再会

よく思っていた事だが人生とは一筋縄では行かない。ある人は言う"何が起こるか分からないから人生は面白い"と。その考えは分かる。俺も地球にいた時、何かしらサプライズの様にイベントが起きると楽しいと感じた事くらいはある。だけど今は環境が違う。少し間違うと軽く酷い目に遭う。今が正にその瞬間だ。

俺は依頼主であり、協力者でもあるアイリスと彼女の実家で用意した馬車に乗せてもらっている。だが今はその彼女にジト目で見られていた。美人に見つめられるのは良い。しかし今はどちらかと言うと睨まれている。また何かやっちまったか?思い当たる事が多いから、今更考えても自分じゃ分からない。先日ハンスに呼び出された時よりも緊張していると思う。オッサンより女の子に睨まれる方が緊張するとは不思議だ。理由は俺には分からん。


アイリス「先日ね。」


俺「はい。」


俺の中で更に緊張が走る。


アイリス「シリウス達と合流する前だけど。」


俺「う、うん。」


アイリス「冒険者が魔物に襲われてたの。」


俺「ん?うん。」


俺絡みじゃないのか?俺と関係ない気がする。じゃあ何だ?


アイリス「その魔物がゲームとかでよく見る巨獣、ベヒーモスだったのよ。」


俺「は?大丈夫だったのか?怪我とかは?」


アイリス「いや、私や他の子達は大丈夫だったの。でも魔物に襲われてるのを見たジンがいきなり飛び出してベヒーモスに挑んだのよ。」


俺「ええ〜、あいつが怪我したとか?」


アイリス「ジンが倒したの。ベヒーモスを。」


俺「え?やったじゃん。皆んなで協力したならこれで友達や仲間が・・・。」


アイリス「単独なの。」


俺「は?」


アイリス「普通ゲームとかでそれなりに鍛えた仲間と協力してやっと倒すベヒーモスをジンが1人で倒したの。」


俺は頭に手を当てた。ロールプレイングの類いでベヒーモスを単独撃破となると、相当やり込んだプレイヤーが趣味でやる芸当だろう。中々ゲームを初めて序盤辺りのシナリオでやる事じゃないと思う。だけど皆んなの前でジンの凄さがアピール出来たなら丁度良いのではとも思う。


俺「それなら同級生や助けた冒険者は?流石にそんな凄い奴、仲間にしないなんてありえないだろ?」


アイリス「冒険者達はその強さを見て逆に怖くなったらしくてお礼を言ったらさっさと逃げたわ。同級生達は貴族に喧嘩を売るし、忖度もなく平気で勝負に勝つ。しかもベヒーモスは1人で倒す。そんな相当ヤバい奴って認識に変わったみたいよ。」


俺は久しぶりに落ち込んだ。マジか、ここに来てジンは更に孤立したらしい。人を助けて孤立って中々無いだろう?何でだ?


アイリス「いや、別にジンが強くなる事は大事だから良いんだけど。ここまで孤立すると私としてもどうしたら良いか。やっぱ悔やまれるのは最初の決闘よね。」


今一度ジト目が向かって来る。分かってるよ俺だって。しくじったかな?って思ってるさ。だけど思ったより強くなったからって孤立するとは思わないだろ?


俺「しょうがない。最後の手段だ。」


アイリス「底が浅いわね。で?どうするの?」


俺「ジンが1人で魔王に勝てるくらい鍛える!」


アイリス「はぁ〜、そうするしか無いか〜。今更人間関係の事でこっちがどうこう出来る状況じゃないしね!」


仕方ないじゃないか。結果として出た以上変えようがない。でも確かに参った。アイリスに怒られるのは当然かも。

そういえばアイリスは地球じゃ大学生だったよな?俺は社会人だ。何故に社会人だった俺が大学生だったアイリスに怒られているのか?確かにしくじったのは俺だ。当然といえばそうかも知れないが、何か解せぬ。


アイリス「何?」


俺「すみませんでした。」


そんな気不味い空気の中、馬車は進んで行く。早く着かないかな?ゲームだとほぼ一瞬なんだけどな。半日かけて遺跡の近くにある町にたどり着くが、今日はとりあえずここの宿で休み明日改めて遺跡に向かう事になる。


エレナ「それで2人きりで何してた?」


何となく不機嫌なエレナ


俺「え、・・・お説教だな。」


エレナ「え?お前、あの女を説教したのか?」


俺「いや、俺が説教された。」


トリッシュ「ちょっと!公爵様に不敬罪なんてやめてよ!」


俺「じゃあ今の内に俺だけ抜けるか。」


キース「何言ってるんですか!貴方がいなくなったら誰が僕達の命の保障をするんですか!」


ザック「そうだ!勝手にいなくなられては困る!」


エレナ「それはどういう意味だ?」


俺もどういう意味?って聞きたいけど今のエレナから考えるとなんとなく言いたい事は分かる。


シャノン「別に出て行けという話ではなく。あまり派手に暴れないで下さいという意味です。気を付けて下さいね。」


俺「はい。分かりました。」


この『世界』は女性が強いのか?さっきから怒られてばっかだ。確かに原因は俺自身の所為だけど。


ジン「お〜い、シリウス!やっと見つけた。」


俺「おう。」


ジン「あれ?エレナか?」


エレナ「おお!ジン!久しぶりだな!」


俺達3人が同時に集まるのは大体8年ぶりくらいかな?


トリッシュ「ねぇ、その人は?」


俺「俺達の幼馴染のジンだ。」


シャノン「思っていたより普通ですね。」


トリッシュ「うん。もっと凄い人かと思ってた。」


俺「どういう意味だよ。」


キース「お2人の幼馴染ですよね。それに付き合えるくらい特殊な人だと思っていたって話ですよ。」


ザック「ああ、儂もお前さん達みたいのがまた増えると思ってビクビクしていたぞ。」


ジン「え、お前等何したんだ?」


エレナ「普通に生活してるだけだ。」


俺「俺も生活に必要な行動をしてただけだ。それを見た人がどう思うかは分からないけど。」


ジン「シリウス的には思い当たる事があるってわけか。」


ジンは、はぁ〜とため息を吐く。


ジン「まぁ、とにかく皆んなこうして会えたんだ。それで今は良いよな。」


エレナ「おう!」


ジン「でも今回の調査、あの4人も一緒なんだよな。」


俺「4人てあの悪ガキ達か?」


シャノン「悪ガキ?」


エレナ「私達と同郷で、よく悪さしてた連中だ。ジンと同じく"聖騎士"の職業を得た。」


トリッシュ「厄介そうね。」


ジン「まぁ、でも流石に今回は大人しくしてるさ。シリウスいるし。」


エレナ「そうだな。シリウスいるし。」


うん?俺が責任負わされるのか?というか俺がいてもそんなに変わらないと思うけど?


ザック「お前さん何したんだ?」


俺「別に何も、ただ悪さしてるのを見かける度に平手打ちを喰らわせただけだ。」


一同「ああ、成程。」


トリッシュ「確かにそれなら怖くて何も出来ないかもね。」


シャノン「小さい頃からシリウスさんはシリウスさんなんですね。」


キース「幼い時から狂犬だったんですね。」


ザック「フッ、正に"瞬撃"の"狂犬"だな。」


皆んなが何か納得している。というかザックそのセリフ今ので2回目だぞ!

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