木の実であった。

大陸亀に逃げている最中にやってしまったのかいくつか砕けているものもある。


「これ、こんな形だけど薬になるものなんだ。オレ達のお母さん、病気で今ずっと家で寝てるんだけど全然治らなくて。お医者さんから聞いたらこの木の実は病気に効くって言われて」


だがこの木の実はアスベル達が今いるネウスの森でしか取れず、ロルト達が大人に言っても取ってきては貰えなかったらしい。ギルドに依頼をだしたらしいがなかなか受けてもらえず、セナを連れてここまできたらしい。


「おいていったら泣き出すから」


とロルトは自身の腕に抱きつくセナを見る。


「そうか……。大変だったね」


「でも木の実はちゃんと手にいれたからこれでお母さんの病気、治るかもしれない! 」


ロルトが木の実を握りしめ、ニコリと笑う。

その笑顔にアスベルも微笑み返す。


「それじゃあ、家まで送っていってあげるよ」


「え、いいの! 」


「二人だけじゃ危ないだろう」


アスベルは幼い二人の頭をごしごしと撫でる。セナからは楽しそうな悲鳴があがった。


「今ならおんぶもつけちゃうよ」


「おんぶ? わたしお姉ちゃんがいい! 」


ロルトから離れてエルマに抱きつくセナ。エルマも「いいよ」と了承し、幼い少女を背負う。


「オレは鳥のお兄ちゃんがいいな」


「俺か? 」


ローランは自分が言われると思っていなかったのか怪訝な顔をしてロルトを見る。その表情にロルトはピクリと動く。


「だ、だめ? 」


「……別に構わないが」


ローランは薙刀をアスベルに預け、片膝をつくとロルトは嬉しそうにローランの背にのる。

こうしてエルマはセナ、ローランはロルトを背負い、出発した。


「そういえば君たちの家ってどこだい? 」


アスベルが先頭を歩いていたため振り向いてからロルトに尋ねた。


「カリオストロ国だよ」


ローランから背負われたロルトがカリオストロ国の方向を指差す。


「へぇー、僕らもカリオストロ国からきてるんだよ。今回は依頼があってここまで来ているんだ」


「やっぱり、お兄ちゃん達ギルドパーティーなんだね! 」


ロルトは嬉しそうに足を揺らす。


「オレね、将来の夢はギルドに勤めることなんだよ」


ギルドというのは稼ぎが不安定ではあるが、ランクをあげて依頼をこなしていけば生活に困ることはなくなるという。


「お母さんやセナのためにもオレ頑張ってお金を稼ぎたいんだ」


ロルトとセナの父親は昔事故で亡くなっているという。そのためロルトとセナの母親が身を粉にして働いていたがそれが祟り、病にかかってしまったのだ。


「お父さんが死んじゃってからお母さんずっと頑張ってたからさ。今度はオレが頑張る番なんだ」


ロルトの決意は固く、その眼差しは鋭いものがあった。


「そうか、頑張ってね……ぐすっ」


「あんた、何泣いてんの」


アスベルはこういうのに弱かった。


・ ・ ・


アスベル達が無事カリオストロ国につくと一人の老婦が駆けてきた。


「ロルト、セナ! 」


「おばあちゃん! 」


老婦は背中から下ろされたロルトとセナに駆け寄るときつく抱き締めた。


「心配してたんだよ! まったく……」


「ごめんなさい。でもこれが欲しくて……」


ロルトは先ほどの木の実を取り出す。老婦はそれが何なのか知っていたのか目を丸くして驚く。


「これってあのネウスの森の……。そんな危険な場所まで行ってよく……」


「お兄ちゃん達が助けてくれたの」


「えっ」


セナが言うと老婦はアスベル達に頭を下げた。


「この子達を助けていただきありがとうございました」


「いえいえ、当然のことをしたまでです。とても素晴らしいお孫さんでいらっしゃいますね」


「お兄ちゃん達ね、こーんなにでっかい魔物を倒したんだよ! 」


ロルトが大きく腕を広げて興奮気味に話す。


「大きい魔物? 」


老婦はピンと来てないようで首を傾げる。

アスベルは焦り、手をブンブンと振って答える。


「あ、と気にしないでください。ホントに……」


「はあ……」


老婦は納得いってない様子だったがそれ以上聞いては来なかった。

何度も何度もお礼を言われ、ロルトとセナは帰っていった。


「僕達も依頼を報告しにいかなきゃだけど……」


アスベルはあまり行きたくない様子である。


「依頼達成したこと言わなきゃ報酬貰えないのよ。行くわよ」


ローランとエルマは仕方なくといった感じでそそくさと行ってしまうが、アスベルは迷った末に行くことにした。




「あ、おかえりなさい! 」


ギルドに入ると待っていたのかフィオラがアスベル達を出迎えた。


「お疲れ様でした。どうでしたか? 」


無邪気に聞いてくるフィオラにアスベルはうまく答えることができず……


「まあまあ、だったよ」


と苦笑いで言うしかなかった。

騒ぎを大きくしないためには少ない人数しか依頼のことを言わないでおこうとアスベルは思っていた。

フィオラにギルドマスターはいるかと聞くとフィオラは自分の部屋にいるのではないか、という。

アスベル達は早速カティスの部屋へと向かう。

ノックをすると中から返事が聞こえた。


「あれ、あんた等。どうしたんだい? 」


扉を開けると書類を片手に仕事をしていたのであろうカティスが顔をあげる。


「相談がありまして。今日依頼を受けたんですよ……」


「ふむ、それで? 」


「でてきたモンスターが少し違っていたというか、なんか変わってたというか……」


「どういうことだい? 」


カティスはよく理解できていない様子だった。


「報酬アップの大陸亀の討伐の依頼を受けて行ったら……。そいつの進化形態と思われる魔物に会いましてですね」


「つまりあんた等はその魔物を討伐してきたっということかい? 」


「そういうことです……」


アスベルのその言葉にカティスは手に持っていた書類を落とした。ペンも追加で落ちる。


「大陸亀の進化形態と言えば大陸皇帝亀キングアースタートルしかいないがそいつはSランクの魔物だからね……」


カティスは額を押さえて息を吐く。

それが何分間か続いた。

アスベル達は寝てるのではないかと思い、焦ったがそんなことはなく


「あんた等、明日からAランクだから」


「「は? 」」」


あまりの驚きで見事に言葉がハモった。


「え、ちょっと待ってください」


まさかランクがあがるとは思っていなかったのかアスベルが声をあげる。


「ん、なんだい? 」


「あの、僕達、そういう魔物がいましたが一応倒してきましたということを報告するために来ただけで……」


「だからランクをあげたんだろう。BランクがSランクの魔物を倒すなんてなかなかないだよ」


言葉にならなかったアスベル達。

そんな三人を放ってカティスはサクサクと手続きを済ませていく。


「しかしFランクのときと言い、あんた等何者なんだい? 」


カティスのその眼差しはギルドマスターの威厳というのか、獲物を狙う鷹のようにアスベル達を見る。

アスベル達は顔を見合せ、震える声で答えた。


「ただの田舎生まれの仲良し三人組です……」


不自然に見える笑みを浮かべ、その場を乗り切ろうとする。

カティスはその顔から目を離さなかったが、一度目を瞑り途端に笑いだした。


「ははっ! すまないねぇ、無理強いさせて。人に言いたくないことの5つや6つあるわよねぇ! 」


「それは多すぎでは……」


アスベル達は自分達の素性を知られる前にカティスの素性を知りたいと思ってしまった。


「ここ、ギルドってのは隠し事が多い奴がたくさんいるからね。あんた等みたいなのも珍しくないんだよ」


だけど、とカティスは立ち上がり、アスベル達の前まで行くとアスベルの肩を叩く。


「ここにいるギルド職員、パーティーはあたしにとっては家族みたいなものさ。だからもしよかったらいつでもいい。少しだけでも話してくれたら嬉しいよ」


母のような優しい笑みを浮かべ、カティスは言う。


「ほら、報告はこれだけだろ? 飯でも食ってきな! 」


「はい、失礼します……」


アスベル達は静かに部屋を出ていった。

ギルドマスターの部屋の前でアスベル達は立ち尽くす。


「……やばい、泣きそう……ぐすっ」


「泣いてんじゃないの」


アスベルはこういうのに弱かった。

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