魔王
俺は直ぐに刀を抜く。別に気を抜いていた訳じゃない。相手の膂力もある所為で押し込まれそうになるが、何とか押し返す。
魔王「フン、使徒なだけはあるか。」
俺「危ねえ!ビックリした!」
魔王「交渉が決裂した以上、強制排除しかないからな。」
こいつとしては当然か。俺は深呼吸をして構え直し、意識を集中する。それを見た魔王も構える。正面から振り下ろされた剣と俺の刀がぶつかり鍔迫り合いになる。お互い踏ん張るが少し押される。お互い弾かれた様に距離が空く。体勢を立て直すが体格差か魔王が俺より早く立て直し次の行動に移る。
横薙ぎに振られた剣を伏せて避けると右側からバチッと音がした。高台の手すりにあるオブジェが吹っ飛んでる。あの位置に頭置いてたら確実に無くしてた。
今度は俺が一歩踏み込み突きを出す。魔王は身体を半身にして躱しながら俺の左側に動く、俺は刀の向きを変え魔王を追いかける形で振る。
魔王「フッ」
次の瞬間、視界から消えた。俺の刀の下を潜り今度は俺の右側に移動していた。そして俺を回転させる程の力で刀を払う。お陰で俺は背中を向ける事になった。この状況で正面を向くのは無理だ。
俺「この!」
右足に力を入れてそのまま一回転、俺は素早く左脚で蹴りを入れる。
魔王「くっ!」
魔王も流石に意外だったのか、蹴りを喰らい退がる。ただ直ぐに立て直し、また向かって来る。俺はタイミングを合わせ、腰を深く落とし兜割りをする。しかし魔王はこっちの攻撃を受け流し更に踏み込む。
今度は魔王の兜割りだ。俺は力を攻撃に全振りした様なもんだ。今から防御は間に合わない。俺は前転する感じで魔王の右脇に向かう。
魔王「何!」
魔王とすれ違う感じで通り過ぎる。当然お互い背中を向けた状態になり、俺はすぐさま振り返ると同時に右脚を踏み込み横薙ぎに刀を振る。魔王も直ぐ振り向くと剣を盾の様にして防ぐ。続けて俺を押し返すとまた振りかぶる。俺も振り下ろし、最初の時と同じく鍔迫り合いになる。
魔王「フッ、俺と剣でここまで渡り合えるのは中々いないぞ!」
俺「一人称変わってるぞ!」
魔王「本来は"俺"を使っている!立場上言い方には気を使わないといけないからな!」
俺「そいつはご苦労さんだな!」
魔王「お前に気を使う必要は無いからな!」
こんな話しながらでよく力が入るな。押し切られそうだ。俺は剣を左に弾き踏み込むと剣道の動きで胴を狙う。魔王は後ろに跳ぶのと同時に攻撃を剣で受け、その衝突を利用し距離を取る。
俺「人の攻撃利用して距離を取るか。」
魔王「立て直すには丁度良いと思ってな。」
俺「チッ。」
あれだけ戦ってまだ余裕だな。さて次はどうするか。考えても仕方ないかも知れないけど。
お互い距離を詰め、俺は右から横薙ぎに刀を振ると魔王も同じ様に動く。俺の刀と奴の剣がぶつかり跳ね返る。普段は刀が駄目になるからこんな使い方はしないけど、この刀は加護が付いてるから大丈夫だ。
それにしても俺には何の力も加護も無い。刀より先に俺に寄越すべきだったのでは?と感じてしまうが、後の祭りってやつだろう。それに今はそんな事考えてる暇はないしな。
魔王の突きが来る。それを躱しながら左へ動き首を狙ってフルスイングする。魔王は伏せて躱すとそのまま下から斬り上げ俺の刀を弾く。
俺「うぉ!」
魔王の剣は俺には当たらなかったが刀を手放す羽目にはなった。魔王は俺が体勢を整える前に決着を着けるべく直ぐに剣を振り下ろす。俺は剣の柄、魔王の左手の小指の所に下から掌底を当て押し返す。
魔王「ムッ!」
俺の刀が降りて来る前に魔王をなんとか押し返し刀を取る。だが魔王の次の攻撃が来る。接近と同時に横薙ぎに剣を振る。俺は動きを合わせる様に刀で軌道を変え躱すが、勢いを殺す事なく続けて振り下ろされる。それを受け流すと更に横から攻撃が来る。このままだと防戦一方だ。押し切られる。
だがその時連撃が止まる。魔王が思いっ切り振り下ろす為に上段に構える。俺は今だと意を決して突っ込み、当然俺の胴が先に当たった。だが浅かった。
もう少し冷静に考えればこれは罠、フェイントだと気付けた筈だ。そしてさっきまでの猛攻の流れで距離を読み間違えた。踏み込み位置の違いで魔王の腹の薄皮一枚という部分しか斬れていなかった。
奴の負った傷は軽微な物だ。そのまま構うこと無く振り抜き、俺は鎖骨から脇腹までを斬られた。
俺「がは!」
しまった!久しぶりの大ダメージだ。俺は急いで傷の箇所に意識を集中して修復を始める。ギリギリ内臓は無事だ。斬られたのは骨と筋肉だけだ。血管も大変な事になってるから普通に考えると助からないけど。気合いで一気に治す。
魔王「ほう!あの怪我を一瞬で治すか!だが話によればその治癒は一回だけらしいな?なら今ここで追撃すれば貴様は殺せる。」
ヤバい。キツい。ドワイトの時より[気]を使った。まだ動けそうにない。どうする?そう考えていると想定していたより更に大変な事態になった。
アイリス「シリウス!」
アイリスが飛び出してきた。いや正直助かるけど今の君だと危ないから駄目だって。そう言いたいけど呼吸が乱れて声が出ない。
アイリス「ふぅ、ふぅ。」
アイリスは緊張してるのか、それとも走って来たからか呼吸が荒い。このままだと不味い。何とかしないと。
ドワイト「王よ、そろそろ時間だ。他の者は退去させた。後は我々だけだぞ。」
魔王「待て。後、一撃で使徒を倒せる。」
ドワイト「やめておけ。ここには神に選ばれた英雄も来ている。今の疲弊した状態では使徒は倒せても他は無理だ。それにその使徒は例の英雄達の友だ。友人を失くせばどうなるか分かるだろう?今はまだその段階では無い。」
魔王「しかし!」
ドワイト「アーサー!行くぞ!」
魔王は目を瞑り考えた後こっちを向く。
魔王「命拾いしたな。」
俺は何とか搾り出す。
俺「お前もな!」
アイリス「ちょっと!」
魔王は眉間に皺を寄せこっちを睨んだ後ドワイトと帰って行った。
あまり気にしてなかったが俺って負けず嫌いだったんだな。命拾いと言われて言わずにはいられなかった。
俺「アイリス来たのか?助かったけど。」
俺は腹を殴られる。
俺「痛!」
アイリス「ばか!心配したんだから!」
そう言った後アイリスは泣き出した。
俺「ええ〜、ここで泣く?」
参った。慰めるのは地球でもこの『世界』でもやったことがない。地球じゃ中々こういう状況に出くわさなかったし、この『世界』ではそうならない様やって来た。はぁ〜、どうするか。魔王の相手するより難しい。泣き止むまで待つか。
それとは別に気になる事がある。魔王の奴、アーサーって名前だったのか?12人の騎士とか出ないよな?今から出てきたら対処出来ないぞ。この後ジンとエレナ達が来ていつものお説教タイムだ。実に長かった。アイリスとエレナ、ジンにトリッシュとシャノンにまで怒られた。唯一キースとザックだけは優しかった。自分達も言いたい事はあったらしいが、ここまで言われたから自分達くらいは赦してやろうという事らしい。
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