久しぶりの失態

地球にいた時、高校生の頃の同級生が"男に天然を使うな。天然ってのは女の子に使う物だ。"と力説していた。正直天然に対する概念が分からないからふ〜んって感じで流してたが、今も違いは分からない。とにかく奴は天然という事で話しを進めようと思う。


俺「その天然の相手変わろうか?」


ランド「いや、大丈夫だ。何より俺のお客さんだからな。」


俺「じゃあ俺は邪魔が入らない様に周りを警戒しとくわ。」


ランドと魔族の魔法使いが戦闘を開始する。はっきり言って普通ならランドが不利だ。魔族は火の玉を次々出してランドを接近させない様にしている。その上、火の玉以外に槍みたいな物まで作り出し攻撃しようとしている。ただ鑑定士という職業故か"見る"事には向いているらしい。火の玉の来る順番や位置を正確に把握して打ち落とす。元々ランドの身体的なポテンシャルが高いんだろう。見えても反応できるかは本人の努力次第だと思う。ガンクはランドの動きに驚き、槍の形成に手間取っていた。その隙を逃さず距離を詰める。結局焦りから一本しか出来ずそれをランドに放つガンク。そんな槍で止められるランドじゃない。弾いて更に距離を詰める。


ガンク「ひゃ~!」


変な悲鳴が聞こえた。これで終わりだなと思った瞬間、戦士が現れランドの剣を受け止める。


ランド「な!」


ガンク「お、遅いぞ!」


戦士「いや、お前が第一師団の奴は要らないと言って離れたんじゃないか。」


ガンク「う、うるさい!」


おいおい、今更増援か?

とにかく行くか。そう思うと今度は何処からか魔法使いが2人程現れる。魔族側の奴だ。ランドに向けて魔法を放つつもりだ。俺は足下の胡桃サイズの石を拾い、魔法使いの頭部に投げ付ける。呻き声と共に倒れ、残った方が俺に気付くと俺に向かって攻撃してくる。狙い通り注意がランドから俺に逸れた。ランドは2体1だけど1人はあれだから大丈夫だろう。多分戦士の方が厄介だと思う。ランドと目が合う。口には出さないが、"頑張れ"の意味を込め頷くとランドも力強く頷いた。俺は魔法使いの攻撃を掻き消しながら距離を詰める。


魔法使い「が!」


思いっ切りブン殴ると倒れて気絶した。さっき石をぶつけた奴も息はしてるが気絶してる。ランドは戦士と鍔迫り合いをしてる。ガンクは魔法を使って攻撃してるが、今の所牽制にもなっていない。戦士と連携出来てないからガタガタだ。ランドはそこを狙ってガンクの動きをほぼ封じてる。あいつ凄ぇなと感心しながら観戦していると地面が揺れ、それと同時に足音も聞こえて来た。足音からかなり図体がある奴だなと分かる。見るとベヒーモスがこっちに近付いて来る。戦場に到着すると直ぐにランドの方を見ている。流石にあんなのまで相手にしてたらキツいだろうな。


俺「おい!ほら、こっち来い!」


手を叩いたり、手招きしたり色々やってベヒーモスの注意を引く。ベヒーモスでも挑発されたのは分かったらしく俺を睨んで来る。

見た目は一角獣の様に額の辺りに一本の角があり、顔はネコ科の動物に近いくらいで口は短く、足は狼の様だが尻尾は牛だ。地球の漫画やゲームのベヒーモスとそんなに変わらないと思う。体格は大体、小型のトラックくらいか?どう戦うか。

ふと足下を見ると何処から飛んできたのか、魔法使いのローブが落ちていた。前を閉め襟の所から袖に左腕を通しローブの脇腹辺りを摘み、差し詰め闘牛士のマントの様にヒラヒラさせる。

そういえば地球にいた頃聞いた話だけど、牛の目は色の識別が出来ない。だからマントの赤色は見てないらしい。マントの赤色で興奮するのは観客で牛が興奮してるのはヒラヒラしてるマント自体だと言っていた。結局、人も牛もマントで興奮してるなら生物の感覚というか本能というのは皆んな一緒なのかも知れない。

この話が果たして魔獣という類に当てはまるのか?ここに来て試す事になるとは。失敗すれば死ぬ可能性があるから他の人には勧められないけど。さて、やるか。


ベヒーモス「ガァー、グワゥ!」


やはり興奮するか。頭上下に動かし、前足で地面を掻く。俺はローブをヒラヒラやりながら待つ。ベヒーモスが頭を下げて向かってくる。俺はギリギリで突進を躱しながら右に移動する。俺はベヒーモスの左脇腹をバツの字に斬り付ける。


ベヒーモス「グガァ!」


急いで俺から離れる。そして体勢を立て直し俺の方を向く。先程と同じく地面を掻き走り出す。俺はローブで上半身を隠す様に腕を上げる。ベヒーモスはローブに向かって突進するが俺は既に身体を半身にし、難なく躱し今度は左へ。次は右の脇腹を斬る。


ベヒーモス「ガオゥ!」


再び俺から離れ距離を取る。次こそ決めると言いたげな目で俺を睨む。そろそろ本気で片付けるか。俺は腕が抜ける様ローブをズラす。今まで以上の全速力で突進してくるベヒーモスの顔に俺はローブを放る。


ベヒーモス「ガァー!」


流石に驚いたのか急ブレーキをかける。俺はその隙に右へ移動する。良い高さの位置に奴の首が俺の前へ現れる。俺はベヒーモスの首を兜割りで切断する。急ブレーキをかけたが勢いは殺しきれなかったんだろう。身体が前転する様にひっくり返る。俺は潰されない様直ぐに退がる。

凄い音を出しながら倒れるから、俺はかなりビックリした。その後いきなり歓声が上がる。


俺「うぉ!」


何か凄い事が起きたのか?大歓声で2度目のビックリが起きる。振り返ると皆んなが俺の方を見ていた。魔族と冒険者達はポカンとしてるが傭兵達は歓声を上げていた。

え?何で?そう思ってると


ランド「流石だな。」


ランドが俺に話しかけて来た。ランドも勝ったらしい。


俺「そっちは大丈夫なのか?」


ランド「ああ、戦士は倒した。だけど魔法使いの方には逃げられた。」


俺「じゃあこの歓声はランドか?」


ランド「いや、君だろ。」


俺「え!」


ランドがベヒーモスの死体を指さす。傭兵達が集まっていた。


傭兵1「よくこんなの倒せたな。」


傭兵2「あの人、噂以上だったな。」


傭兵3「まさに剣聖魔人。剣聖の様な技に魔人の如き強さ。」


ん?団長の考えた意味と違う様な気が?


ゲイツ「おい、あいつ今何した?」


ティム「うん?細かい事は分からないけど、ベヒーモスの単独撃破じゃないか?」


ゲイツ「あいつ人間だったよな?」


ティム「俺達が初めてあった時は間違いなく人間だったと思うぞ?」


ゲイツ「数ヶ月見ないだけで何でああなるんだ?」


ティム「俺に聞かれてもなぁ。」


ダン「何言ってんですか2人共、よく見てください。あれはシリウスですよ。数日見ないだけで化け物みたいに強くなるのはいつもの事でしょう?そんな事で驚いてたら倒れちゃいますよ。」


ジーク「俺もそう思う。というかあいつ土産持って来てないな。戻ってくるならあって然るべきだと思うが。」


ゲイツ・ティム「まぁ、確かに。」


俺「おい!そこは納得する所じゃないだろう!」


ティム「いや、でもなぁ。」


ゲイツ「もういい。俺は気にしない。見なかったことにする。」


ジーク「確かに納得するべきじゃないな。シリウス、土産はどうした?」


俺「いや、あんただけ話の論点がズレてるよ。」


ゲイツ「野郎共!引き上げるぞ!」


俺「俺の話は?」


その後皆んな都市に帰る。俺は納得出来ないが1人で立ってても仕方ないから帰る事にする。

そういえばベヒーモスの単独撃破だが、考えると何か既視感を感じる。デジャヴって奴か?いや、違うな以前誰かと話した話題だ。あ!思い出した!アイリスだ。確かジンがベヒーモスを単独撃破したって話を聞いた時だ。他の奴から一目置かれるより関わっちゃ駄目みたいな評価を受けてるって内容だったよな?うん?って事は俺かなりとんでもない事したのか?そういやゲームでも中々単独撃破なんて狙わない。

要は俺がゲームでも中々やらない単独撃破を生身でやったんだ。そりゃ普通に引くな。今更気にしても仕方ないけど。

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