臨機応変、又は
色々あったがとりあえず次の日、遺跡調査という名のピクニックが始まる。別に上の階だとか、下の階だとかの広い遺跡ではなくてただ礼拝堂の様な広間とその奥に開かずの扉があるだけの遺跡だ。
調査内容は文化遺産と言うべき遺跡に魔物がいないか?いた場合は協力して速やかに退治というだけの内容で、経験浅い人からすれば緊張する案件だが経験者からすると特に気にする事がない仕事だ。今回がシナリオでなければだけど。
あの扉どうやって開けたっけな?大分昔の情報だからうろ覚えなんだよな。スマホで検索かければ出るかな?でも人前であんまり使いたくないし、そもそも地球のインターネットに繋がってるのか、調べてないからその辺は分からないんだよな。
アイリス「ねぇ、あの扉どうやって開けたっけ?」
俺「アイリスも覚えてないか。俺もイマイチ覚えてないんだよな。」
アイリス「私も大分前だからなぁ〜、家族の事は覚えてるけどゲームの事はほとんど覚えてない。」
俺「分かる。案外ゲームより家族との記憶の方が大事だったんだなって。今になって思うよ。」
アイリス「本当だね。もう戻れないけど。」
若干空気がしんみりした。そう言えばあまり地球での話は聞いてないな。
俺「そう言や地球ではどうだったんだ。家族とか。」
アイリス「う〜ん。妹が1人に父さんと母さんの4人家族よ。父さんは普通の会社員だったけどそれなりに幸せだったわ。そっちは?」
俺「俺は親父とお袋に姉貴だけど親父の収入は低かったからどっちかつうと貧乏だったな。でも今の俺よりはマシだったかも。」
アイリス「そ、そう。」
俺「地球にいた時のアイリスは?見た目とか。」
アイリス「え?まぁ、地球の"私"の面影は少し残ってる気がするけど、どっちかと言うと今の方が美人かな?」
俺「それ自分で言う?」
アイリス「な!貴方が聞くから客観的に感想を言ったんでしょ!」
俺は軽く肘打ちを喰らう。
俺「痛!」
アイリス「そう言う貴方はどうなの?」
俺「見た目?傭兵やってるからか、本体より筋肉があるだけで後は一緒だよ。顔とか目の色や髪の色も。」
アイリス「折角異世界に来たのに魔法は使えないし、見た目も一緒なんてツイてない所じゃないわね。」
俺「まぁ、俺の場合は今更気にしても仕方ないし。開き直ってやれる事をやるだけさ。」
アイリス「貴方は相変わらずへこたれないのね。」
俺「俺だって落ち込む事はあるさ。でも俺が凹んでも意味は無いだろ?時間だって勝手に過ぎていくからな。となると今出来る事を全力でやるしか無いだろ?そう思って俺は行動してる。」
アイリス「フフッ」
俺「何だよ。」
アイリス「いや、貴方が味方で良かったなって思っただけ。」
果たして今の話の中で笑う所があったのか?俺には分からなかった。
アイリスから離れ扉をどう開けるのか考えていたが、やはり中々思い出せない。因みにここの剣は手に入る聖剣の中で2番目に威力の高い剣だ。1番が別にあるならここにこだわる必要無くね?とか言われそうだが、ここで手に入る聖剣は仲間の力を底上げしてくれる能力がある。仲間と協力するロールプレイングとしては役に立つ力だ。だけどそれを踏まえると問題が1つある。今のジンには仲間がいない。軍の指揮官くらいになれば意味は出て来るけど。そんな状態にはならなそうだし、いっそ他の奴が使った方が良い気がする。だけど勇者の肩書きがあれば仲間が出来るかもと思わなくもない。
マット「やっぱり、お前。あの生意気だったシリウスだな。」
カイル「本当だ。何でお前がここにいるんだ?」
久しぶりの悪ガキ共との再会で出た言葉は酷い物だった。他に言う事ないのか?
スレイ「それよりお前、スワロウ嬢と話してたな。俺達に紹介しろよ。」
俺「あ?」
スレイ「い、いや、だから紹介・・・。」
俺「冗談でもしねぇ。というかあいつに手を出すなよ。平手打ちだけじゃ済まさないぞ!」
マット「ふ、ふん。いずれそんな事言えなくなるぞ。」
俺「笑えないぞ。」
最後に睨み付けると
カイル「お、覚えてろよぉ。」
よく聞く捨て台詞だ。たく全然直らないな性格。見るとクライドだけ残ってる。
クライド「ぼ、僕は・・・。」
俺「はぁ、あいつ等に今更言っても仕方ないと思うからこれ以上言わないけど。お前はどうするんだ?」
クライド「どうって?」
俺「いつまであんな連中と一緒にいる?いくら言っても変わらない連中に付き合ってどうする?まぁ、あいつ等が怖いのは何となく分かるけど。」
クライド「君に僕の気持ちは分からないさ。」
俺の経験はこの『世界』と地球の2つ分ある。2つもあるからか、こいつの気持ちはある程度理解している。
俺「酷い目に遭うのが怖いから騒がない様に隠れてるんだろ?でもこのままって訳には行かないのも自分で分かってる。だから周りが変わる事を期待して耐え忍ぶ事にしてる。そうだろ?」
クライド「そ、それは。」
俺「なぁ、もう充分だろ。あいつ等はこのままなら変わらない。周りが変わらないならもう自分が変わらないと変化なんて起きないぞ。どう変わるかはお前の自由で良い。そろそろ自分から動かないと駄目だ。」
クライド「僕は・・・。」
俺「ただ、あいつ等と組むのは金輪際やめろ。あいつ等とは付き合うな。」
クライド「・・・・。」
これで少しは真っ当に生きてくれれば良いけど。
ジン「あいつ等何だって?」
俺「アイリスを紹介しろってさ。断ったけど。」
ジン「だよな。大事にしろよ。」
ジンがそんな事を言いながら俺の肩を叩く。
俺「ん?何を?」
ジン「分かってるくせによく言うよ。」
何かニヤニヤしてる。何か勘違いしてないか?別にそういう関係では無いし、お互いそんな感情も無いと思うけど。
数分後
マット「この扉は何だ?」
カイル「それは今まで開いた事の無い扉だそうですよ。」
スレイ「開けられたら大手柄ですかね?」
悪ガキ共が何か企んでる様だ。そういえばクライドは?探すと別のところで他の奴と話している。あいつ等といるのはやめたのかな?でもそれが良い。少しホッとする。
そんな時いわゆるフラッシュバックが起きた。地球でゲームしてた時だ。悪ガキ共が扉に触れると罠が起動し魔物、この場合はガーディアンとでも言うべきか、動く甲冑が現れ襲ってきた。
俺「ああ、思い出した。扉を触って出てきた魔物を退治するだけだったな。」
マット「お!何か扉が光り出したぞ!」
エレナ「おい!何をしてる!」
キース「罠でも起動したのでは!」
俺「とりあえず皆んなはいつも通り片付けろ。」
ジン「シリウス!」
俺「おう。」
ジン「何か手伝うか?」
俺「こっちは大丈夫だ。お前は困ってる奴を優先して助けてやれ。」
上手くいけば仲間か、友達が出来るかも。
ジン「分かった。」
俺「アイリス。」
アイリス「シリウス!思い出したけどこの罠って。」
俺「ああ、あの扉の鍵に連動してるやつだ。」
アイリス「やっぱり。じゃあこいつ等を倒せば。」
俺「そうだ。」
いきなりで皆んな慌てたがなんとか立て直し、甲冑のガーディアン達を倒していく。一体だけ他の奴より一回りデカいのが現れた。斧と槍がくっついたハルバードを持っている個体だ。それに気付いてジンが向かう。
動く鎧は頭の上でハルバードを回転させる。昔映像で見たなそんな事を考える。しばらくすると鎧はそのハルバードを振り下ろす。ジンは斜め上から打ち落とし、すかさず距離を詰める。剣を横薙ぎに振るが、鎧もスウェーで攻撃を躱す。今度はハルバードの槍で突きを出す。それを剣で弾くと次はジンが振り下ろす。鎧が柄で攻撃を受け止めるとそのまま力比べをするかの様に鍔迫り合いが始まる。ジンは確かに前より強くなっている。ちょっと感動するな。
それはそれとして騒ぎの発端の悪ガキ共が見当たらない。何処に行った?嫌な予感がする。まぁ、別にあいつ等に取られても良いけどちょっと面倒くさそうだから大人しくしていて欲しい。その時、俺はある気配を察知する。
俺「ジン!退がれ!」
ジン「ん?お、おう!」
ジンが退がった瞬間、炎の刃が動く鎧を吹き飛ばす。
マット「ははは!良いぞ!凄い!」
うわ!嫌な予感が当たった。マットの奴が聖剣持ってる。刃物の使い方を知らない子供が、振り回してる時くらいの衝撃が俺の心の中に広がる。
アイリス「ちょっと!あれジンが手に入れる筈じゃないの?」
俺「聖剣は使う相手を選ぶらしいからな。こっちは現実だし、多少の違いは今までもあった。仕方ないんじゃないか?」
アイリス「それにしても。」
アイリスの視線の先には同級生達がいる。皆んなはマットを勇者だとか、英雄だとか言いながらザワつき出した。逆に使えるかも。
俺「いっそこのまま勇者になってもらうか。」
アイリス「はぁ?何でよ!」
俺「あいつに勇者として雑魚の相手をしてもらって、ジンが魔王とサシで戦える状況を作ってもらうんだよ。後はジンが倒せば解決だろ?」
アイリス「そんなざっくりした感じで大丈夫?」
俺「正直分かんないけど何とかなるんじゃないか?」
アイリス「こいつ本当に大丈夫かな?」
小声でアイリスに何か言われた気がするけど何て言ったんだ?
俺「とにかく聖剣なら他にもあるし、それに必要なのは勇者じゃなくて魔王を倒す事だから、結果的にそこに辿り着けば良い。・・・うん。」
アイリス「知らないからね。細かい調整は全部そっちでやってよ。」
確かにズレが生じたのは俺の所為だ。それくらいはやるか。それくらいって言う程、小さいズレか分からないけど。まぁ、今考えても仕方ない。その時はその時で臨機応変に行こう。
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