ランド
シリウスが目線で頑張れと言っている。俺は頷き、目の前の戦士とガンクと名乗った魔法使いの男、2人と対峙する。今日は不思議と集中出来ている。普段から気を抜いたりはしないが今日はいつも以上に落ち着いている。理由はシリウスだと思う。シリウスがこの場にいるお陰か俺の集中力が特に上がっている気がする。
俺は隊長だ。戦場では常に状況を見て援護に周る。敵を躱しながら仲間を助けるのが俺の仕事だ。だが今日は違う。部下達も成長して俺の代わりをしてくれているが、それ以上にシリウスがいる。俺は心置きなく目の前の敵に集中出来る。
ガンク「くそ!他の援護はどうした!」
戦士「あの傭兵が邪魔してるみたいだな。」
ガンク「何だあいつは!」
ランド「フッ、俺の友達さ。」
ガンク「それで説明になるか!」
ランド「確かに、他にもあいつに対しての情報はある。けれどそれをお前達に伝える義理は無い。」
ガンク「何を!」
戦士「確かにな。俺はギル・バースだ。」
ランド「前から気になっていたが、魔族は皆んな性があるのか?」
ギル「ああ、魔王様の考えさ。"我々は人族とは違う。敢えて平民だ貴族だと分ける必要は無い。皆が平等にあるべきだ。"とな。」
俺はそれを聞いて悪くない考えだと思った。
ランド「それは素晴らしい志だな。」
ギル「ふん。人族にもそんな考え方をする人間がいるとは思わなかったぞ。」
ランド「理解は出来る。だが俺にも護りたい家族や仲間がいる。」
ギル「分かっている。俺達は相容れない。お互いの信条をかけて戦おうじゃないか。」
俺がフッと笑った瞬間、ギルの後ろから火の玉が飛んで来た。俺は素早く打ち落とす。
ギル「貴様!」
ガンク「馬鹿か?これは戦争だぞ!」
当然だ。それを卑怯とは言えない。それに多分シリウスはそんな状況でも物ともせずに彼等を討つだろう。俺も負けてられない。
ランド「気にするな。この程度なら大した事は無い。」
ギル「フッ、そうか。」
ガンク「何だと!」
ギル「なら俺も遠慮せず行くぞ!」
振り下ろされる剣を受け止め、鍔迫り合いになる。押し合いから離れた瞬間、俺の首を刎ねようと横薙ぎに剣が迫る。それを頭を下げて避ける。直ぐに斜め下から斬り上げるが、ギルは退がって躱す。『鑑定士』の能力で、ガンクの魔法の射線にギルが入る様に立ち位置も考えて動く。
ガンク「くそ!邪魔だぞ!」
ギル「それならお前が動けば良い。」
2人の仲は良くない様だ。その隙を突いて接近するとギルが俺の方を向き剣を振る。
ギル「甘いな。その程度では俺は討てんぞ。」
ランド「そうだな。だけどこっちもここからさ。」
ギル「フッ、行くぞ!」
ガンク「何を悠長に会話をしている!さっさとそいつの動きを止めろ!」
ギル「ただ見ているだけで、何もしていないお前が何を言う!」
また喧嘩を始める。だがこっちものんびり眺めてる場合ではなくなった。凄い足音がする。振り向くとかなりの大きさの魔獣が現れる。あれは噂に聞くベヒーモスだ。
ガンク「おお!来たか!」
ギル「チッ、あんな物まで出すとは。」
確かに普段なら窮地と言えるが何故か今日は気にならない。
シリウス「おい!ほら、こっち来い!」
シリウスがベヒーモスを引き付ける。
ガンク「あの傭兵を殺したら直ぐにこっちの援護に来させるぞ。」
ギル「そうなればもう終わりか。ならばその前にケリを着けるぞ!」
ランド「フッ。」
ガンク「何を笑っている!」
ランド「いや、今日は運が無かったなと思っただけさ。」
ガンク「フン。今更後悔しても遅いぞ。」
ランド「いや、運が無いのはお前達の方さ。」
ガンク「はぁ?」
ギル「あの傭兵がベヒーモスに勝てると思ってるのか?」
ランド「ああ、あいつなら勝てる。そう感じるんだ。だから俺はお前達だけに集中すれば良い。」
ギル「大した信頼だな。」
ガンク「馬鹿め!ベヒーモスに単独で勝てる人間など世界広しと言えど魔王様だけだ!」
ランド「魔王はそんなに強いのか?」
ギル「魔法は使わず剣のみでな。と言っても魔王様は魔法がほとんど使えないがな。」
ランド「そんな情報、俺に流して良いのか?」
ガンク「そうだ!何故話す!」
ギル「あの方はその程度の情報では揺るがない。それにここで倒せば他に漏れる事はない。」
ガンク「チッ、やるぞ!」
いつの間にか炎の槍が出来上がっていた。あんなに腹を立てていたのに案外冷静に作戦を考えていたみたいだ。俺は向かって来る槍の弱点を『鑑定士』で見極め砕く。そして一気に距離を詰める。
ガンク「のわ!」
ギル「させん!」
俺の剣を受け止める。押し返され、反撃される。俺はその横薙ぎを躱すがギルは続けて振り下ろしてくる。俺はシリウスがよくやる手を思い出し、咄嗟に迫る刃の動きに合わせ剣を打ち落とす。
ギル「ぬお!」
ドンッとギルの剣は地面に刺さり、完全に無防備になった。俺は仕留めに掛かる。
ガンク「甘い!」
火の玉が来る。打ち落としながら後ろに退がる。その間にギルは剣を抜き、体勢を整え構え直す。ここに来て息があって来た。俺も構え直し呼吸を整える。
ガンク「ベヒーモスはまだか!」
ギル「あまり期待出来そうに無いな。」
シリウスの方を見る。突進を躱しながら斬り付けている。相変わらず相手に触れさせていない。凄い奴だ。
ランド「さぁ、そろそろ終わらせよう。」
ギル「良いだろう。決着を着けるぞ!」
ガンク「ベヒーモス!今直ぐそいつを殺してこっちに来い!」
ガンクはこっちを見てない。勝負は俺とギルの一騎打ちになった。ギルが剣を振り下ろし、俺はそれを受け流すと直ぐに反撃するがギルもそれを躱し何度目かの鍔迫り合いになる。だが次の瞬間ドンッと大きな音がした。そして音の方を見たガンクとギルは驚き固まっている。俺はその隙を突きギルを肩から斬り捨てる。
ギル「ぐぁ!馬鹿なベヒーモスを倒せる人族がいるとは!」
俺は振り返る。シリウスがベヒーモスを倒していた。
ガンク「こ、こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!ひ、ひゃ〜!」
ガンクは逃げていく。ここで追撃しておいた方が良いかも知れないが流石に疲れた。シリウスの方に向かう。
ランド「流石だな。」
シリウス「そっちは大丈夫なのか?」
ランド「ああ、戦士は倒した。だけど魔法使いの方には逃げられた。」
シリウス「じゃあこの歓声はランドか。」
ランド「いや、君だろ。」
シリウス「え!」
相変わらず自分には無頓着な男だ。俺はベヒーモスを指差す。他の傭兵達が集まり話している。団長達もシリウスの事で色々話しているみたいだ。
ゲイツ「野郎共!引き上げるぞ!」
団長の号令で皆んなが都市に戻る。
シリウス「なぁ、何か悩みがあるんだろう?」
シリウスが話しかけて来た。多分出撃前の団長としていた時の事だろうな。
ランド「実は鑑定士の能力である鑑定眼なんだが、君の魔力線のお陰か成長したらしくて分かる情報が増えたんだ。そこは良いんだけど。補足で入る情報の方に問題があるんだ。」
シリウス「何があったんだ?」
ランド「鑑定眼が発動中に人を見るとその人の好きな人が分かる様になったんだ。」
シリウス「はぁ?」
何の話だ?って顔をしている。確かにこれだけだと分からないよな。
ランド「都市の方で話そう。」
シリウス「お、おう。」
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