拝啓。愛しいダンナ様
拝啓。愛しいダンナ様
その日、私は朝からご機嫌だった。いつもよりも一時間早く起きて、家政婦のキャサリンと一緒に家の掃除や洗濯をして、十一時過ぎには済ませる。
しばらく出張に行っていた弘樹が、今日の昼ごろに帰ってくる、その予定になっている。だから私は早めにキャサリンを帰して、一人で昼食の用意をするのだ。
弘樹が帰ってくるときのご飯は、いつもきまって私の手作りだ。メニューは必ずオムライス。卵はふわトロ、チキンライスにはたっぷりのバターとマッシュルーム。普通に食べておいしいオムライスだけど、最後に特別な仕掛けがある。
ケチャップを絞って、「Dear Hiroki」と書いて、その下に大きな♡マークを描く。その日は夜まで弘樹とラブラブで過したい、ということのサイン。今となっては少し恥ずかしいけれど、新婚の頃に勢いで始めて、いまだに続けている弘樹との恒例行事だ。
オムライスを作り終わった私は、シャワーを浴びて、肌の手入れを念入りにして、弘樹を待つ。
予定の時間よりも十五分早く玄関の扉が開いた。
「ただいま」
弘樹が帰ってきた。
急いで玄関に向かう。
「おかえりなさい」
そう言って出迎えると、弘樹は少し疲れた顔で微笑んだ。
「うん。ただいま。留守中なにもなかった?」
すこしの罪悪感を感じながら、できるだけの笑顔を作って、
「ええ、何にもなかったわよ。元気だった? オムライスあるわよ」
と答える。
「そう、良かった。オムライスか。いいね。あとで一緒に風呂に入ろう」
「いいけど、変なことしないでよね」
弘樹が、ははっと笑う。
「わかっているさ」
オムライスを食べ終わって、私は弘樹にこう言った。
「お風呂、先に入ってて。食器を片付けたら私も入るから」
弘樹が浴室に向かうと、すぐに私も後を追う。服を脱いで、全裸になった私を見て、弘樹は言う。
「カナちゃん、もしかしてまた大きくなった?」
「どうかしら。分からないけど、これ以上大きくなってもうれしくないわ」
私はそう言って自分の重たい胸を手で持ち上げて見せる。その間にも、弘樹が私の胸を指でつつく。
「ねえ、弘樹、触りたい?」
「ああ、ちょっとだけ、ね」
弘樹は答えて、私の胸に手を伸ばした。そして揉み始める。私は、隆宏と比べると弘樹の手は大きいとか、ガツガツしていないやさしい触り方をするとか、いろいろなことを思いながら、弘樹の好むまま素直に揉まれていた。
私は昔のことを思い出していた。このおっぱいを揉んでおきながら、それ以上のことを何もしないで別れたのが、大学時代の弘樹だ。その後に付きあった男性は何人かいるけれど、そんな遠慮深い人は一人もいなかった。きっと当時の弘樹は修行僧のような鍛錬をしていたのだろう。そんな思い出が、私に昔を懐かしませる。
何かを堪能して満足げな表情の現在の弘樹が私に言う。
「まずシャワーを浴びるよ。そしたらマッサージしてくれないか。体がガチガチなんだ」
「わかったわ」
弘樹の言うマッサージがマッサージで終わったことは、結婚してから一度もない。私は、これから長い夜が始まると覚悟した。
私は弘樹を椅子に座らせて、肩を揉み始める。バスルームで、お互いに全裸。
弘樹は目を閉じて、気持ち良さそうにしている。
「最近、どう?仕事は順調?」
「ああ、問題ないよ。カナちゃんの方は?」
「うん、まあまあってところかな」
私たちは当たり障りのない会話をしている。
弘樹の体は固く、凝り固まっている。肩や腰をもみながら弘樹の疲れをとっていく。弘樹は気持ちいいらしく、ずっと目を閉じたまま。私はというと、視線の先にぶら下がっているものにおもわず目が行ってしまう。弘樹も目のやり場に困っているのだろうか。
「ねえ、気持ちいい?」
私は弘樹に聞いてみる。
「うん、とても」
弘樹は素直に答える。
弘樹は目を開けると、私を見て言った。
「ねえ、カナちゃん、今日はバックじゃなくて、正常位でしていい?」
「やだ、そんなことはっきり言わないで。いいけどさ、どうして?」
「いや、なんとなくだよ。たまには。カナちゃん好きだろ。バックよりもさ。ほら、こっちにおいで」
弘樹は私の上におおいかぶさってきた。
私は弘樹の肩に軽く手を置いて、
「いやよ。そういうことはベッドで」
と言って抵抗した。私はお風呂で最後までするのが好きじゃない。掃除がたいへんだから。
「わかったよ。そうしよう」
弘樹は渋々承知してくれる。
「ごめんね。いまはこっちで我慢して」
私は弘樹を立たせて、正面にしゃがんだ。
天井を向くほど反り返った弘樹を手で持って、そのままぱくっとお口にくわえる。
「カナちゃん、いきなりはだめだって」
弘樹が言うのも聞かずに、私は弘樹をしゃぶる。
私の唾液で濡れてきた弘樹を今度はゆっくりと口に含む。弘樹の腰の動きに合わせて、私も前後に頭を動かす。そうしながら、片手で弘樹を握りしごき続ける。
だんだん硬く大きくなっていく弘樹の感触を舌で感じていると、私も少し興奮してくる。
「ああ、きもちいい。最高だ。カナちゃん」
弘樹は感激しているようだ。
弘樹に口でしてあげながら、私は別のことを考えていた。
「うーん、今回はイチゴか。この間はリンゴだったし、その前はミカンだったっけ。毎回違う味がして、飽きないよね。やっぱり」
べつに私の頭がおかしくなったわけじゃない。出張から帰った弘樹のソレは、いつもなにかフルーツの香りがしているのだ。
こういう行為の経験がある人なら分かると思うけれど、口にくわえたときの男性の体臭はかなり独特なものがある。だからわずかな違いでもすぐにわかる。たぶん弘樹は、私の知らないところで、フルーツ味のコンドームかローションを使っている。そして、わずかな香りが残っていることに、弘樹は気がついていない。
このことに初めて気がついたのはもう何年前だろう。当時は愕然としたものだったけれど、もう慣れてしまった。これほど旺盛な弘樹が、出張中に不自由するとは思えないから、そういうことがあるのはしょうがないよね、と私は思っている。
「カナちゃん、ちょっと痛いよ」
私は弘樹の局部をゴシゴシと手荒に洗っている。
「あっ、ごめんなさい。つい力が入っちゃった」
あわてて謝るけど、もしかしたら私はわざとそうしたい気持ちになっていたのかもしれない。
このフルーツの香りが消えるまでは、私はどうしても弘樹のことを迎え入れる気にはならないのだ。
そろそろいいかな。私は弘樹の前に座ると、もう一度ぱくっとお口にくわえる。よし、もう変な匂いはしないぞ。これで弘樹は私のものだ。
「ねえ、そろそろどうかしら」
弘樹のを舌で刺激していたら、いい感じに硬くなってきた。そろそろ身体を洗いっこして、その勢いでベッドに行くのだ。
ベッドの中で、弘樹は私を無言で組み伏せて、そのまま覆い被さってくる。正常位で弘樹が私の中に入ってくる。
私は、弘樹と初めて結ばれた日を思い出していた。あの日も、弘樹はこうやって私の中に入ってきた。そう思うと弘樹のことが愛しくなって、入れられている途中なのに、思わず身体を起こして弘樹にキスをしてしまう。
「弘樹、好き。もっと激しくしてもいいのよ。大丈夫だから。遠慮しないで、ねっ」
私の声を聞いた弘樹は、なにかスイッチが入ってしまったらしい。私の中に入ったまま起き上がると、私を対面座位の体勢にした。そして、私を強く抱きしめると耳元でささやく。
「カナちゃん、僕のかわいいお嫁さん。大切な人。一生お前を大切にする。本当に愛している」
弘樹は私のことをぎゅっと抱き締める。私はひたすらに弘樹にしがみついて、彼を受け止めるのに精一杯だった。弘樹が私の中に愛の証を注ぎ込むのを感じられるのはとても幸せな瞬間だ。
弘樹の興奮は収まらないらしく、すこし休んだとおもったら、私はバックでひたすらに突かれていた。
「あぁ、気持ちいい、弘樹」
言葉ではそう言いながら、私の心はどこか別の所にあって、弘樹が果てるのを待っていた。
好きだよ、弘樹。大好きだよ。そう心では念じている。けれど私は、ゲイランの青年の、あの硬くて細長い感触を思い出さずにはいられない。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
私は心の中であやまりながら、弘樹が私を激しく突くのに任せる。けれども、罪悪感を感じるほどに、私の身体は潤いを増していく。
その様子に気がついた弘樹はご満悦のようで、
「ああ、カナ、最高だ。可愛い、綺麗、大好き、大切、ああもうたまらない!」
などと言って、ますます激しさを増す。私は、水に浮かぶクラゲになった気分で、彼に突かれるのに身をまかせた。
弘樹が何回か果てて、私から離れようとしたときに私は言った。
「ねえ弘樹、正常位。お願い。あと一回だけ」
私はどうしても、もっと弘樹の愛を感じたかったのだ。
弘樹は少し疲れた表情で、でもうれしそうに答える。
「おいおい、おまえ底なしだな。いつの間にそんなふうになったんだ?よし。ちょっと待ってろよ」
彼はそう言うと、私に覆い被さって、また私を愛そうとしてくれるのだった。
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