ドラゴン

なんだかんだで2週間が経ち、大分連携が取れる様になった。まぁ、1番変化があったのはエレナだ。前衛がいるから魔法に集中出来る様になり、今まで使えなかった威力の高い魔法も使える様になった。お陰で大型の魔物とも対等に渡り合う事が出来ている。

他の2人も弓や回復に一点集中する事で今まで以上の成果が出ていた。

全体的に見れば良い事だ。

しかしこのままだと本当に他の仲間が入らない。これから色々動く事を考えるとなるべくなら俺以外で前衛を置いて欲しい。俺は3人に前衛の話をする。


トリッシュ「別にあんたがいれば大丈夫じゃない?何か他の事で大変なら私が引き受けるよ。」


シャノン「私もそう思います。シリウスさんがいればちょっかいを出してくる人もいないですし。男の人に襲われる事もありません。トリッシュさんの言う様に分担出来る所は協力し合えば良いだけですから、私も手伝いますよ。」


エレナ「じゃあ今の所追加要員は要らないな。」


女性陣「異議な〜し。」


因みに雑用と言える仕事のほとんどは皆んなで分担してやっているから俺が別段、不利益を被っている訳じゃない。だから俺自身不満がある訳じゃない。ただ俺が抜けた時の場合の話なんだ。


俺「いや、俺が抜けたらどうするんだ?って話なんだけど。」


エレナ「な!私達が嫌いなのか?」


そんな話だっけ?


俺「いや、そんな事はないよ。」


エレナ「なら大丈夫だな。今日受けようと思ってる依頼はこれだ。」


んん?何故か話が終了してる。どうしたものか?例の2人をここに連れて来るってのが1番簡単だけど、いきなり人を連れて来ても問題があるだろうしな。それに2人にこっちから話しかけるとしてもきっかけが無いと変だよな。

俺の想定していた状況と明らかに違う。どうしよう。だがそこである事を思い出す。そう言えば仲間にするイベントがあったな。当然ながら未消化だろう。それなら多分いける筈だ。しかし記憶が朧げでどんなイベントか覚えて無い。そもそも俺にそんな記憶力があるならもっと上手く生きている。


トリッシュ「ねぇ、ドラゴンなんて大丈夫?」


エレナ「大丈夫さ。他の冒険者達と協力して討伐するからな。」


ドラゴン?・・ああ!そうだ!このイベントだ!良かった。何とかなりそう。


俺「良し!やろう!」


シャノン「え!即決ですか?普段はもっと慎重ですよね。」


トリッシュ「本当。いつもなら依頼書に穴が空くんじゃないかってくらい調べるのに。」


俺「ん?そうだっけ?」


エレナ「とうとう私達の実力を認めたんだろう。この程度なら楽勝だって。」


俺「おい、調子に乗るなよ。相手はドラゴンだ。警戒し過ぎってくらいで丁度良いんだぞ。ちゃんと気を付けないと。」


トリッシュ「あ、いつものシリウスだ。けどそう考えると何か気になる。」


シャノン「はい、何か裏がありそうですね。でも私達にとって不利になる様な事はしないと思いますよ。」


何か酷い事を言われているが今は聞かなかったという事でスルーだ。


俺「とりあえずしっかり準備してから向かうぞ。皆んな気合い入れつつ慎重にな。」


エレナ「おー!」


トリッシュ「分かってるわ。」


シャノン「はい。」


これで貴族の次男坊で槍使いの騎士。それと元鍛冶屋で色々な事情から冒険者をしてる斧使いの戦士が自然な流れで仲間に出来る。因みに種族は騎士の方が人族で戦士の方はドワーフだ。このイベントに参加するだけで仲間に出来るのか?って疑問はあるけど。まぁ、そこは出たとこ勝負だな。

ふと思ったが俺の行動は計画性に欠けてる気がする。今更気にしても仕方ないか。どうせ考えてもこれ以上の案は浮かばない。

とにかく準備だ。とは言っても俺には回復薬も魔法も効かない。仲間達は必要だからあっても困らないけど。


トリッシュ「だけど回復薬とか魔法を使わないからお金の節約にはなるかもしれないけど大変よね。」


シャノン「はい。まさか回復魔法や回復薬すら効かない人がこの世にいるとは思いませんでした。」


俺「一応かすり傷1つ喰らわないよう気を付けてるけど。いざという時は自然治癒能力を高めてやってるよ。」


トリッシュ「それが何よりおかしいわ。放って置いてそんな綺麗に治らないわよ。」


シャノン「そうですよ。手当てすらしてないんですから。」


エレナ「ふふん。シリウスならそれくらい簡単だ。」


トリッシュ「何でエレナが威張ってるの?というか幼馴染だからって全部受け入れてたらその内感覚が麻痺して酷い事になるんじゃない?」


シャノン「そうですよ。あまり良い言い方では無いですけど、常識的に言って異常ですよ。」


何か酷い言われようだ。2人共俺の事を遠回しに化け物って言って無いか?


エレナ「ふん、2人はまだ甘いな。シリウスを常識で見ようとするからいけないんだ。"シリウスの常識は世間の非常識"そう認識すれば多少の事は気にならなくなるぞ。」


あれ?何か幼馴染の方が酷い言い方してない?あ!ちょっと涙が


シャノン「あ!シリウスさん大丈夫ですか?涙が出てますよ?」


俺「ん?いや目にゴミが入ってさ。」


俺は誤魔化したつもりだが後ろでトリッシュが"あまりに酷い事言われ過ぎて泣いたんじゃ?"という発言が薄っすら聞こえたが気にしない事にしよう。ここで気にしたら負けな気がする。それくらいの意地は張っても良いだろう。

話を戻すが今回の依頼は多人数で協力して行う。ゲームで言うところのレイドイベントという物と同じだ。ゲームと違う所は参加した人、本人の命がかかってる事だろう。この『世界』は普通に生きても生き辛いのに、自らを更なる窮地に放り込まなければ稼げない。何とも酷い話だ。


トリッシュ「ちょっとアホな事言ってないでしっかりしなさい!」


途中から思った事を口から出してたみたいだ。独り言を聞かれていた。

例のドラゴン討伐依頼に参加しているが、ドラゴンに追い立てられた魔物の大群に襲われている。要するに今現在スタンピードに出くわしたという事だ。

因みに俺は今あまり刀を使っていない。1人で複数と戦うとか大物と1対1なら良いが、流石に状況によっては狭い場所や視界の悪い所で戦う事の多いのがこの仕事だ。刀は邪魔になりかねないから、今は小回りのきく短剣の2刀流でやっている。

俺は逆手にした右手のナイフでゴブリンの棍棒を受け、左のナイフで横から首を刺す。今度は左のナイフで振り下ろされた剣を受け流し、逆手から持ち替えた右のナイフでゴブリンの左脇腹を刺す。隙が出来た所で首を斬る。

大型は今の所いないからゴブリンにコボルトの相手をしている。たまにオークも出るけど。そのオークがこっちに走って来る。抜けるだけなら良いが敵意剥き出しだ。またも俺に向かって来る。ナイフ2つを逆手にしクロスした体勢で斧を受ける。次の瞬間、オークの肩に矢が刺さり後ろに退がる。トリッシュだ。俺はそのままオークの脳天にナイフを突き立て絶命させる。


トリッシュ「大丈夫?」


俺「おう!ありがとう。」


シャノン「減るどころか増えてます。ドラゴンが近付いてるんでしょうか?」


エレナ「多分な。玄人の連中も慌ててる。そろそろ来るんじゃないか?」


そんな中、オーガが現れる。遠巻きにベテラン達がざわつく。


ベテラン1「おい!オーガだ。倒せない事は無いがあいつ相手じゃ人手が4、5人はいるぞ!」


ベテラン2「そんな人数この状況で出せるか!この数も酷い。雑魚とはいってもこの状況が続けば相当キツい!このままだとドラゴンどころじゃなくなるぞ!」


ここで出て行ったらまた変に目立つかな?とは言え、あれを放って置いて仲間に被害が出るのは嫌だ。仕方ない片付けよう。俺は短剣をしまう。


俺「ちょっと行ってくる。」


エレナ「ああ!あれは任せた。」


トリッシュ「援護は?いる?」


俺「う〜ん。いや、いい。乱戦状態じゃなくて1対1だし。エレナとシャノンの方を頼むよ。」


トリッシュ「分かったわ。」


さて改めて向き直る。サイズ的には約2メートルくらいだと思う。


ベテラン2「おい!あいつ、あの5人組を薙ぎ倒した傭兵じゃないか?」


ベテラン1「あいつ、まさか!1人で倒すつもりか?いくら強くても相手は人間じゃなくてオーガだぞ!分かってるのか!」


何か騒がしい。目立つのは覚悟したけどそんなに騒がなくても良いと思う。オーガは俺が自分に近付いてるのが分かると大剣を握りしめ歩いて来る。

俺は居合い抜きの構えをする。オーガは剣道の上段の様な構えをしながら俺を睨む。吹っ飛ばされたゴブリンが地面に叩きつけられる。その音を合図に同時に動き、俺は大剣諸共オーガの腕を切断する。何か叫びながら後ろに仰け反るオーガの左脇腹から右肩にかけて斬りつける。オーガが膝を着き俺は一筆書きの様に続けて頭から真っ直ぐ切断した。

例によって凄い血飛沫だが被らない様に透かさず躱す。


俺「うぉ!危な!」


今回も何とかなった。俺の場合、洗うの大変だからな。オーガを片付けた瞬間に凄い歓声が上がる。何があったのかと周りを見ると皆んなが俺に注目している様だった。


俺「何かあった?」


シャノン「シリウスさんがオーガを単独で倒したから皆んなの士気が上がって歓声を上げたんですよ。」


俺「そんなに凄い?」


トリッシュ「普通オーガは1人で倒さないわよ。」


俺「やっぱりやらかしてたか。」


エレナ「気にするな。オーガの為に4、5人割くより良いさ。」


ベテラン1「あいつ、やっぱり化け物だな。」


ベテラン2「関わるとろくな事にならないだろうな。気を付けよ。」


離れた所からそういう声が聞こえる。

ただ倒しただけで化け物扱い、少し悲しい。まぁ、今は落ち込んでる場合じゃないけど。

気持ちを切り替え周りを見る。やっと見つけた。ドワーフの戦士と人間の槍使い。2人共男だから女性陣3人は嫌かな?とか思うがあの2人は盾役には丁度良い。2人が最前線で守りトリッシュは援護、皆んなを回復して守るシャノン。その4人で稼いだ時間でエレナはデカイ魔法を使う。恐しくシンプルだけど大体はこれでいけると思う。どう話しかけるか考えていたが、どうやらその暇はない様だ。不意に咆哮が聞こえた。ドラゴンだ。

この状況であまり言う事ではないがゲームや物語でよく出るドラゴン。期待して心が少し弾んでいる。しかし顔には出せないからとりあえず普通の顔で言う。


俺「そろそろ来るな。」


シャノン「何か期待してませんか?」


俺「え!」


トリッシュ「相手はドラゴンよ!浮かれてないでしっかりして!」


俺「な!俺、浮かれてる?」


エレナ「ああ、顔は普通だけど何んて言うか気持ちが身体からにじみ出てるかな?」


確かに"見たい"という気持ちはあるけど、まさか態度に出てるとは。不思議だけど案外自分の事は分からないもので、思っていた以上に興奮していた様だ。

そして念願のドラゴン登場だ。森の木々を越える高さと大きさは1つの村くらいはあるかな?ファンタジーな魔物を見ても普段は気にしないが流石にドラゴンは違った。凄いな写真撮りたい!後、動画も!そんな事を考えていたが、俺はそれが出来る記憶媒体を持っていた事自体を忘れていた。


俺「あ!スマホ!」


俺は直ぐにシャッターを切る。ついでに動画も撮る。咆哮している所からこちらを睨みつけている顔を撮っていく。現在のドラゴンのターゲットは近くにいた冒険者で今の所エレナ達は対象外だ。


トリッシュ「ちょっと!何してるの!」


俺「もう少し待って!」


他の冒険者には悪いがせめてブレスを、火を吐く所を撮りたい。


エレナ「お前!本当に何してる!そろそろこっちに来るぞ!」


分かってる。分かってるけど理解して欲しい。ドラゴンに遭遇なんてこっちの『世界』でも珍しい。地球じゃありえない。


ベテラン1「気を付けろ!火が来るぞ!」


ベテラン2「避けろ!」


奇跡的に冒険者は怪我はしても死者は今の所0人だった。俺もブレスを動画に収める事に成功した。


俺「良し!後で写真と動画、アイリスに送ってやろう。流石に驚くだろう。ドラゴンなんて見た事無いからな。」


シャノン「さっきから何してたんですか?」


俺「ん?悪い、何でもない。さぁ、片付けるぞ!」


エレナ「やっとか!何してたか知らないが早くしろ!行くぞ!」


ベテラン達が体勢を整える為に退がり、入れ替わる形で俺達が前へ出る。見ると例の2人が先に攻撃していた。確か2人はパーティを組んでいないはずだが、即興で組んだにしては悪くない連携だと思う。別々に攻撃を仕掛けてはいても、お互い邪魔せずに上手く立ち回っている。この辺は2人の経験だろう。


俺「よ!お2人さんちょっと協力しないか?」


ドワーフ「は?何者だ坊主。協力ってあれを倒す手があるのか?」


俺「ウチのお嬢さんが魔法で吹き飛ばす。」


槍使い「そんな簡単にはいきませんよ!今だって抑えるだけで何も出来ていないんですよ!」


俺「その為の時間稼ぎに協力してくれって話だよ。」


槍使い「馬鹿な!魔法は強力ですが、ドラゴンを一撃で吹き飛ばすのは不可能でしょう!」


俺もどうか?と思う所もあるけど、本人が行ける!と言ってるから大丈夫だろう。


俺「ん〜。何とかなるよ。大丈夫。」


ドワーフ「確かに俺やお前だけじゃ倒せないだろう。俺はどうにか出来るなら協力しても良い。」


槍使い「分かりました。協力します。で?どうするんです?」


俺「もう少しかかるからこのまま時間を稼ぐ。さっきまでの要量で2人は脇から攻めてくれ。」


ドワーフ「お前さんは?」


俺「正面。」


槍使い「な!自殺行為だ!」


俺「考え様によってはな。ただ死ぬ気は無いから大丈夫だ。」


槍使い「どうなっても知りませんよ。」


因みにこのドラゴン、羽はないからパッと見はデカいトカゲだ。地球で言うとコモドオオトカゲみたいな奴だ。

飛びはしないけど火は吐いたから遠距離攻撃は持ってる。それだけで十分脅威だという事は理解しているが、間近で見上げるとつくづく思う。


俺「良い!」


博物館の恐竜よりデカい。見た目はトカゲだが火まで吐く。まさにドラゴン!最高だ!

だがこれは仕事。そろそろ本気で気持ちを切り替えよう。

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