エンカウント
一通りの調査と騒ぎが収まった後、人気の無い所に呼び出された。地球とかだと告白だとか何かしらの期待をしたい人もいるかも知れないが、俺を呼び出したのは例の悪ガキ共だ。クライドはいないが何故か3人で俺を取り囲み踏ん反り返っていた。
俺「どうしたお前等、偉そうに踏ん反り返って。元が悪いから小悪党にしか見えないぞ。」
カイル「偉そうじゃない!偉いんだ!マットさんは勇者になったんだぞ!」
スレイ「そうだ!だからこそ今までのお前の非礼を詫びてもらおう!」
俺「非礼の覚えが無い。」
マット「何だと!忘れたとは言わせないぞ!俺達とお前が初めてあったあの時、いきなり俺達を殴ったじゃないか!」
俺「ああ、確か"お前の様な孤児は選ばれた人間の奴隷であるべきだ。だから俺の奴隷になれ!"って言うから、俺が"断る"って言った途端いきなり殴りかかってきたから返り討ちにした時の話か。」
殴ったというかあの時は平手打ちだった筈だけど。
マット「・・・・。」
俺「・・・・。」
カイル「じゃあ・・・あれは?町のはずれで出くわした時いきなり殴っただろ?」
俺「あの時は確か双子のサムとスーが、よく仕事を手伝ってるからご褒美にって親父さんから人形をもらったけど、お前等が"貧乏人がおもちゃなんて生意気だ!"って言って取り上げた時の話だろ?近くにいた俺が取り返したんだったよな?」
カイル「・・・・。」
俺「・・・・。」
スレイ「それならあの時は?町の井戸の近くで俺達を殴った事があるだろ?」
俺「あの日は、"孤児のクセに道を歩くな!"って名前は忘れたけど女の子転ばせて泣かせたろ?だから叱っただけだよ。」
スレイ「・・・・。」
俺「・・・・。」
カイル「そうだ!あの時!町外れの場所にいた俺達の方までわざわざやって来て殴ったじゃないか!」
スレイ「そうだ!今まではたまたま見つかってそうなったがこの時は違うだろう!」
何かモンスターとのエンカウントみたいな言われ様だ。それより確かあの時は
俺「あの時は悲鳴が聞こえて、行ったらお前達がマリアさんをどっかに連れて行こうとしてたから話も聞かずに殴ったんだ。ついでに聞くけどあの時何しようとしてた?」
カイル「・・・・。」
スレイ「・・・・。」
俺「・・・・。」
こいつ等、都合が悪くなると黙るな。
マット「だ、だったらあの日はどうだ?俺達が[聖騎士]の職業を得た次の日だ。あの時は何で殴った!」
こいつ等の凄い所は自分のした事を覚えて無い事だな。
俺「あの時はお前が"俺達は神様から正式に上位者として認定された!だからこれで俺達はお前より上の存在になったんだ!"って言って殴りかかってきただろ?だから返り討ちにしたんだけど。今までの話で俺が謝んなきゃいけない所はなかったな?で?」
マット達が悔しそうに歯軋りしながら身体を震わす。そして
マット「覚えてろよー!」
チンピラが捨て台詞を吐きながら走って行く。今日という長い1日がやっと終わる。宿に帰るか。宿に着くとジンとエレナがいた。
ジン「おい!大丈夫か?」
エレナ「何があった!」
俺「いや、特には。ちょっとした思い出話・・・かな?」
エレナ「あいつ等の呼び出しがそんな用事な訳あるか!」
ジン「そうだよ!まぁ、シリウスは貴族も平気で殴るからそこは心配しないけど。」
それは違う意味で心配じゃないか?
エレナ「お前、貴族も殴ったのか!」
ジン「"も"って?」
エレナ「久しぶりに再会した時、先輩冒険者達を思いっ切りぶん殴った。」
ん?あれはエレナ達を助けようとしただけの筈。
ジン「お前何してんだよ。俺達が目を離すと直ぐこれだな。」
あれ?何か俺が保護者の必要な子供みたいな扱いを受けてる?
俺「いや、俺そこまで悪く無いよ。」
ジン・エレナ「自分の胸に手を当ててよく思い出せ。」
はぁ?俺か?俺が悪いのか?まぁ素行不良と言われそうな事した覚えはあるけど俺は悪くないだろう?
俺「殴られる方に問題があったと思う。」
ジン「はぁ〜。まぁ、良いや。何も無かったなら。」
エレナ「そうだな。とりあえず今回は良しとしよう。」
え?俺、呆れられてる?何とも納得出来ないが今言うと長くなりそうだからとりあえず黙ろう。俺そこまで悪いかな?そんなモヤモヤした状態だが支度をして学園の人間と護衛の冒険者の全員で王都に帰る。
次のイベントは何だっけな?確か真ん中の辺境都市を魔族軍に抜かれ、何とかそこを押し返して辺境都市近くの所に新しい砦を建てるが、度重なる猛攻で騎士団の力が弱くなり防衛の人手が欲しいという流れから、ジン達が本格的に巻き込まれる予定だった。
だがここで俺達の知らない展開が起きた。
今まで思い通りに行った事の方が少ない。だから予想してないこの展開こそ予想通り。と虚勢を張りたいが流石に王都がボロボロでは何も言えない。出かけてる間に砦やそこに近い都市すら通り抜け直接本拠地を攻められた。この状況は全く知らん。
俺「この展開は知らないな。」
魔物か?魔法か?建物が壊されている。しかし足元にある騎士達の死体は切断されたみたいだ。詳しくは分からないが、斬り口が似てるから同一の凶器で斬られた様な気がする。サスペンスで言うと同一犯の犯行ってのになるけど。
ジン「お、おい。俺はどうする?」
俺「落ち着け。お前は先ず、おじさん達の安否確認してこい。」
ジン「だけど!」
俺「今のお前は確認しなきゃ冷静になれないだろ?」
ジン「!」
ジンは走り出した。まぁ、ジンに限らず他の学園の生徒達も家族の所に向かう。
エレナ「私達はどうする?」
俺「先にギルド行って状況確認。後、協力して人命救助だな。」
キース「そうですね。」
トリッシュ「走るわよ!」
俺「俺は後から行く。」
エレナ「ああ、早く来いよ。」
エレナ達を先に行かせ俺はアイリスの所に行く。
アイリス「ねぇ、何これ!こんなの聞いてない!」
俺「いや、俺も知らない。流石に何処のズレからこうなったかは分からないな。」
アイリス「そんな!」
俺「そういえば家族は?今は王都にいないのか?」
アイリス「分からない。とりあえず家に行ってみる。」
一緒に行くか。しかしさっきから誰かに見られてる。そんな気がする。王都のスワロウ邸に行くと親父さんとクリストファー、他に使用人達もいた。というか王都に来てたのか間が悪いな。
フリード「アイリス!戻ったか。良かった。もう少し早く戻っていたら危なかった。」
アイリス「お父様!一体何があったのですか!」
フリード「魔物が突然王都を襲撃した。こちらも私兵である程度撃退したが。」
使用人「公爵邸とその周辺以外の対応が出来る程では無く。」
アイリス「皆が無事で良かったです。」
俺「正門の所にある死体の山は?」
フリード「私も詳しくは聞いていない。だが報告によると1体の魔族が正門で対処した騎士団の騎士達や衛兵達を斬り伏せ全滅させた。と聞いている。」
俺「魔族の特徴は?」
フリード「鎧は着ていなかったが、黒いローブの様な服に身の丈程の大剣を持っていたとか。その程度の情報だ。」
その特徴に合うのは俺の中で1人だけだ。アイリスも気付いたみたいで青い顔をしてる。奴と遭遇するには段階的に早すぎるな。ここに来て俺がさっきから気になっていた視線の正体が分かった。
行くか。放っとく訳にはいかないし。
アイリス「何処に行くの!」
腕を掴まれる。
俺「え〜と、野暮用かな?」
アイリス「1人で行かないで!」
そうは言うけど手が震えている。恐いんだろうな。流石に震えてる女の子連れてく訳にはいかないな。
俺「アイリスはここにいろ。」
アイリス「そんな!」
俺「別に死にはしないよ。」
フリード「おい!顔が近いぞ!何故見つめ合っている!」
アイリス「お父様!これは違います!」
親父さんが割って入ってくれた。お陰でしれっと抜けて移動する。王都はシメントリーというか、線対称というか。城を中心に右と左で同じ作りになってる。王都の東と西にそれぞれ高台がありそこに王都が一望できる広場がある。その東側に気になる奴がいる。見覚えのある服を着ている男、と言ってもこの『世界』で会うのは今回が初めてだけど。それにしても敵の総大将が何で直々に出向いてしかも最前線で戦ったのか、不思議でしょうがない。俺はそいつの右側に立ち話しかける。
俺「よお、こんな所で高みの見物かい?"魔王"様?」
魔王「フッ、この私の正体を知っているという事はお前が"剣聖にして使徒"という者か?」
俺「剣聖は名乗ってないけど、使徒ってのは認めるよ。」
魔王「ならば使徒よ。何故ここに来た?」
俺「よく言うよ。あんたこそここで何してる。というか何で敵の本拠地に出向いて来たんだ?」
魔王「無論。人族に、私は討てぬと知らしめるためだ。」
その為にわざわざ正面から入って騎士団の騎士を十数人も斬ったのか?
魔王「使徒よ。見てみろこの人族の都市を。この繁栄は我が一族の犠牲の上で成り立っている。傲慢で浅はかな、愚者達の見栄の為にな!」
俺「フッ。」
魔王「何がおかしい!」
俺「あ、悪い。愚者とか言うからついな。」
魔王「人が愚かでは無いと!」
俺「いや。愚か者さ。自分が劣ってると分かると卑屈になったり、妬んだり。自己責任でした事なのにいざ失敗すれば他人のせいにしたり、何か気に入らないってだけで誰かを傷付けるし。」
魔王「何が言いたい。」
俺「人が愚かなのは普通の事さ。それは分かってる。あんたに言われなくてもな。」
魔王「・・・。」
俺「俺が使徒って知ってるなら俺がこの『世界』の住人じゃ無いって事は知ってるのか?」
魔王「当然だ。神の使徒である以上、神界から来たのだろう?」
俺「神界にいた記憶は無いけど。とりあえずそこは良いや。俺の住んでいたのは『地球』って所だ。名前はよく覚えて無いけどある人が"愚か者は己の失敗で誤ちを学び、賢者は歴史から誤ちを学ぶ"って言ったらしい。」
魔王「だから何だ。」
俺「人間は基本失敗して学習、成長する生き物だ。さっきの話と合わせると人間ってのは基本的に愚か者って事になる。だけどそれが普通だ。人にとって当たり前、常識ってやつさ。あんたが何て言ってもそれが人間だろ?」
魔王「だから諦めろ。とでも言うのか!」
俺「そんな愚かな人間に戦争って愚かな手段で訴えるあんたもその愚かな人間と同族って事になるぞ。」
魔王「フン。私は認めさせたいのだ。貴様の言う通りだ。私は、我々は人間だ。人間という枠組みの中の魔族という種族だ。そして使徒よ貴様にも頼みたい事がある。」
俺「頼みたい事?」
魔王「我々に協力しろ。何もするな。行動しないだけで良い。それで我々が戦い、負けるなら仕方ない。だが貴様がいれば確実に負ける。命運を神ではなく人の手に委ねろ。」
神の使徒である俺が敵側にいる。魔族からするとそれは存在自体を神様に否定されるのと同じか。神がどこまで干渉するのかは言ってしまえば俺のサジ加減次第。俺がいるか、いないかでモチベーションはかなり違うんだろうな。
こいつ等の言いたい事もなんとなく分かる。俺は少し目を閉じて考える。アイリーンを思い出す。次に団長や傭兵団の連中とランド、ジンやエレナそして仲間達、アイリス。皆この『世界』に生きる俺にとって大事な家族みたいな連中だ。
俺「確かに自分の失敗から学ばない阿呆もいる。全ての人間が好きな訳じゃない。でも見限る程嫌いでも無いんだ。だからお前の頼みは聞けない。お前はどうなんだここまで派手にやったんだ。この辺で停戦協定でも結んだらどうだ?」
魔王「それでは誰も・・・いや、私が納得出来ん。何よりこの戦は私が望んだ物だからな。」
俺「交渉は決裂か。」
魔王「私にとっても失敗だ。貴様を退かせる事が出来なかったからな。」
俺「フッ、これであんたも誤ちから学ぶ事になるな。おめでとう。あんたも愚かな人間の仲間入り確定だな。」
魔王「フッ。」
魔王はそう軽く笑うと自分の脇に立て掛けてあった剣を取る。俺は魔王の剣の反対側にいたし、中々の体格の魔王の陰にあったから奴が剣を掴んだのは、見えなかった。
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