生きるって大変

今、俺達は仕事を終え酒場の席で話していた。


ランド「まだ話して無かったけど実は鑑定眼が成長したんだ。お陰で魔物や魔法なら弱点も何処にあるか、どう攻撃すれば良いかも分かるし、補足まで分かる様になったんだ。」


俺が色々酷い目に会っている内にランドの鑑定士の能力つまりは鑑定眼は成長していた。まぁ、成長というより進化かも知れない。

進化した鑑定眼は能力を発動して見た時、その物体に対して元々知っている事を思い出す様に情報が頭に浮かぶらしい。

例えば壺を見た時にその壺は何処の誰が作った作品か、何年前の物で何処の土を使いどういう色合いが評価されてるか、後は評価額等幾らの価値があるかというのが分かるらしい。まるで鑑定番組に出てる鑑定士の様だ。

そして他に分かる事が壺の例えで言うと"陶芸家の妻が一番好きな作品で、売らないで欲しいと言われていたが最終的にお金が無くて売る事になった。"みたいな雑学が分かるらしい。ただランドが問題にしているのはその雑学部分に辺る所だと言う。


ランド「壺の事は例えだから重要じゃないけど。人を見た時その人の名前と出身に家族構成まで分かるんだ。そしてその後"因みに"って補足が入るんだけど。」


俺「その補足に問題があるのか。で?誰を見たんだ?」


ランド「最初はたまたまだったんだ。その、バートを見たのが始まりなんだ。」


俺「バートの名前と出身に家族。で?」


ランド「ああ、それで"因みにバートはアンが好き"って出たんだ。」


少し瞬きしてから考える。アンは俺も知ってる。今はランドの部隊の副隊長でバートの同僚だ。まぁ、仕事してて同僚を好きになるのは別に珍しく無いと思う。


俺「それの何が問題だったんだ?」


ランド「いや、まだ続きがあるんだ。それから何度かバートを観察すると、確かにチラチラとアンを見ていたんだ。」


俺「ふ〜ん。それで?」


ランド「日常生活をしてる時には鑑定眼を使わない様にしてるんだ。でもある日の戦闘でいつも通り鑑定眼を使っていたんだけどその時にアンを見てしまったんだ。」


俺「要するにアンの好きな奴がバートじゃないのか。」


ランド「ああ、そうなんだ。」


俺「それはそれで仕方なくないか?それくらい普通だろう?」


ランド「俺は元々貴族だ。政略結婚が普通の俺からすると好きか嫌いかっていう感情の対処法が分からないんだ。」


俺「成程、でもこればっかりは当人同士でどうにかしてもらうしかないだろ?」


ランド「アンの好きな人が全くの知らない人ならそうかも知れないけど・・・。」


何か歯切れが悪い。知り合いって事か?誰だ?


俺「誰が相手だったんだ?」


ランド「俺なんだ。」


俺「ん?」


ランド「アンが好きな相手は俺なんだ。」


ああ、成程バートが好きなのはアンだけどアンが好きな奴はランドなんだ。だからさっき顔が赤かったのか。その上ランド自身は人を好きになった事が無い。好きでは無いけど嫌いでも無いからどうしようって事ね。それで団長が"腹を括れ"って言ってたのか。確かにこういうのは考えても仕方ない。感情の問題だ。

そしてランドにはその感情に関する経験が乏しいから苦労してるって訳か。


俺「そいつは参ったな。」


ランド「君はどうなんだ?」


俺「はぁ?」


ランド「君は大陸中を見て回ってるだろ?何か良い対処法を知ってるんじゃないか?」


いや、歩いて恋愛が分かる様になるならお前は苦労してないだろう。とりあえずそこは良いや。俺は記憶の中から過去の経験を思い出す。思い出そうとしてある事に気付く。あれ?俺ってまともな恋愛した事あったっけ?一目惚れ的な恋はした覚えはあるけど告白もしてないからな。要するに俺は恋愛を人に語れる人間では無かった。そう思うと途端に悲しくなる。


ランド「どうした?何か落ち込んでる様だけど?」


俺はなんとか動揺を抑えつつ


俺「い、いや何でもない。俺には具体的な対処法は思いつかないな。」


ランド「そうか。すまない変な事を聞いたな。」


ランドに悪い事をした。期待させといて解決出来ないとは。あ!


俺「お前が先に結婚したら?」


ランド「成程!揉める前に選択肢を潰すのか!で?相手は?」


俺「いや、それはお前が見つけろよ。・・・好きな人、とか?」


ランド「いや、だからその"好き"って感情が分からないんだ。それを基準にしたら誰が良いのか全く分からないじゃないか。」


何が哀しくて野郎2人で恋バナしなきゃならんのか?まぁ、ランドは真剣に悩んでるから放っておく訳にもいかない。


俺「"好き"って感情はいきなり現れたり、長い事一緒にあってその内見つけたりって感じだから、具体的となると説明出来ないしな。感情については待つしかないと思うぞ。誰かが言ってたけど"恋は落ちる物"だって。だから突発的に起きるまで待つしかないんじゃないか?」


ランド「落ちるのか?恐いな一体どういう状況だ?着地の仕方とか考えた方が良いか?」


俺「いや、別に物理的に落ちる訳じゃなくて・・・。」


ランド「ブツリ?」


この『世界』の学問には無いか。もしかしたら探せばあるかも知れないけど仕方ない。


俺「とにかく最悪、"着地の仕方"ってのは考えた方が良いかもな。」


ランド「やっぱり大事か?よし!とにかくいざという時の為に受け身の練習はしておくよ!」


多分、俺の言いたい事はちゃんと伝わってないと思うけど今はこれが限界だな。人間生きてりゃその内好きな人が出来るだろう。それに期待だな。その間にアンが告る可能性もあればバートがアタックして玉砕される事も考えられる。


ゲイツ「おい、野郎2人して何話してたんだ?」


俺「生きるって大変だな。」


ゲイツ「はぁ?お前、頭大丈夫か?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る