第6話 初回で羽目を外すと録なことにならない

アスベル達は宿ギルドで依頼を探していた。目的はもちろん肉のためである。


「やはりこの報酬? というものが多い方がいいのか?」


「そうなんじゃない? だとしたらどれが一番いいのかしら」


「二人ともー! 」


ローラン、エルマとは違う場所を探していたアスベルが依頼書を持って走ってくる。


「何かいいのが見つかったのか? 」


「うん、見て見て。この依頼書の下の方。500ペスだって!」


「へぇーどの依頼書よりも高いじゃない! でもこのペスってなんのこと? 」


「さあ? 数字が大きいから持ってきただけなんだけども」


「もうそれでいいんじゃないか」


「よし! それじゃあこれに決定!」


早速三人は受付の新聞のようなものを読んでいる男性の職員へと話しかける。


「これ受けたいんですけど……」


「は? ……ああ、いいですよ」


しかし職員はちらりと目を向けて適当にポンッと判子を押すとまた新聞の方へと目を向けた。


「あー、どーもー……」


アスベル達は哀れみの目で彼を見つめるとそそくさとギルドから出ていった。


「なによ、さっきの奴! 腹立つわ! 」


「気にしない気にしない、どの時代にもああいう奴はいるよ」


「一瞬殺そうかと思った」


「やめなさーい」


アスベル達はさきほどの職員に腹が立ちながらも依頼書に書かれている場所へと向かっていった。


・ ・ ・


その頃アスベル達を担当したギルド職員はあることに気づいた。


「ん? さっきのって確かSランク用の依頼じゃ……」


職員は顎に手を当て考え込んだが


「見間違えだろ」


あっさりと諦めて新聞の方へと意識を向けた。


・ ・ ・


「ここら辺だね」


依頼書に描かれている地図を頼りにアスベル達はカリオストロ国から東に位置するノーフの森に来ていた。木がざわめく音を聞きながら森のなかを進んでいく。


「で、なにをすればいいの? 」


エルマがアスベルが持つ依頼書を覗き込む。


「えーとね、依頼書には鶏冠王蛇バジリスクを討伐せよ、って書いてあるよ」


「バジリスク? あの鶏冠とさかみたいなのがあるでかい毒蛇よね。それだけでいいの?」


「それしか書いてないからなぁ」


「あまり面白そうではないな」


依頼書を読んだローランも微妙な顔をしている。


「まあ受けたからにはやっちゃいましょー。それにこれを達成すればお金が入ってくるしー……ウフフ」


肉のことを考えているアスベルを置いてローラン、エルマは先へ行こうとする。

するとズズッと草を押し倒し、何かを引きずるような音が三人の耳に届く。

ローラン、エルマはすぐに戦闘態勢へと移り、肉のことで頭がいっぱいだったアスベルもすぐに剣を握る。


「もうおでまし? つまらないわね、でも……」


エルマは拳をぎゅっと握ると地面へと拳を振りかざした。


「こそこそされるのは嫌いなのよ!」


拳が地面に当たった瞬間地面は音を立てて四方八方にひびが入る。そして衝撃波で割れた地面が浮かぶ。木も倒され、その間から10メートルはくだらない巨大な蛇が姿を表した。


「シャアアアアア! 」


「しまった、やりすぎた……」


いきなりエルマは自分が作ったルールに引っ掛かってしまっていた。

割れた地面へと視線を向けたエルマにバジリスクが襲いかかろうとする。しかしそれは叶わない。薙刀を握りしめたローランがバジリスクへと飛びかかる。


「殺すのは手加減しないからな」


ローランが薙刀を振ると一瞬でバジリスクの頭は飛び、胴体も真っ二つに斬られていた。

バジリスクの血が辺りに飛び散り、血が落ちた地面は毒の効果で音をたてて溶けていく。

ローランは薙刀を振り、刃についた血をはらった。


「僕が殺りたかったのに」


「早い者勝ちだ」


出番のなかったアスベルが恨めしそうに言うがローランは気にしていない様子であった。

エルマはというと。


「よし、疑われたらバジリスクあいつのせいにしよう……」


地面が割れたのはバジリスクのせいにして気持ちを落ち着かせていた。

殺された挙げ句に自然破壊の濡れ衣を着せられたバジリスクであった。

依頼達成ということで帰ろうとしたアスベル達だったが魔物の気配を感じ、立ち止まる。


「やはりあいつもくるか」


「ペアみたいなものだからね」


上空から現れたのは鶏の頭と蛇の尻尾をもった人を石にさせる魔物。さきほど倒したバジリスクとはペアとして知られている


蛇尾石鳥コカトリスねぇ。アスベル、あんたにあげるわ」


「りょーかぁい」


剣を引き抜き、地面を踏みしめる。上空にいるコカトリスはアスベルに向かって人を石に変えるブレスを吐き出す。


「当たらないよ! 」


ブレスの軌道を見極め、避けるとアスベルは地面を強く蹴り上空へと跳んだ。空中でも何度か空気を蹴り、コカトリスがいるところまでたどり着く。


「ギョエ!? 」


「やあやあ、出会い頭だけどさよなら! 」


目の前に来たアスベルに驚き、動くことが出来なかったコカトリスはあっさりアスベルに首を斬られた。血と羽根が美しく舞う。


「これで肉が食えるー! 」


コカトリスの生首と死骸と一緒に落下しているアスベルは呑気にそんなことを言っていた。




「討伐したはいいけど、こいつらどうすんの?」


バジリスクとコカトリスの死骸を並べてエルマが訊ねる。


「まさかこのままギルドまで持っていくの? 」


「いや、依頼書にはバジリスクの鶏冠と牙と目を持ってくるのが達成条件だって」


「コカトリスについては? 」


「何も書かれてない」


「じゃあ、どうすんのよ。こいつ」


エルマは困ったように頭をガリガリと掻いた。


「成り行きで討伐しちゃったからなぁ。何とも言えない。」


剣でバジリスクの鶏冠を切り取っていたアスベルは苦笑いを浮かべる。


「……コカトリスだと分かるところを持っていけばいいんじゃないか? 」


コカトリスを眺めてたローランが言う。


「それならやっぱりバジリスクと同じ鶏冠よね」


「あとは蛇の尾も取っていくか、あとは」


「やっぱり翼でしょ」


アスベルとローランは手分けしてバジリスクとコカトリスの二体を持っていた武器で解体し始めた。エルマは血の匂いを嗅ぎ付けてきた魔物がいないか見回りにいく。


そうしてバジリスクの鶏冠と牙と目、コカトリスの鶏冠と蛇の尾と翼を手にいれることができた。

二体の死骸はそのままにしておくこともできないため燃やすことに。


木の枝で試行錯誤しながらも火を起こし、二体の身体の近くに置く。木の枝をその上から被せ、火の勢いをあげていく。そのまま二体は火にかけられてその身体は灰となった。


「これで依頼達成! 」


「あっさり終わってつまらないな」


「もう少し骨のある奴っていないのかしら? 」


「僕としてはこれで肉が食べれるからいいんだけどね」


アスベル達は無事依頼を達成し、回収した素材を麻袋に入れ街へと帰っていった。


・ ・ ・


街へとついたアスベル達は早速ギルドへと依頼達成を報告しにいく。しかし、ギルドの周りには多くの人だかりができていた。


「え、何事です? 」


戸惑っているアスベル達に野次馬の男性が話し出す。


「なんでも受付の奴がFランクのパーティーにSランク用の依頼を許可しちまったらしくてな。ギルドマスターにめっちゃくちゃしごかれてるみたいなんだよ。」


「えー、それは大変だ」


すると男性はアスベル達の格好をじろりと見始めた。武器を持っているのに気づいたらしい。


「あれ、あんたらもギルドに入ってるのか? 」


「はい、今日入ったばかりで。今、依頼から帰ってきたばかりなんです」


「へぇー、それはお疲れさん。どんな依頼だったんだ? 」


「えーとバジリスクの討伐ですね」


アスベルが何気なく言うと男性の動きがピクリと止まる。


「あれ? どうしました? 」


「い……いま、なんて言った? 」


ぎこちない言葉にアスベル達は不審に思いながらも答える。


「バジリスクの討伐です。ついでにコカトリスも一緒に……」


「バジリスクとコカトリスーー!?」


男性がいきなり叫びはじめた。その声にエルマは耳を押さえる。

男性の声は周りにも響き、他の人々も騒ぎ始めた。あまりの騒ぎにアスベルは驚いている男性を落ち着かせようとする。


「いや、あのどうし……」


「どうしたもこうしたもないだろ!? それSランクの依頼だよな!? 早くギルドにいけよ!? 」


男性はアスベルの背を押し、ギルドへと連れていった。ローランとエルマもそれについていく。

中に入るとさきほどの受付の男性がギルドマスターと思われる顔に傷を負った赤い髪の女性に土下座をしていた。女性は仁王立ちをし、背後には激しい炎が見えてきそうなほどご立腹である。

その気迫に男性も冷や汗をかきながら「申し訳ございませんでした……」と謝っている。

しかし、女性の怒りは収まっておらず


「申し訳ございませんでしたぁ? あんた、それだけですむと思ってるのかい? あんたが仕事をきちんとこなさなかったから今頃そのFランクの子達は魔物の餌になっているかもしれないってのに」


「で、でもパーティーの怪我や死亡はギルドは責任取らないって……」


「あたしが言いたいのはそういうことじゃないんだよっ!」


その声にギルドがびりびりと震えだす。男性も今にもぶっ倒れそうである。


「あたしはあんたが言われた仕事をきちんとこなさなかったことを言っているんだよ! あんたの仕事をどれだけの人が信用してると思う! 右も左も分からない新規のパーティーはあんたに命を預けているようなもんなんだよ! それだというのにあんたは依頼書をきちんと見らずに、最後は自分には責任はないですだ? ふざけるのもいい加減にしな! 」


ノンブレスで男性を捲し立てる姿はまさに獲物を狙う獅子そのもの。男性の顔はとっくに血の気がなくなっている。

さすがに尋常ではないと悟ったアスベルがとっさに手をあげる。


「す、すみません! 」


「ん、なんだい? あんた等」


殺気のこもった視線を向けられ、一緒にいた(まだいた)野次馬の男性は悲鳴をあげる。


「僕達、いましがた依頼を達成してきまして……」


「ああ、報酬ならあとで渡すから少し待ってて……」


「あああああああっ! 」


アスベル達を見た男性が三人を指差し、声をあげる。


「このパーティーです! Sランクの依頼を許可したFランクのパーティーは! 」


「なにっ!? それは本当かい!? 」


「は、はい! 三人お揃いの刺青が顔にあったのを覚えていて……」


女性は男性の方へと顔を向けるとまたアスベル達の方を見る。


「あんた等、さっき依頼を達成してきたって……」


「は、はい。バジリスクの討伐です」


「それとコカトリスも出てきたから」


「成り行きで討伐してきたが……」


そういってエルマは持っていた麻袋を女性に渡す。

女性は麻袋を開け、なかを凝視した。


「ほ、本当に討伐してきたんだね……。きちんとバジリスクの鶏冠、目玉、牙が入っている……」


そして麻袋の奥の方へと目を向け、女性は驚きのあまり固まってしまう。


「コカトリスの鶏冠に蛇の尾、それに翼が入っている……。コカトリスは人を石に変える魔物だというのに……」


女性は麻袋へと目を離し、アスベル達の爪先から頭までを見つめた。


「あんた等、傷一つついてないね……」


「た、たまたま寝ているところを発見したから……」


しまった、と心で冷や汗をかくアスベルとエルマ。ローランはというと。


「いや、襲いかかってきたから相手した……」


「ローラン君! 今日もカッコいいね! 」


危なく本当のことを言おうとしたローランの言葉に重ねるようにアスベルが叫ぶ。

そのまま小声で「今は本当のこと言わない方がいい」とローランの耳らへん(燕の頭なので耳がどこにあるかわからない)に呟く。


「んー、運がよかった、のかい?」


「運がいいってよく言われます僕ら! 」


あははと乾いた笑いしか出てこないアスベル。エルマもそれに合わせるがローランは無表情。


「……あんた等、いまからあたしの部屋にきてくれないかい? 」


「え、報酬は? 」


「話が終わってからだ」


来な、と踵を返す女性に男性は焦ったように


「あ、あの私はどうすれば……」


「ちゃんと責任はとってもらう。これはパーティーの問題ではなく、ギルドの問題だからね。責任放棄なんてできないよ」


いまだに消えない殺気の視線に男性は縮こまるしかなかった。肩の力が抜け、頭ががくりと下がる。


「え、待って、報酬貰えてないってことは……肉は? 」


「あとで行くから我慢して」


「逃げ出せる雰囲気ではない」


「そんなああああ……」


こちらは違った意味で絶望しており、エルマに引きずられながら女性の部屋への向かった。

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