背水の隊形に開く青春
@ts_tennessine
青春ってうまくいかない?いや、行かせます
高校生活も順調に歩めている。
成績優秀スポーツ万能な言わば優等生の僕は、定期テストで学年1位を取り続け、部活動では全国大会で優勝し、そして生徒会長になることもできた。
さらに言えば、アルバイトではバイトリーダーを務めてボーナスも弾んでいたり、彼女を作ることにも成功したのだ。
定期テストまで残り2週間と差し迫ってきた。
優等生と言えど、毎日勉強している訳ではない。
忙しいことを言い訳にして、普段学校外で勉強することはほとんどないが、テスト2週間前になると勉強モードに入る。
放課後になると、いつものように僕の彼女は駆け寄ってくる。
「ねぇねぇ今度勉強会しよー」
彼女は成績こそ平均くらいだが、何事にも意欲を見せ、僕を頼ってくれる。
「いいよ」
「空いてる時間言ってね
それじゃっ、部活がんばって!」
彼女は友達と一緒に帰っていった。
僕はこれから部活なのだが、少し困ったことがある。
それは、全国大会が定期テストと被っているということだ。
もちろん大会に備えて練習を怠ることなく続けるけど、学年1位を他人に譲るなんて絶対にしたくない。
優先順位なんてつけずに両立して頂点を目指す。
これこそが優等生たる者の務め。
真夏の太陽に照らされる中、部活は大会に向けて練習が激しくなっていて、終わるころには
今日は水曜日。
2週間後の水,木,金曜日が定期テスト、というのが元々だが、大会の日程は1,2回戦が火曜日、3,4回戦が水曜日、準決勝,決勝が木曜日である。
つまり、もし3または4回戦で敗退したとしたら、木曜日に2日分のテストを受ける。
そして準決勝まで勝ち進めば、金曜日に3日分のテストを受けることになるのだった。
夕食を摂り終えたとき、彼女から電話が掛かってきた。
「もしもし」
「勉強会いつやるー?
私は夜でも全然構わないよー」
「土曜の午後と日曜の午前中なら空いてる」
「まじ!?
それならお泊まりしたーい」
「構わないけど、そんなに勉強するの?」
「するする~、やったー」
せっかくの休みは集中して勉強しようと思ってたけど、そうはいけないみたいだ...。
「今日さー、チョークが折れて先生の口に入っちゃって、そのまま先生はチョークを食べたんだよねーw」
「ええ!?w」
彼女との電話は盛り上がり、気づけば夜中になっていた。
「あ、もうこんな時間
私寝るねー、バイバーイ」
電話が終わると、次第に目蓋が閉じていった。
今日も授業を終え、部活に励んだ。
家に帰り、風呂に入ってから夕食を摂る。
ここまではいつも通りだが、ここからがいつもと違うところ。
勉強!
勉強に習慣が付いてるわけではないけど、やるときはやるのが僕だ。
勉強の体勢に入ると、テスト当日提出のワークブックがあることを思い出した。
提出するワークは生物に物理、化学、そして数学、それから漢字...多い。
それと数学は数学Bと数学IIに別れており、それぞれにある。
化学と物理のワークは比較的ページ数が少ないから、先に終わらせておくことにする。
化学のワークをすらすらと解き終えると、自分の中に少しだけ余裕が出てきた。
大会で優勝して学年1位をキープする。
いける。絶対やってやる!
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。
金曜日、授業を終えて部活の時間だ。
「明日は勉強会だよー
2時ごろ家行くでいいよね?」
「ああ、待ってる」
部活が終わって、これから勉強。
昨日やれなかった物理のワークをぱぱっと終わらせた。
次は漢字に取り掛かる。
明日は8時~12時まで部活で、それから勉強会があるから早く寝ることにした。
朝から部活は活発で、平日よりも厳しかったがとにかく励んだ。
風呂で疲れを癒した後、部屋の片付けをして彼女を待つ。
ピンポーン
インターホンが聞こえて、すぐにドアを開けた。
「おじゃましまーすっ」
「来て、僕の部屋でやろう」
用意しておいた座卓に彼女と隣に並んで座る。
「あ〜全然わかんないよー」
「ただ暗記しようとするだけじゃなくて、関連性を考えてみるとわかりやすいよ
ほら、この問題とか問題文に書かれてる言葉が答えと繋がってるでしょ?」
基礎から応用まで勉強を教え続けていると、もう夕方になっていた。
一旦勉強道具を片付けて夕食を摂る。
「最近忙しいと思うけど、私のために時間を作ってくれてありがとね」
「彼女の頼みだもん、何だってするよ」
「ほんと?嬉しい」
夕食を済ました後もお喋りを続けていた。
「今日はもう勉強いいの?」
「いっぱいやったから頭疲れちゃったー」
彼女は慣れない勉強をたくさんしていたからか、疲れが溜まっているように感じる。
「ちょっとトイレ行ってくる」
トイレに行って帰ってくると、彼女は眠っていた。
彼女の寝顔を見つめながら、僕も隣で眠る。
早起きして朝食を摂り終えると、バイト前の昼まで勉強することにする。
「私こんなに教科書に書いてあることが理解できたの初めてだよー」
「勉強は続けていくことが大事だから
分からないとこあったら僕に聞いて」
「うん、ありがとう
今回がんばっちゃおうかなー」
「休憩も取らないとダメだよ」
「はーい」
昼になったので、荷物をまとめる。
「お昼どっか食べ行こー」
「いいよ」
近くの店で昼食を摂った。
「それじゃっ、バイト行ってらっしゃーい」
8時間のバイトはあまりに長く、彼女との勉強会よりも断然長く感じた。
来週からはさすがに大会とテストがあるから休もうと思い、帰りに店長に話しに行った。
「店長、来週からテスト期間なので休ませてほしいです」
「すまんが休むって人が多すぎて人手が足りないんだよ
それに新人を雇ったから、バイトリーダーとして指導してやってくれ」
「でも、」
「今回ばかりはダメだ
頼んだぞ」
結局押し切られてしまい、バイトに行かざるを得なくなってしまった。
家に帰った後、漢字のワークを終わらせた。
休み明けの学校、いつも通り部活に励み、家で20ページほどある数学Bのワークを終わらせた。
最近疲れてるからか、達成感ですぐ寝てしまう。
火曜日は部活がない分バイトがある。
夜遅くまで働いていて、家に着くころには0時近くになる。
遅い時間だから勉強せずに寝た。
水,木,金とここ3日彼女は学校を休んでいた。
水曜日に連絡を取ると、微熱だから大丈夫と言っていた。
それからそっとしておこうと思って、連絡を取っていない。
その間に、心配しながらも生物のワークを終わらせた。
夕食後、急に彼女から電話が掛かってきた。
「具合は大丈夫?」
「もう大丈夫だよー
それでさー、明日のお祭り一緒に行かない?」
「いや、来週テストだよ」
「近くで花火やるの明日だけだからさ
お願ーい」
「でも、勉強しないといけないし」
「私と勉強どっちが大事なの?」
また断れない状況に追い込まれてしまった。
その後の会話で、花火が終わったらすぐ帰ることを前提にお祭りへ行くこととなる。
勉強時間の確保の少なさに焦りながら数学IIのワークに取り組むと、計算ミスによって遅い時間になってしまったが、なんとか全てのワークを終わらせられた。
朝の部活を終えて、祭りまでの間少しだけ勉強してから、4時の待ち合わせ通りに集合した。
「それじゃっ、いこー」
いろんな屋台を回り、祭りを満喫していった。
「ついて来てー、こっちこっちー」
彼女について行くと、ひとけの少ない公園に着く。
すると、花火が始まった。
ちょうど建物の間に花火が打ち上げられていた。
「きれいだ」
「うん!
今日来れて良かったー」
乗り気じゃなかったのが嘘のように、今になっては後悔なんてしていなかった。
家に帰って勉強すると、一旦区切りがついて改めて勉強を始めているような感覚になった。
次の日、早起きで勉強して、昼にバイトへ向かう。
新人たちに指導しながら作業していくのはかなり大変だった。
でも、投げ出して逃げるような真似は絶対にしたくない。
プライドにかけて。
月曜日になり、大会はもう明日。
部活で完璧な体制に整え、万全を期した状態に仕上げた。
早寝早起き、健康状態もバッチリだ。
大会本番。
試合が開始すると、頭脳を活かした戦略プレイで圧倒した。
難なく勝利して、大会1日目が終わる。
今日の感覚を忘れないようにしながら、勉強も気合いを入れて取り組んだ。
大会2日目。
僕は相手の行動を読むのが得意だった。
そうこうしていると、4回戦の相手も打ち倒して、準決勝まで勝ち進んでいた。
大会3日目。
準決勝では巧みなコントロールに翻弄されてしまったが、慣れればパターンを読むのは容易いことだった。
とうとう決勝まで来てしまった。
ここまで順調すぎたような気がするが、僕ならばこの順調を崩すことは、ない!はず。
決勝戦、開幕!
と思ったら、相手の棄権によって、そのまま優勝ということになった。
どうやら朝早くから休まず練習していたことで、熱中症になってしまったようだ。
なんだかキマらない終わり方になったとはいえ、優勝だ!
トロフィーとともに、がんばりすぎてもいけないという教訓を手に入れた。
と言いつつも、家に帰ったら勉強をやり続けるのだった。
定期テスト当日。
昨日でなんとか全科目を目に焼き付けることができた。
今日は3日分の9科目のテストを受けることになっている。
テストが始まると、記憶と勘を頼りに問題を解いていく。
全テストを終えたときの爽快さは、これまで抱えてたものから一気に解放された感じだった。
疲れなんてどこかへ吹っ飛んでいった。
1週間後、全科目のテストが返されたのちの順位発表の日。
9科目の合計点数は837点!
決して悪くはないが、いつもよりは少し低めだ。
テストまでの2週間いろんなことがあったけど、ここまで順調に歩めていた。
だがこの結果で運命が変わると言っても過言じゃない。
順位の書かれた紙が配られると、そこには1位の表記が...!
2位と1点差という僅差で勝ち抜くことができた。
どんなに忙しくても自分の思い通りに行かせる。
これが僕の背水の陣!!
ちなみに彼女の合計点数は836点だった。
背水の隊形に開く青春 @ts_tennessine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます