第7話 願いはいつか叶うもの
ギルドマスターと思われる女性の部屋へとついたアスベル達三人。
中には大きなソファーが二つに中心には菓子がのったテーブル、その奥には大量の書類や本がのった机があった。
女性はアスベル達にソファーに座るように促す。アスベル達が座ると女性もソファーにドカッと座った。
「……まずは謝罪させてくれ。本当にすまなかった」
女性は深々と頭を下げた。赤い髪が柳のように下ろされる。
「あたしはこの宿ギルドのギルドマスターをしているカティス・マーズという者だ。今回はあたしの職員が迷惑をかけてしまい、すまなかった」
「い、いや全然大丈夫ですよ。頭をあげてください」
アスベルの言葉にカティスは申し訳なさそうに頭をあげる。
「だがあんた等、よくバジリスクを討伐することができたね。それにコカトリスまで」
カティスはいまだに驚いており、アスベル達をじっと見つめている。
「いや、本当にたまたまなんですよ……」
苦笑いしかでないアスベル。
「たまたま、ねぇ。たまたまでこれだけの手柄をあげるとはやっぱり運がいいとしか言いようがないね……」
頭を掻き黙ってしまったカティスの方を見ながらアスベルはエルマへと耳打ちする。
「どうしよう、このあとどう答えればいい……」
「わかるわけないじゃない。あっちが私達のこと諦めてくれないと終わらないわよ……」
できるだけ怪しまれずに進めていきたい二人をよそにローランは机にある菓子を食べていた。
「あんた等、Fランクだよね? 」
黙っていたカティスが口を開く。
「は、はい。そうですが……」
「バジリスクにコカトリスを討伐してるってのにこちらとしてはFランクのままにはできない。あんた等はこれからBランクにあげることにする」
「「はぁ…………え? 」」
見事にシンクロしたアスベルとエルマ。あまりの驚きで固まっている。
「いや、あのぉ……。さっきの話聞いてました? それにBランクって説明を聞いたときに知ったんですけど、実力があるパーティーがなるものですよね? それって僕らは含まれないんじゃ……」
「ああ、寝ているところを見つけて討伐したんだろ? だが、あいつ等の皮膚は固いからな。Fランクじゃなくてもほとんどのパーティーが寝ていても苦戦する魔物さ。それをあんた等は傷一つなく討伐したっていうじゃないか? この国でSランクの魔物に簡単に致命傷を与えることができるのはロードナイツだけかと思っていたんだけどねぇ」
しみじみというカティスのよそに珍しく興味津々なローランは
「……一度会ってみたいな」
と呟いたことは黙っておこう。
「まぁ、そんなとこだ。初日でBランクだなんて今まで一度もなかったんだけどねぇ。もちろんあんた等はまだ新規のパーティーだからね。ちゃんと分からないことがあれば遠慮せずに聞いていいからな」
豪快に笑うカティスを固まったままのアスベルとエルマ。するとカティスは何かを思い出したのか声をあげる。
「あ!そういえばあんた等に報酬を渡していなかったね」
「報酬っ!」
固まっていたアスベルが喜びのあまりカティスに飛び付きそうになるが、それをエルマがぶん殴ってとめる。麻袋の中身を確認しながらカティスは代金を重ねていく。
「まずはこの依頼の達成代金である500ペスとバジリスクの鶏冠、目玉、牙は合わせて150ペス、そしてコカトリスの鶏冠、蛇の尾、翼は合わせて200ペス、合計数で850ペスだよ」
「850ペス……これで串肉はどれくらい買えるんですか……?」
「その串肉が一本1ペスだとしたら850本買えるね」
「850本……! 」
あまりの多さにアスベルは感動の涙を流しそうな雰囲気である。カティスは1ペスだったらね、と苦笑いを浮かべる。
「ほら850ペスだよ。一応確認するかい? 」
「いや大丈夫です」
肉のことでまた頭がいっぱいになったアスベルの代わりにエルマが対応する。
エルマ達は麻袋に入った850ペスを手にいれた。
「それじゃあ今日は疲れているだろう? 宿で休むといいよ」
「はい、行くわよアスベル、ローラン」
「ああ」
「肉ぅ! 」
ギルドをでてすぐにアスベル達はさきほどの串焼き屋へと向かう。まだ男性が肉を焼いていたところだった。
「どうも! 肉を買いにきま……」
「おお! 兄ちゃん達、待ってたんだよ! 」
男性はその怖い顔を笑顔に変えて揉み手でアスベル達に近づいてきた。
「いやあ、聞いたぜ。兄ちゃん達、Sランクの魔物を二体も討伐したんだってな。そんなにすごいなら言ってくれよ」
男性は串焼きを3本手にするとアスベル達に渡してきた。
「これはサービスだぜ! もちろん他にも買いたいのがあった言いな。安くしといてやるよ! 」
「いいんですか! それじゃあ……」
アスベルは目の前にある肉を見つめ、舌舐りをした。
それから1時間も男性はアスベルによって拘束され、次々と肉を焼いていた。
さすがにこんなに食うとは思わなかったのか、男性の顔が青くなっている。
肝心のアスベルはというと両方の串焼きを一口二口で食べ終わり
「すみません、もも3本と皮5本とバラ肉8本追加で。塩とタレ両方ですよ」
「お、おお、待ってろよ」
とっくに満身創痍の男性に注文攻めをしていた。
850ペスを手にいれたことに加えて肉を安くしてもらったためアスベルの食欲は収まるところをしらない。
「あまり食べすぎないでよ、お金がなくなるわ」
「宿代とやらもそれに入っているからな」
サービスされた分で満腹になったローランと追加で一、二本頼んだエルマはアスベルが食べ終わるのを待っていたが、だんだんと男性がかわいそうになってきていた。
「えぇー、それじゃああと二十本食べたら」
「あと、に、二十本……!? 」
疲労で倒れそうな男性をよそにアスベルは美味しそうに串焼きを平らげていた。
「ま、まいどあり~……」
くたびれた男性の声を背に三人は宿ギルドへと戻っていった。時刻はもう夕方である。
「あー、美味しかった! あそこの肉結構好きかもなぁ」
「好きだとしてもあれは食い過ぎじゃない」
「さっきの奴に同情した」
「いやいや、売り上げとやらに協力したんだからいいじゃないか」
悪びれることのないアスベルの様子にローランとエルマはため息がでた。
そうこうしているうちにアスベル達は宿ギルドへと到着する。
中に入るとギルドマスターのカティスが手配してくれたのか白いリボンで緑の髪を一つにまとめた16歳ほどの少女が待っていた。
少女はアスベル達に気づくとスカートの裾を少しあげて会釈する。
「どうも初めまして。私はここでルームサービスとして働いています、フィオラと申します。お三方のために一生懸命やらせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
柔らかい物腰のフィオラはその優しい目をアスベル達へと向ける。
アスベル達もよろしくお願いします、と頭を下げる。
「それではお部屋まで案内させて頂きます」
踵をかえし、ギルドの隅にある階段を上がっていく。アスベル達もそれについていく。奥へと進んでいき、少しするとフィオラが立ち止まる。
「ここがお部屋です。右側のお部屋はアスベル様とローラン様、左側のお部屋はエルマ様のです」
「え、私だけ? 」
分けられると思っていなかったのか、質問するエルマ。
なんでも男二人に女一人だとなにかと不便だろうとカティスが考えてくれたものだった。
「別に一緒でも構わなかったんだけど、お言葉に甘えようかしら」
エルマは一人部屋ってことなら気が楽だとうれしそうにする。
鍵をそれぞれ渡されたあとアスベルが質問する。
「そういえばルームサービスってどんなことをするんだい? 」
「大抵はお食事を運んだり、ベッドシーツを替えたり、部屋の掃除などの生活に必要なことをやらせていただきます。それと……」
フィオラは着ていた上着に手をいれるとそこから小刀を取り出した。
「夜の営みのお手伝いなどは一切お断りさせていただいています。もし、襲いかかれたらこの小刀でやり返すか、騎士団へと通報しにいくかの二択ですのでご理解くださいませ」
満面の笑みを浮かべるフィオラにエルマは
「しっかりしてるわね、あんた」
と感心していた。
「それではお休みなさいませ」
ある程度の説明を終え、アスベル、ローランとエルマは自分の部屋へと入る。
なかにはちょうど二台のベッドが置いてあった。
空はとっくに赤色から真っ暗な闇が埋め尽くしている。
アスベルはベッドのうえで大の字になった。
「案外暮らしやすそうだね、この国」
「そうだな、まあまあ居心地がいい」
ベッドに腰をおろしたローランもアスベルの意見に同意した。
それから三人は1日の疲れ(あまり疲れてはいないが)を癒すために眠りについた。
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