ジン
俺は大人になっても故郷の町で親父のパン屋を継いで生活しながら、ずっとエレナやシリウスと一緒に過ごす。そんな人生が続くと思っていた。
変わったのは遊び感覚で受けた祭りの余興だった。地元の人間からすると完全に余興だけど神父様や国の貴族達にとっては違う意味があった。
基本、職業の資質とかは親から子供に継承されるらしい。俺の親父やお袋はそんな職業じゃない。親からでは無くいきなり授かるという事は珍しいとそう聞いた。だから周りの大人達は大騒ぎで、子供ながらに俺って凄いのか?と少し嬉しくなった。
だけどそれが原因で町から離れる事になった。シリウスの提案で親父とお袋は一緒に王都に来れたがあいつ等とは会えなくなった。
シリウスは俺の事を気にしてくれたのか、俺が引っ越す前にある程度の勉強と組手、基礎体力を鍛えてくれた。勿論[気]の練り方や感じ方も練習したけど魔力と反発するのか俺は扱えなかった。それでも練習自体は無駄では無く魔力の扱いに関しては相当上手くなった。シリウスが考えた魔法を破壊する技も使える様になった。
学園は少ないけど平民も入学出来る所で、俺以外の平民の子供もいた。入学する平民の子供達は学園に入る前に、少しだけど貴族社会の勉強をさせられる。シリウスに文字を書いたり読んだり少しだけど、教えられたからかある程度はなんとかなった。シリウスのお陰かその時は普通に他の奴とも仲良く出来ていた。
本格的に学園に入ると直ぐに例の決闘事件が起き、その事件がきっかけで俺は今も完全に1人になった。
だけどまさかこんな所で幼馴染と再会するとは思わなかった。ある意味俺にとっては兄貴みたいな奴だ。色々知ってるし、困ってる時は助けてくれる。一緒に怒られた事もあったけど良い友達だと思う。
あいつは会わなくなってから5年近く経って見た目は少し変わったけど、他は相変わらずで俺はホッとした。課題を手伝うと言ってくれたから協力して貰う事にして、移動を開始した。でもその矢先また面倒事が起きた。決闘の時にいた取り巻き達がまた喧嘩を売ってきた。俺が色々言われるのは構わないけどシリウスは何もしてない。だから悪く言われるのは嫌だった。
シリウスの事が気になり、シリウスの方を見た。シリウスの顔を見た時、子供の頃のある出来事を思い出す。俺が故郷の町にいた時で、悪ガキ4組に初めてシリウスが絡まれてる所だった。今思い返すとシリウスはビビっては無かった。それどころか凄い冷めた目で4人を見ていた。当時の俺は気付かなかったけど。
相手は4人でこっちは俺とシリウスで2人、勝ち目は無い。だけどここで俺が逃げる訳には行かない。そう考え、意を決して突っ込んで行った瞬間だった。
マット「な!」
右手の平手打ちがマットの顔に当たった。多分マットは"何とか言え"とか言いたかったんだろうけど、最初の"な"を言った瞬間に吹っ飛んだ。飛んだというよりはっ倒されたって感じで、当たりも良かったのか一発で気絶していた。
カイル「な!」
続けてカイルが多分"何すんだ!"っていう感じの"な"を言った瞬間、左の平手打ち。丁度あいつ等の立ち位置が良い感じに左右で分かれていたからかも知れないが、流れる様に打ち抜く。
スレイ「・・・な!」
次は右手でスレイを叩く、スレイの驚いた顔から"何だこいつ!"とか言うつもりだったのかなとか思うけど、あいつは言えてないしこっちも聞かなかったから実際どうなのかは今も分からない。最後のクライドは泣きながら後退りして
クライド「・・・な。」
位置的な問題か平手打ちというより張り手が、クライドの顔面に直撃した。
クライドはきっと"何もしていない。"と言いたかったんだろう。張り手だから殴られた訳じゃないけど、他の3人より酷い気がする。
俺はというと意を決して飛び込んだから途中で止まれずにシリウスの前へ行ってしまう。
シリウス「おう、ジン。どうした?」
ジン「いや、大丈夫かな?ってさ。」
シリウス「ん?・・ああ、大丈夫だ。行こうぜ。」
ジン「クライドは多分"何もしてない"って言おうとしたんじゃないか?」
シリウス「他の悪ガキ共を止めてないなら同罪だろ?」
シリウスは4人を気にする事なく移動した。俺も付いて行く。この時の事は今でも覚えている。俺はこの時、シリウスは怒らせない様にしようと心に誓った。
そんなシリウスがあの時と同じ顔で貴族達を見ている。何となくヤバいとは思う反面、俺達はもう15歳だあの時より大人になった。人をいきなり叩くなんて事はしない筈、そう思っていた。まさか平手打ちどころか拳骨で殴るとは。
流石に不味いと思ったのかぎこちない感じで俺を見る。シリウスは笑顔を作り誤魔化した。
ジン「そんなんじゃ誤魔化せないだろう!」
俺は叫んだが、同時に久しぶりにあった友達は昔と変わってなかったのが少し嬉しかった。
坊ちゃん左「貴様!何をする!」
シリウス「あ、ごめん。つい腹が立って殴っちまった。」
坊ちゃん右「平民が"つい"で貴族を殴るな!」
シリウス「え?お前等が悪のに?」
坊ちゃん達「何だと!」
シリウスは相手が誰でも構わず物を言う。
ジン「相手は次期当主の貴族ばかりだぞ。てか、拳骨で殴るなよ。」
シリウス「すまん。つい加減を忘れた。」
坊ちゃん右「謝るべきはこっちだろう!」
?「おい、どうした?」
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