VS執事
俺はランドの恋愛事情を考えつつアイリス達を追いかけた。
今向かっているのは大陸の少し西側の海を渡った先にある島で、その奥地にある遺跡だ。その遺跡に聖剣が安置されている。
地球でプレイしたゲームだと作中では最強の攻撃力を誇る聖剣で空気中の魔力を使い氷魔法が使えるという物だ。空気中の魔力を使うから使用者が消費する事なく魔法が使えるという事で残りの魔力を気にせずに使えるのがありがたい聖剣だ。
弱点を挙げるなら通常攻撃が氷属性になるから氷が効かない奴が相手となると役に立たない所だ。
普通の商船だからアイリスと合流するまでもう少し掛かりそうだ。アイリスは公爵の権限で大船団を組んで島に向かった。俺は近くの港でその島に向かう行商人に乗せてもらって移動している。
そして今は到着するまで暇だからランドの恋愛問題を考える事にしていた。
アンから告白されてない内に、ランドから友達になろうと近付いたらバートはどう思う?自分と同じくアンを狙ってたのか?って話になるだろう。諦めるなら良いけど。逆にストーカーみたいになって刺されたりとか?不味いよな。
逆にアンを振るか?バートにはチャンスだ。優しくすれば芽も出て来るかも知れない。でも下手するとアンは仕事自体辞めて、あそこを出て行くかな?しくじればバートもいなくなるな。やっぱ、結婚か!誰と?
う〜ん。手詰まりな気がする。
船のデッキで空を見る。青い空が広がっている。空の色は地球と一緒だな。
何故俺が人の恋愛で悩まねばならないのか?謎だ。
俺「ふぅ〜。」
溜め息が出る。
海賊1「喰らえ〜。うぉ!」
俺は回転して突っ込んで来た奴を躱す。船の上にいるから揺れるのは当然だ。勢いが余ればバランスも崩す。
海賊1「おっとっと!うぎゃあ〜!」
バランスを崩してるそいつの尻を蹴り上げてデッキから海に落とす。
海賊2「おい、こいつやるぞ!気を付けろ!」
海賊3「取り囲め!」
俺「今色々考え事してるんだけど。他、当たってくれよ。」
海賊2「ふざけんなぁ!」
海賊3「テメェ、余裕かましてられるのも今の内だぞ!」
何処の『世界』の人間も大体言う事は同じみたいだ。はぁ、しかし参った。元貴族にいきなり自由恋愛は難しいよな。根っからの平民である俺にすら難しいのに。
俺「う〜ん?」
海賊4「おい!こいつ何か考え込んでるぞ!一斉にかかればいけるじゃないか!」
海賊3「いや、何かの罠かも知れない。それでさっきも1人落とされた。」
海賊5「だがそれでこのまま見てるだけって訳にも行かないだろ!」
そういえば俺が乗ってる船は今現在海賊の襲撃を受けている。まぁ、彼等は彼等で生きるのに必死なんだろう。その気持ちは分かる。だけど今はランド達の人間関係で頭が一杯だ。放って置いて欲しい。
海賊2「チッ!やるぞ!気を抜くな!」
海賊達「応!」
海賊の3が剣を振り下ろす。その腕を掴みながら足を蹴り身体を浮かす、そのままの勢いを利用して思いっ切り海へ投げ込む。
海賊3「うおわぁ〜!」
海賊5が距離を詰め、突きを放つ。俺はそれを躱しながら足の甲を思いっきり踏む。
海賊5「ぎゃ!ぐが!」
足の痛みで意識がそっちに向く、そのタイミングで首の後ろを手刀で打ち気絶させる。
海賊2「野郎!」
海賊4「行くぞ!」
海賊4が剣を突き出すが左腕で持ち手を弾き、直ぐに裏拳を顔面に入れる。そして今度はボディブローを入れる。
海賊4「がぁ!ぐふっ!」
苦しさで膝をついたタイミングで顎を蹴り上げ気絶させる。そういえば2がいない。視界から消えたなら普通に後ろからの奇襲か。
海賊2「死ねぇ〜!」
予測通りで助かる。回転して躱し、回転の勢いをそのまま回し蹴りに使い海賊2の後頭部を蹴り、床に叩き付ける。
海賊2「ぐがっ!」
これで少し静かになった。俺は船の手すりに肘をつく。
俺「ふぅ〜。」
溜め息を吐きながら考える。まぁ、確かに他人の事で、俺が悩むのは間違いかも知れないが一度気になり出すと放って置く事が出来ない。タチの悪い話だ。どうしたものか。
船員1「なぁ、あんた。」
俺「ん?」
船員1「そんなに強いなら手伝ってくれよ。」
俺「後3、4人だろ?船乗りの数の方が多いんだから何とかなると思うけど。」
船員2「いや、そういう事じゃねぇだろ?第一このままだと船も進まねえ。あんただって困るだろ?」
俺「はぁ、たくっ。仕方ない。俺も悩みがあって大変なんだけどな。」
船員1「何に悩んでるんだ?」
俺「友達の恋愛事情。」
船員1「・・・・。」
船員2「・・・・。」
俺「・・・・。」
船員達「今はそんな場合じゃないだろう!」
何か怒られた。確かに敵がいる時に考える事じゃないとは思うけど、そもそも残りの海賊くらい俺がいなくてもなんとか出来るだろうに。
ともかく事件を解決するか。他の船員達にやられた海賊は死体になったが、俺は素手で倒したから7人の海賊達を生かして捕らえられた。
そして目的地の島にたどり着く。
船長「あんた強いなウチの乗組員にならないか?」
俺「いや、俺こう見えてもやる事が山程あるんだよ。」
船長「そうかい。気が変わったら来てくれよ。」
とりあえず港町にある酒場へ行く。小さい島だから冒険者のギルドとかは無い。この島で情報を集めるなら酒場しかないと思うから来たけど。いつも通り"何だこいつ"って顔で睨んで来る。怖いからやめて欲しい。
マスター「らっしゃい。」
俺「なぁ、どっかのお偉いさん達が遺跡の調査に来てると思うけど。何処に行けば会えるかな?」
マスター「そんなの実際来てても情報は入らないよ。あ!そういえば領主邸に物々しい感じで人が来ていたって話を聞いたな。」
それだな。
俺「ありがとう。」
マスター「あんた何も頼まないの?」
俺「悪いね。俺これから仕事でさ。飲んでいられないんだ。今度頼む。」
マスター「はぁ、分かったよ。」
とりあえず領主邸に向かうと見た事のある執事が門の前にいる。確か王都襲撃の時、使用人の中にいたな。話した事は無いけど。
若執事「おや、来たのですか。後少し遅ければお嬢様の所に行くつもりでしたのに。」
何だこいつ俺の迎えか?てか顔面偏差値、高!
眼鏡まで掛けてる。しかもフレームの少ないオシャレ眼鏡だ。
俺「あんた迎えか。アイリスは?案内してくれ。」
若執事「アイリス"様"でしょう?全く何故お嬢様は貴方の様な輩を傍に置こうとするのか。」
話が長くなりそう。遺跡の場所は把握している。この場にいないなら遺跡だろう。このまま遺跡に向かおう。執事の横を抜ける。
俺「まぁ、良いや。行くぞ。」
若執事「断る!」
俺「はぁ?」
振り向くと左手の手刀が来る。右に躱すがさっきの手刀が俺を追いかけてくる。俺は左腕で防ぎそのまま相手の左腕を掴む。右手で肩を掴み執事を投げる。顔面偏差値に負けないくらいのカッコいい受け身で綺麗に着地をする。埃を払う。
若執事「はぁ、腕だけは確かだな。だがやはり貴様がお嬢様の近くにいるのは害悪にしかならん。ここで徹底的に打ちのめしてお嬢様の前から消えてもらう。」
要は腕試しって事か。
若執事「その剣を抜くなら抜け。それが飾りでないならな。」
口の端を吊り上げて言う。
俺「いや、別に必要無いだろう?どうせ腕試しなんだから。」
若執事「それは私相手に本気を出す必要は無いという事か?」
ん?そういう意味じゃないよな?あれ?意味的に一緒か?
俺「なぁ、眼鏡外した方が良いんじゃないか?」
若執事「必要ない。顔には当たらないからな。」
へぇ、一発当ててやりたいな。
若執事「父上から戦闘の手ほどきを受けている。防御も回避もな。それこそ暗殺も出来る。」
そう言うと視界から消える。何かさっきも見た様なパターンだ。大体、視界から消える以上正面から攻撃って無いよなと思った途端、俺の真下に現れアッパー気味の掌底が迫る。スレスレで躱したが、流石にビックリした。
若執事「油断したな。」
俺「ああ、マジで油断した。というか親父さんって?」
若執事「私の一族は代々スワロウ公爵家の執事をしている。」
うん?って事は
俺「アイリスと初めて会った時の爺さん。あれが親父さんか?」
若執事「ああ、あの時程父が悔やんだ事は無い。お嬢様が坊っちゃまを優先したが故、動く機を逃したのだ。さぁ、手早く済ませるぞ!」
少し気を引き締めよう。また視界から消える。
今度は後ろだ。右の手刀が俺の首を狙う。頭を下げて躱し、それと同時に後ろに向けて蹴りを入れる。この執事、中々やる様で俺の蹴りを左腕でガードする。
門番1「こいつ等何なんだ?ヤバくないか?」
門番2「あの執事は公爵令嬢の使用人だろ?で?あの男は?」
門番1「話の感じだと公爵令嬢の客か仲間かな?」
門番達の暇そうな話し声が聞こえる。こっちはそれ所じゃないんだけど。
何処で覚えたか分からないボクシングスタイルの構えで執事が走って来る。いわゆるジャブとストレートのワン・ツーってコンビネーションを放つ。俺は左右に半身で躱すが、続けて左フックが放たれる。俺はそれに合わせる様に左ストレートを出す。カウンターを使ったつもりだけど執事が首だけ動かして躱す。
そこで気が付く。これ腕試しか?俺、手加減出来てないというよりお互いかなり本気な感じだけど。
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