短気は損気

聞き覚えのある角笛の音がする。

そこで突然話しかけられ我に帰る。


アイリス「貴方はいつまでボケっとしてるの?」


俺「は!あいつ等は?」


アイリス「もう帰ったわ。」


俺「え!逃したの!」


アイリス「ジンがね。後はジンに聞いて。私はやる事あるから。」


アイリスは学園の生徒達の所へ行った。怪我人とかの被害状況を聞きに行ったのだろう。ジンの事は頼んだが、他にも彼女なりにやる事が沢山ある様だ。頭が下がる。

ジンを見ると済まなそうにしている。とりあえず無事みたいだから安心して良いだろう。


俺「逃したって?」


ジン「ああ、悪い。」


俺「あいつ等また攻めて来るぞ。」


ジン「だけど俺はあいつ等を魔物として扱えない。むしろ人にしか見えないんだ。」


俺「はぁ、お前自身がどういう気持ちで生きるかはお前の自由だけど、あっちには関係ないんだ。気を付けろよ。」


ジン「分かってる。」


俺「まぁ、何かあったらまた来るさ。」


ジン「ああ、じゃあな。そう言えばアイリスは?挨拶して行かなくて良いのか?」


ここに到着して直ぐにアイリスに怒られた事を思い出す。話すにしても取り巻きもいるし、色々大変そうだ。


俺「いや、大変そうだしやめとく。よろしく言っといてくれ。」


ジン「お、おう。分かった。ところでこれからどうするんだ?」


俺「うん?エレナの所に行こうと思ってる。」


ジン「ああ、あいつにも会いたいなぁ。」


俺「その内会えるさ。」


ジン「そうか?じゃあ、またな。」


俺「おう。」


エレナの所へ向かう道中


俺「ん?ああ、電話か。」


振動が来た。見たら電話はアイリスからだった。色々言われそう。出たく無いけどそれだと後が余計怖い。


俺「もしもし?」


アイリス「何でもう帰ってるの!普通挨拶してから帰るべきでしょ!」


俺「ごめんなさい。色々大変そうだったから何も言わずに帰りました。」


アイリス「もう良いわ。で?これからどうするの?」


俺「こっちはエレナの所に行く。そっちは引き続きジンを頼む。」


アイリス「分かったわ。今度からちゃんと挨拶して帰りなさいよ。」


まだ言うか


アイリス「返事は?」


俺「はい、分かりました。」


また怒られた。俺は気持ちを切り替えエレナの所に向かう。

基本エレナのイベントは、ジンとの久しぶりに再会した時に近況報告という形でしか知らない。だからそこまで詳細は分からないが、何でもギルドで揉め事が起こり、先輩の冒険者を叩きのめしてからしばらくギルドで妨害を受けていた。という事だ。エレナが今拠点にしている都市はミルザだ。ジン達とイベントでいたあの村から大体2日程で何とか着いた。そういえば冒険もしてないのに冒険者とは何故かって話だけど。仕事としては何でも屋で登録者を増やす為に作った求人募集の広告に使ったキャッチフレーズが"仲間と冒険しよう。"だったらしい。その冒険の言葉から冒険者ってのが定着したらしい。因みに俺は便宜上ギルドと呼んでるけど、冒険者の施設はギルドと言う名前じゃない。まぁ、頭の中だけだから構わないだろう。

さて、ギルドを見つけた。早速、中に入る。


男「良いだろ!付き合えよ!仲良くしようぜ!」


エレナ「いい加減にしろ!しつこいぞ!お前達に付き合うつもりは無い!」


男「こっちは親切で言ってるんだ。」


エレナ「く、こいつ!・・・ん?あ!ま、待て!」


男「は?・・ふげ!」


気が付いたら既に男を殴っていた。短気は損気なんて言葉を聞いたのを思い出す。

地球にいた時はこんな簡単にキレるなんて無かったと思う。知り合い以上の女の子が悪漢に絡まれている現場に出くわした事も無いけど。もしかして肉体が精神に強く影響されている事への弊害か?それはそれで困るが、今は良いや。・・・良く無いか?


俺「大丈夫か?」


エレナ「待てと言ったろ!助かったけど。」


俺「下がってろ。こいつ等まとめて叩きのめす。」


エレナ「いや、これは私達の問題だ。」


俺「そっちが手を出したらその方が問題になるだろ?」


エレナ「だけど!」


俺「良いから今日は下がってろ。」


エレナを下がらせたが、残りの奴を片付ける前に最初に殴った男を仲間の方へと蹴り飛ばす。


男「ぐへ!」


男達「野郎!」


エレナ達から離れギルドの中央へ移動する。

男の1人が殴りかかって来る。俺は男の右ストレートを左手で払いのけ右で殴ろうとするが、相手はそれを防ごうと構える。俺は殴らず前蹴りで男の腹を蹴る。続けて顎蹴り上げて倒す。

今度は俺の右側からリバーブローを繰り出そうと別の男が迫る。俺はリバーブローを防ぎ顔面を殴る。続けて肩を掴み脚を払い、薙ぎ倒す。

更に別の男が蹴りを出す。ハイキックで頭を狙ってくるが俺はスウェーで躱す。片脚を軸に蹴りの軌道を変える。ミドルキックからローキック、ミドルからハイにローからミドル、フェイントを入れながら攻撃してくる。よく映画で観る脚技の類いだが、映画等で観た動きに似ている。

お陰で避ける事事態は難しく無い。流れだとそろそろ軸脚を変えるだろう。そこで突然動きが変わる。先程まで蹴りに使っていた右脚を素早く軸に切り替える。次は左の蹴りだ。俺はその左膝に掌底を当て無理矢理叩き落とす。そのまま奴の左脚を右脚で抑える様に踏む。


男「ぐお!・・・かは!」


俺に脚を踏まれよろめく男の喉に掌底を当てる。俺は男が首を抑え苦しんでいる隙に、男の顔面に回し蹴りを喰らわす。男は回転しながら倒れ、最後の1人が両手を広げて近づいて来る。

体格が良いから俺を投げる気だろう。俺は掴まれる前に素早く近づき腰を深く落とし、そいつの腹に拳で突きを入れる体格差があるから当然[気]を使う。


男「ぐぅ!」


呻き声を上げ吹き飛ぶ。いつの間にかギャラリーが集まり勝手に騒いでいた。


野次馬1「おい!あいつ等、負けたぞ!」


野次馬2「好き勝手やって来た罸が当たったんだな。」


てっきり冒険者全員が敵になると思ったけど、日頃の行いが悪いのか、あいつ等に味方する方がいない。


男「おい!何の騒ぎだ!」


建物の2階から誰か降りて来た。


エレナ「げ!支部長!」


支部長って事はギルドマスターか、いたんだな。これだけ騒いだのに今更登場か。黙認するつもりだったのか、それとも本当に気付いて無かったのか。


男「支部長!こいつがいきなり殴って来たんだ!何とかしてくれ!」


殴ったのは確かに俺が最初だ。否定できない。どうするかな?


エレナ「いや、こいつ等に絡まれた私を助けてくれたんだ。悪いのは私達に酷い事をしようとしたこいつ等だ!」


支部長「それで?見ない顔だがお前は誰だ?」


普通自分から名乗って人に名前を聞くべきじゃないか?


俺「ただの傭兵だよ。この騒ぎ、確かに最初に殴ったのは俺だけど。動機はそいつ等が俺の身内に手を出そうとしたからってのも事実だ。」


支部長「要するにまたお前達の起こした揉め事か。いい加減にしておけと前に言ったはずだが?」


男「いや、俺達はあいつ等を助けてやろうとしただけで。ついでに仲良くようと。」


支部長「だとよ。」


エレナ「断る!」


支部長「お前達、もうあいつ等に手を出すな。面倒だから。」


男「な!じゃあこいつはどうするんだ!」


支部長「5人掛かりで負けたのにまだやるのか?こいつはまだ余力がありそうだぞ。多分本気出したらお前達ただじゃ済まないぞ。」


エレナ「支部長、悪いけど今日は帰る。行くぞシリウス。」


俺はそのまま連れ出された。エレナの仲間も一緒だ。今思えば彼女達を無視して話を進め過ぎたかな?


俺「悪い、後先考えず勝手に暴れて。」


エルフ「良いわ。あいつ等には迷惑してたし。」


僧侶「はい、暴力はどうかと思いますが、助けて頂いた事は素直にお礼を言いたいです。」


この2人は地球のゲームでジンが仲間にしない場合は必ずエレナが仲間にする2人だ。ゲーム通りなら中々優秀な部類に入っていた。俺の記憶自体は15年前だから朧げだけど。

名前は確かエルフがトリッシュで僧侶がシャノンだっけ?一応予定では人族の騎士とドワーフの戦士が仲間になる筈。中々に定番な布陣だけど別に構成は悪くない。


俺「そう言えば前衛は?」


トリッシュ「今はまだいないからエレナがやってる。」


俺「え?大丈夫なのか?魔法使えないだろう。」


エレナ「その辺はお前に教わった体術とかを使ってる。簡単でそこそこ威力のある魔法も使いながらなんとかやってる。」


シャノン「ええ、後はトリッシュの弓と私の防御と回復の魔法で補う感じですかね。」


トリッシュ「私も敵に近付かれた時の為にナイフは使える様にしてるし。」


知らない間にエレナが魔法剣士というか魔法戦士になっている。無いなりに上手くやりくりするのは良いけどちょっと不味いか?シャノンは記憶通りなら防御魔法なんて使えないけど。トリッシュも近接戦なんか出来なかったはず、やばいまたアイリスに怒られそうな事が起きてるかも。

そんな事を考えていたがそれより更に面倒な話になった。


エレナ「なあ、私達の仲間になってくれ。それで前衛をしてくれないか?」


俺「は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る