幼馴染
俺と魔将は互いに一歩踏み出し、双方の抜き放った刀がぶつかる。普通の刀だったら今ので酷い状態だろう。一旦離れ、もう一度距離を詰め直す。奴は刀を上段から振り下ろし俺はそれを受け流す。そして今度は俺が振り下ろす。
奴はスウェーで躱し直後に突きを放つ。俺は下から振り上げ、奴の刀を弾くと左から横薙ぎに振る。流石は敵将というべきか刀を引き戻し受け止める。
俺は構え直し突きを出すが、奴は俺の刀を打ち落とし横薙ぎに振る。俺は右から来る刃をスウェーで下がり躱す。
再び距離置きお互い呼吸を整える。時間にして数秒の攻防だが疲れる。気を抜かないよう努めるが、体力も精神力も使っている。
魔族と人間の違いがあるから身体能力的にはこっちが遥かに劣る。そんな俺にこの本気モード・・・解せん。
俺「お前手加減て言葉知らないのか?」
アルバート「ハァ、ハァ、ふざけるな!貴様の様な化け物相手に手加減など出来るか!何度冷や汗をかいたと思う!」
俺「知るかよ。そんなに怖いなら帰れよ。」
アルバート「フゥ〜。そうはいかん!貴様はここで仕留める!それは決定事項だ!」
俺は地球にいた時から運が無い。こんな奴に目を付けられるとは泣けてくる。俺の感情を気にする事無く、さっきの冒険者パーティが何か話している。
戦士「おい、あいつ無駄に強くないか?」
魔法使い「本当ね。下手すると彼1人いれば前衛は充分じゃない」
弓使い「確かに2人より優秀じゃない?」
リーダー「待て待て!俺達を置いて目立つな!」
ラガー「待つのはお前達だ!アルバート様の邪魔はさせん!お前達はここで奴が死ぬのを指を咥えて見ていろ!」
何か周りが勝手に盛り上がってる。
ラガーよ。ちゃんとアルバートの顔を見ているか?"こいつ、余計な事を言うな!"って顔してるぞ。案外結果が分かって困ってるんだろう。俺もドワイトに比べるとやはりアルバートは弱いと思う。そろそろ決着だ。これ以上こいつ等に構ってると日が暮れそうだし。
俺「そろそろ終わろうか?」
アルバート「くっ!」
アルバートとしてもここで引くわけにはいかないだろうが、自分で言うのもどうかと思うけど格の違いってのを痛感しているから完全に腰が引けている。緊迫した睨み合いに限界が来たのか奴から仕掛けて来る。振り下ろされた刀に合わせる様にこちらも薙ぎ払う。バキン!と炸裂音、縦と横でクロスする様にぶつかるとアルバートの刀身が折れる。
アルバート「が!」
俺は素早く上段から振り下ろしたが、奴の反応が早かったのかそれともたまたまか、俺は奴の左眼を斬り続けて胴を狙う。
ラガー「アルバート様!ぐは!」
ラガーが間に入り代わりに出血する。
アルバート「ラガー!・・・ガース!撤退だ!」
ガース「はっ!おい!角笛だ!早く撤退の合図を!」
いるのは知らなかったが、例のガースがゴブリンに命じて撤退の角笛を吹く。位置から考えてあいつはランドと戦っていたみたいだ。見るとランドは無事らしい。他の部下達も大丈夫の様だ。アルバートはラガーの死体を抱えながら
アルバート「く!次こそは!」
俺「お前に次があるのか?」
奴は俺を睨み魔物達と逃げていく。これで今日は終了かな?疲れた。帰って少し寝よ。その後に飯だな。
ランド「お疲れ。さっきは済まなかった。俺があのガースとか言う奴を倒していれば逃さずに済んだかも知れない。」
俺「そうとも限らないさ。とりあえず皆無事だったんだ。今日はそれで良いさ。」
ゲイツ「勝鬨だ野郎ども!」
皆一斉に叫ぶ。だけど俺は叫ばない、ちょっと恥ずかしいから。そういえばあの冒険者は?そう思い、辺りを見回す。
リーダー「俺達は弱いのか。下っ端すら倒せないとは。」
弓使い「いやでも、私達もまだ伸び代があるって事じゃない?」
魔法使い「そうだよ。元気出して。」
戦士「それに大した怪我も無く、ミノタウロスを撃破したのは事実だ。これについては誇って良い筈だ。」
魔法使い「良い事言う。その通りだよ。次こそはね?」
リーダー「そうだな!次は奴も奴の仲間も全て倒す!」
一連の会話を聞いて立ち直り早!とは思うがまぁ、良いか。近付くとまた絡まれるだろうからとりあえずそっとしておこう。俺は気持ちを切り替えてランド達の様子を見に行く。
バート「ランドさん惜しかったッスね。後少しで倒せたのに。」
ランド「仕方ないさ。それより他の皆んなは?怪我とかしてないか?」
アン「皆んな無事です。」
ランド「よし、皆んなお疲れ。都市に帰ろう。」
部下達「はい!」
俺「何か士気が上がってる気がする。」
ランド「ああ、多分君のお陰さ。」
俺「ん?」
ランドが言うにはミノタウロスを単独で倒し、敵の将である魔族すら退けた。そんな俺の姿が格好良く見えたのか、皆んな何かしらの影響を受けたらしい。個人的にはただ普通に戦っただけだが、皆んなのやる気に繋がるなら良いかとも思う。
例によって都市に帰り、報酬の受け渡しと祝勝会だ。いつもながらそれなりの額だ。結果としては悪くないが、またしばらくこの生活ともお別れだ。お別れと言っても戦場が変わるだけでやる事は変わらない。それに寂しくも無い。正直戦わなくて済む職場に変わる方が良いけど、こればっかりは仕方ない。神様からの命令だ。天命とでも言うべきかな?
ゲイツ「よう。明日、行くのか?」
俺「ああ、そろそろ行かないと。」
ゲイツ「生きて帰ってこいよ。」
俺「ここより良い所を見つけて帰ってこないって場合もあるぜ。」
ゲイツ「フッ、それでも良いさ。身内が死ぬよりよっぽど良い。」
俺「一応、一通り方が付いたらまた戻って来るよ。」
ゲイツ「へっ、期待しないで待ってるさ。」
翌日、皆んなに別れを告げ辺境都市を出ることにした。世話になったオッサン共やランドに、そして小隊の部下達にも挨拶した。部下達は行かないでくれと言う奴もいたが、ランドが説得してくれた。オッサン共は特に気にしていなかった。しんみりするのは嫌いだから構わないけどなんか言う事は無いのか?
ティム「うん?どうせまた帰ってくんだろ?まぁ、風邪は引くなよ。」
ダン「今度帰ってくる時は土産よろしくな。」
ジーク「うむ。ご当地の食い物が良い。」
俺「遊びに行く訳じゃないけど?」
ランド「寂しくなるな。気を付けて行ってくれ。」
俺「分かってるさ。じゃあな。」
とにかく先ずはジンの所に行こう。そろそろ仲間が出来て戦う準備が整っている頃だろうか?
何かフォローが必要そうなら手伝うし、要らない様ならエレナのサポートに向かおう。最終戦に2人は必要不可欠だからな。5日程かけてジン達の学園が課外授業をしている町に辿り着く。
しかし俺はその町である意味、重大な事件に遭遇する。正確には大分前から事件は起きていたが、この町に来て初めて知ったのだ。もっと早くに動くべきだった。俺が以前良かれと思ってした事が、今になって歴史を変えていたのだ。
俺が以前取った行動、それは何の後ろ盾も無いジンが貴族社会で少しは頑張れる様にと故郷にいた時、俺の独自の戦闘訓練で多少とはいえ鍛えた事に端を発している。
俺は町に来てジンを探し、そして知ったのだ。そう、ジンは・・・・"ぼっち"になっていた。膝を抱え1人で座っていた。
俺「ジン!どうした!友達は?仲間は?」
ジンは最初俺が誰か分からなかったようだが、次第に俺が幼馴染のシリウスと分かったのか泣き出して
ジン「ジリウズ〜、会いだがっだ〜。」
泣いているジンが落ち着いてから話を聞いた。
ジン「実は学園入った時、同じ組みに嫌な伯爵家の嫡男がいてさ。そいつが身分が低いってだけで他の生徒をいじめてたんだ。だから止めたんだけど。決闘だって言いだしてさ。」
流れとしては正しい。地球でしたゲームの最初のイベントで、貴族の子供と喧嘩になり決闘する事になる。このイベントは負けイベントで、助けた生徒と協力しながら一緒に苦労したり仲間を集めたりする様になる。その生徒は最終的に大して強くならないから俺は終盤では使ってなかった。
ジン「そしたらその次期伯爵、予想より遥かに弱くてよ。シリウスと比べると全然でさ、開始2分くらいで勝っちまった。」
あれ?ゲームだと何回やっても勝てなくてインターネットで調べると最大レベルまで上げると勝てる。みたいな噂まで流れたイベントだけど?俺は結局諦めたけど勝てるの?あの決闘?ていうかジンは一体どれだけ鍛えてたの?とにかく続きを聞こう。
俺「それで勝って生徒助けたんだろ?仲間にならなかったのか?・・・あ!圧力かけられたのか?」
ジン「いや、そうじゃなくて。」
"助けてくれた事は本当に感謝してるよ。でも貴族を本気で倒すのはちょっと。第一、相手は次期伯爵だよ。後でどんな目に会うか分からないから。ごめんね。それじゃ。"
ジン「だってさ。」
俺は頭を抱えた。俺はジンのこれからを心配して鍛えたのに友達や仲間を作る為のフラグを知らない内に破壊していた。
俺「だけど、そいつが駄目でも他は?まだ他にもいただろう?」
ジン「まぁ、声はかけたよ。だけどさ。」
"あんた確か貴族ぶっ飛ばした奴だよな?ちょっとそういうのは。俺も目を付けられたく無いんだ。"
"ごめんなさい。"
ジン「そういう感じで、誰も俺とは関わらないんだ。だから今日も1人。」
俺「ごめん。ごめんよ。」
俺は謝らずにはいられなかった。まさか良かれと思って鍛えた筈なのにこの状況。veryhardの難易度をレベル1の状態で開始する様なものだろう。鍛えたからレベル1では無いか?いや、それよりもこのままだとジンは1人で魔王と戦う事になる。だけど友達や仲間に関しては俺がどうこう出来る話じゃないだろうし、今出来るのは
俺「・・・・課題、手伝うよ。」
ジン「ありがたいけど大丈夫なのか?色々大変だぞ。それと俺が1人なのはお前の所為じゃないから謝らなくて良いさ。」
ジンは知らない間に人としてちゃんと育っていた様だ。俺はちょっと嬉しい。
ジン「何かお前、少し見ない間に涙脆くなってないか?さっきから泣きっぱなしだぞ?」
俺「すまん。何か色々考えると涙が。」
ジン「まぁ、良いや。お前がいれば百人、いや千人力だ。」
協力する為に場所を移動しようとすると3人組が近付いて来た。あいつ等は確か例の負けイベントで出て来た貴族の取り巻き達だ。名前までは知らないけど。
坊ちゃん中「おい!平民!相変わらず暇そうだな!俺達の荷物持ちくらいはさせてやるぞ!」
坊ちゃん右「おい!聞いてるのか!返事をしろ!そもそも頭を下げるのは貴様の義務だぞ!」
坊ちゃん左「その小汚い奴は何者だ?とっとと片付けろ!」
俺はゴミか何かか?この『世界』に来てから少し性格が変わったのか、イラッとする頻度が上がったかも知れない。俺自身今どんな顔をしてるか分からないが気分は間違い無く悪い。あの悪ガキ4人組と対峙した時を思い出す。
ジン「こいつは俺の幼馴染で、今は傭兵やってるけどお前等に言われる筋合いは無い。」
坊ちゃん左「傭兵だと!」
坊ちゃん中「なら平民より下じゃないか。ならば遠慮する必要はないな。」
何か更に変な事言ってる。元々遠慮なんてして無いだろ。こいつは性根を叩き直した方が良い。そう感じた。
坊ちゃん中「フン、仕事が欲しいなら俺の召使いとして雇ってや・・・。」
奴の言葉が途切れた。それもその筈、気が付くと殴り飛ばされていた。殴り飛ばしたのは俺だけど。そもそも殴るつもりは無かったんだが、無意識のうちに殴っていた。条件反射ってやつだな。そこだけ聞くと俺がヤバい奴だと思われそう。
そういえば隣に幼馴染がいた。ジンの方を見ると"お前!何してんだ!"って凄く驚いた顔をしていた。そんなジンに俺は笑顔を向けて誤魔化す事にした。
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