天然

俺は座禅を組み精神統一していた。


ジン「なぁ、大丈夫か?」


俺「何が?」


ジン「何となく腹立ててないか?」


そりゃ一回負けたくらいで酷い目に遭ったからな。次会ったらただじゃおかない。


俺「次は負けないと集中してるだけだ。」


エレナ「それより本当に一緒に行かないのか?」


俺「いや、用事片付けたら直ぐ行くよ。」


エレナ「用事ってお前がいた辺境都市の様子を見に行くんだよな?それが終わってから一緒に行けば良くないか?」


ジン「確かにな。その方が良い気がする。」


俺「おい、こっちには時間が無いんだぞ。俺の用事で変に時間使う訳にいかないだろ?」


エレナ「それにしても私達が行く必要無いだろ?」


俺「世界広しと言えどアイリスを助けられるのは皆んなだけだろ?力を貸してやってくれよ。」


エレナ「お前、あの女の事になるとムキになるな?どういう事だ?」


怒るなよ。今はそんな場合じゃないんだけど。


ジン「まぁ、落ち着けよ。シリウスもそんなにかからないんだろ?」


俺「う〜ん、多分。」


ジン「それじゃあ俺達先に行ってるから、ちゃんと来いよ。」


エレナ「おい!まだ話は終わってないぞ!」


ジンがエレナを連れて行く。これで少し静かになる。アイリスは親父さんの用意した私兵も連れて行くからそこまで危険は無い筈。出ても普通の魔物なら大丈夫だろう。

こっちが用事を済ませて合流すれば良い。久しぶりに団長達やランドの顔を見に行こう。慣れ親しんだ都市、イージスに到着する。


俺「よう。」


バート「あれ!シリウスさん!どうしたんッスか?」


俺「様子を見に来たんだ。ランドや団長は?」


バート「ランドさんと団長は執務室で話し合いッス、今も魔王軍が定期的に攻めて来るんでいつもしてる打ち合わせです。」


俺「そうか。でも今まで通りならそんなに大変じゃないよな?」


バート「いや〜、今攻めて来てるのは第二師団って奴等ッス。」


第二師団?魔法専門部隊だ。魔法がほとんど使えない傭兵には荷が重いか?


バート「シリウスさんが教えてくれた魔法を消す技のえ〜と?魔力線でしたっけ?あれのお陰で何とか対抗出来てます。それに冒険者も協力してくれてますから。」


俺が教えた事が役に立ってるなら良かった。とりあえず詰め所に行ってみるか。


ティム「お!シリウスじゃないか。フン、まだ無事みたいだな?」


俺「お陰様でね。あんたもまだ無事みたいだな?」


ティム「フッ、当たり前だ。今日はのんびり出来るのか?」


俺「今日は流石にここに泊まるけど明日には行かないと。」


ティム「お前も忙しいな。身体壊すなよ。」


俺「フッ、お互いにね。」


中に入り、知ってる奴に挨拶する。顔馴染みの奴は全員無事みたいだ。知らない奴等も見かける。だけどそういうのは大体"あいつ何者だ?"って顔で睨んでくる。

傭兵だから舐められない様に威嚇するのは仕方ないけど、相変わらずこの空気は好きじゃない。怖くて逃げたくなる。

あまり理解されないかも知れないが、ガラの悪い連中に睨まれるより魔王と戦ってる方が気が楽な感じがする。集中力の問題だろうか?とりあえず団長の所へ向かう。


ゲイツ「よう、まだ生きてるみたいだな小僧。」


ランド「シリウス!久しぶりだな!」


半笑いで皮肉を言う団長と普通に歓迎してくれるランド。対照的だけど慣れ親しんだ雰囲気に少し安心する。


ゲイツ「で?何しに来たんだ?」


俺「いや、ただの様子見。」


ゲイツ「暇人か。」


ランド「シリウスらしいじゃないか。」


俺「生憎暇じゃない。行かなきゃいけない所があるから明日には出て行くけど、最近色々大変だろ?だからこその様子見だ。」


ゲイツ「へぇ〜、そっちは大変だな。ウチは今の所困ってないから良いがな。」


俺「そういえば今戦ってるのは第二師団だって?魔法使いが相手だろ?」


大変だとしても俺に出来る事は戦うしかないから、あまり難しい事言われても困るけど。


ランド「以前、君に教えてもらった魔法を掻き消す技が役に立っているからそれ程苦戦はして無いよ。」


確かに魔力線については教えたけどそんな皆んなホイホイ使える様になるのか?疑問に思い聞くと元々少なからず魔力があるのがこの『世界』の人間だ。魔力が少量でも操作する力が付けば、流れも感知出来る訳で俺が苦労して得た技術は、傭兵達にとっては意外と簡単に覚えられる物だった様だ。魔法も使わないのに操作の練習をする必要が無い。だから分からなかったという事みたいだ。下手すると冒険者はそれより簡単に修得出来るかも知れない。お陰で皆んなが無事なのは良いけどなんか複雑な気分だ。


ゲイツ「あえて言うが、お前のお陰で俺達は今生きてる。お前の努力が無かったらいつ死んでもおかしくなかったんだぞ。」


ランド「ああ、皆んな君には感謝しているんだ。」


顔に出てたのか?慰められている。


俺「まぁ、役に立ったなら良かった。」


2人と話していると敵襲の鐘が鳴る。慣れた物で何の会話が無くとも一気に下へ駆け降りる。


ゲイツ「今は客人だ。出なくても良いぜ。」


俺「付き合うよ。どうせ今日は世話になるし、何かしないと悪いだろ?」


ゲイツ「フッ、そこまで言うなら少し手伝って貰うか。ランド、準備は出来てるか?」


ランド「大丈夫だ。アンとバートが代わりに準備してくれてる。」


ゲイツ「あいつ等ももう副隊長だしな。それくらい出来るか。」


俺「え!あいつ等出世したの?」


ゲイツ「ん?言ってなかったっけ?そもそもランドが出世して管理する人数が増えたから、あいつ等が副隊長になったんだ。」


ランド「新人の教育係りみたいな役割りは変わらないけどな。他にも色々変わって大変だけど。」


ん?何かあったのか?


ゲイツ「お前まだ悩んでるのか?いい加減、腹括れよ。そういうのは考えても仕方ないんだぞ。」


ランド「いや、言いたい事は分かるけどそう簡単に切り替えられないんだ。」


案外深刻な悩みかな?それにしても空気が変だ。というかランドの顔、赤くないか?もしかして恋の悩みとか?え?あのランドが?

でも人を見た目で判断するべきじゃないか?俺が知らないだけでそういう事があっても不思議じゃない。


バート・アン「準備は出来ています。」


2人が声を揃えて言う。


アン「あれ?シリウスさん?戻っていたんですか?」


俺「ああ、と言っても明日にはまた直ぐ行かないといけないけど。」


ランド「さぁ!仕事だ皆んな行くぞ!」


ゲイツ「野郎共!気合い入れて稼ぐぞ!」


傭兵達が叫び外に出る。俺も外に出ると


?「おい、貴様!」


以前見た冒険者だ。え〜と名前は


俺「青春の風?」


リーダー「全然違うわ!そんな爽やかな名前じゃない!」


魔法使い「蒼天の天馬よ!」


俺「ああ、違ったか。ごめん、興味無かったから綺麗に忘れてた。」


ランド「シリウス、失礼だぞ。多分あれでも一生懸命に考えた筈だろ。」


戦士「貴様も失礼だぞ!」


弓使い「類は友を呼ぶって奴ね。」


俺「で?何の様?」


リーダー「生憎だが今はお前に興味は無い。おい"鷹の目"気持ちは決まったか?」


"鷹の目"?・・・・多分、この状況から考えてランドの事だな。


ランド「いや、その事なら前に話した様に断るよ。俺にもやる事がいっぱいあって人に手を貸す事が出来ないんだ。」


リーダー「何だと〜!」


前に断ったなら今回だって断られる事も想像出来るだろう?相変わらず分からない奴だ。


俺「おい!そろそろ始まるぞ!さっさと配置に着けよ!」


戦士「はぁ、行くぞ。」


冒険者達はリーダーを引きずりながら去って行く。俺はそれより気になった事を聞く。


俺「"鷹の目"って?」


ランド「いや、俺も知らない間にそう呼ばれ出してよく分からないんだ。」


ランドは鷹みたいに目付きが鋭いって訳でも無いし、瞳にそれらしい模様があるとか鷹の要素は無い。後考えられるのは"鑑定士"絡みかな?

それから数分後、戦闘開始になった。

魔法が飛んで来る。普通は飛び交うと表現したいが、数える程度の冒険者意外は魔法が使えない傭兵だ。こっちから飛ばす事はほぼ無い。戦況を考えれば一方的な結果になりそうだが、俺の教えた魔力線が役に立っているみたいで一進一退という感じだ。安心したけど気分はやはり複雑だ。

ただ大事なのがこの技術は武器ではたき落とす技術で人体に無害化する訳じゃない。落とし損ねると当たる。下手な所に当たると死ぬのは同じ。その見極めは経験値の差だろう。少し経つとはたき落とす事が出来なくなる奴が出て来る。


傭兵「済まねえ。」


俺「気にするな。」


俺が代わりにはたき落とす。とりあえず他に危ない奴を助けてしばらく駆け回る。ランドが誰かと対峙しているのが見える。


魔族「私は第二師団、四天王の1人アンリ・グラス様の右腕ダニエル・ワンス様の命令で貴様を討ちに来たガンク・ワーナーだ。」


ランド「そ、そうか。」


魔王軍はあんなのしかいないのか?


俺「要は下っ端の下っ端な?」


ガンク「下っ端とは何だ!魔王軍において最強と言われる魔導師部隊の隊員だぞ!私はこの"鷹の目"を討つ為に来た。」


また"鷹の目"か何でだ?


俺「なぁ、何で"鷹の目"?」


ガンク「フッ、そんなに知りたくば教えてやろう。」


話してくれるみたいだ。そこまでしつこく聞いて無いけど、興味があるから黙って聞いてみよう。


ガンク「その男は我々がどんな作戦を仕掛けても、瞬時に見抜き戦況をひっくり返す。こちらの攻撃も全てはたき落とす。鷹の様に相手を見据えその全てを潰す。だからこそ"鷹の目"と名付けられたのだ。」


俺「だって。」


ランド「何か過大評価な気がする。」


俺「色々話してくれてありがとよ。」


ガンク「フッ、礼を言われる程では無いが、感謝しろよ。」


俺「俺が今言ったの皮肉だよな?」


思っていた反応と違うから自信が無くなる。俺は確認の為ランドに近付き耳打ちする。


ランド「普通は皮肉だと分かると思うけど、彼は多分天然という奴なんじゃないか?」


俺「天然かぁ。」


ガンク「フン、コソコソ話して作戦会議か?そろそろ終わらせるぞ。」


怖いな天然。

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