人生ゲーム

このしろ

第1話

 最近、俺の幼馴染である須藤花蓮の様子がおかしい。


 そう気づき始めたのは、高校生になってから二週間が経った休日の日。


 俺の家に、花蓮が遊びに来た時だった。


「お前は高校生になっても俺の家に来るんだな」


「い、いいでしょべつに……。はいこれ、おばさんに渡してといて」


 玄関で渡されたのは、箱入りのどら焼きだった。


「おう、さんきゅ」

「いつもお世話になってるからこれくらいね……」


 どうやら彼女なりの気遣いらしい。


 別にいいのにな……。


 でも突き返すわけにもいかず、ありがたく受け取ってから、俺は花蓮を家の中へ通す。


「ねえ、」

「ぐふっ」


 階段を上っていると、下から袖をつままれ、危うく落ちるところだった。


「私があんたの誕生日に買ってあげた人生ゲーム、まだある?」

「あ? 人生ゲームだ……?」

「もしかして、捨てたの?」

「いや、あるけど……。というか、いきなり袖を引っ張るな。危うく死にかけたぞ」


 俺がそう言うと、ちょっと嬉しそうにしながら花蓮は俺の後ろをついてくる。


「人生ゲームやりたいのか?」


 気になってそう聞くと、


「ちょっとだけ……」


 と、自信なさげな返答が返ってきた。


 よくわからんが、時間もあるし、間柄、彼女が遊びに来るときはゲームなどを一緒にやって時間を潰している。


 とりあえず自分の部屋に入り、収納棚を漁ると派手なビジュアルの箱が見つかりそれを取り出した。


「これだろ?」

「うん。ちゃんと残しておいてくれたんだ」


 いまだに覚えている。


 俺らがまだ小学生だったころ。


 毎年お互いの誕生日の時は何かをプレゼントしあっていた俺たちだが、ちょうど俺が十歳の誕生日を迎えた日だった。


 花蓮が無邪気な笑顔を見せながら、俺にこれを渡してきた記憶がある。


 俺のプレゼントだというのに、なぜかとても嬉しそうな顔をして……。


「ようやく、潤ちゃんとこれで遊べる!」

「人生ゲーム? なにそれおいしいの?」

「えー、潤ちゃん、人生ゲーム知らないのぉ?」


 不愛想な俺は、友達付き合いも良くなく、現代の流行だとか、みんなが当たり前のように知っている物も、俺にとっては未知な世界……ということもざらにあった。


 だから人生ゲームだって、この時初めてみた。


 俺は少しワクワクしながら、さっそく大きな箱を開封して遊んでみた。


 しかし内容がいまいちわからず、俺も途中から借金だとかお祝い金だとかいう単語に眠くなってきて、気づいた時には二人して寝落ちしていた……。


 次のマスが「プレイヤー二人が結婚」と書いてあることも知らずに。


「ちょっとー、私のサイコロどうなってんのよ! あんた、何か細工したでしょ」

「するかよ」


 永遠に一の目を出し続ける花蓮は自分の境遇に嘆いていた。


 日頃の行いが悪いんだろ……。


 それにしてもなんというか、久しぶりにやる人生ゲームだったが案外楽しかった。


 金銭感覚が狂いそうな部分は置いといて、簡単に世界一周旅行が行けてしまうあたり、人生イージーモードだな……。


「あ、一回休みだ……」


 三の目を出した俺は運悪く、インフルエンザにかかり、一回休みになる。


 設定がやけにリアルだなおい。


「ふん、ざまあないわ! 日頃の行いが悪いのね」

「一の目しか出さないお前に言われたくない」


 俺が床に寝そべるも、サイコロを振る花蓮。


「やったあ! ようやく六がでたわ! どれどれ……プレイヤーは、今一緒に遊んでいる人と、け、結婚……」

「ん? どうした?」


 ぴくりとも動かなくなった花蓮。


「潤ちゃん、どうしよう……私たち、結婚……」

「おう、そうか……じゃあ、仲良くゴールして終わる感じか? よかったなハッピーエンドで」


 このゲームのことはよくわからんが、カジノや務めている会社の倒産みたいなマス目がこない限り、そういうことだろう。


 しかしなぜだろう……。


 花蓮は俯いたまま動かなかった。


「というかお前、顔赤くね? 大丈夫か?」

「結婚……潤ちゃんと、私が……結婚……」

「い、いや、ゲームの中でだからな? ほら、はやくピンを動かしてくれ。じゃないと俺が進めないんだが……」

「くううううっ!」


 突如、ボシュッと湯気を出した花蓮がその場で倒れた。


「お、おい、大丈夫か!」


 傍に駆け付けるも、顔を隠したままで状態がわからない。


「体調が悪いなら、今日は帰るか?」

「ひぇっ……⁉ あ、うん、そうしよう……かな」


 何か言いたそうにしながら目を逸らす花蓮だが、具合が悪いのなら遊んでいる場合ではない。


 ゆっくりと立たせるも、フラついていて足元が覚束いていなかった。


 もしかして、熱か?


 顔も赤かったようだし……。


「ほれ」


 しゃがんで、背中に乗るように促す。


「え、どうしたの急に……? 踏んでいいの?」

「なわけあるか。その状態で帰って事故にあわれても困るからな」

「おんぶ……してくれるの?」

「昔、よくやってただろ。お前が怪我する度に、俺が背負って……」


 花蓮も得心がいったらしく、「それじゃ、お言葉に甘えて」


 それだけ言って、すっと背中に体を乗せてくる。


「なんで笑ってんだよ」

「笑ってないよ……? ただ、ちょっとだけ嬉しかったから」


 意味が分からず、首を傾げる。


 具合悪そうにしながら、なんで嬉しそうなんだよ……。


「私、潤ちゃんとなら結婚してもいいよ」

「ふん、俺はごめんだね」

「ぶう~」


 フグみたいに膨れる彼女に、思わず笑みをこぼした。


 どうせ、彼女だって本気で言ってるわけではないのだろう。


 だからこそ俺たちはいつまでも人生ゲームを終わりにできなかった。


「あのさ、花蓮」

「ん?」

「結婚はあれだけど、付き合うところからなら―――」

 

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