勧誘

とうとう15歳、本格的に話が始まる。今気にすべきは魔族達の事だけど不意に気付く事がある。"あ!俺この世界に来て15年経ったんだな"と。別に特に意味がある訳じゃない。こんな訳の分からない世界に来て15年間も何してんだ?とかたまに思う。

気を取り直して本題に入ろう。全てが全てシナリオ通りに行くかは分からない。既に俺の干渉で予定が変わった所もある。全て把握出来ていない部分は完全に不安要素だ。

とはいえ何もしないという選択肢が無い以上こちらも本格的に行動を開始するべきだ。エレナに関しては様子を見ている限り大丈夫だと思うが、問題なのはジンだ。学園に入る為に王都に行って、それからは会っていない。今どういう状況か分からないし、アイリスに頼んだと言えば聞こえは良いけどただの丸投げだ。今の所、緊急連絡も無いしそこまで問題は無いと思うけど。あれ?もしかして忙しすぎて連絡出来ないとか?それはそれでヤバい気がする。王都に向かうべきかな?確か予定通りならそろそろ課外授業という事で学外に出る頃だと思うけど。とりあえず見に行ってみるかな。


?「おい!シリウス!そろそろ時間だぞ!行こう!」


2年程前に入った新顔で、歳は俺と同じで15歳の男だ。中々優秀で状況判断の能力が高く、俺より後にここに来たが今は俺より出世している。

名前は"ランド"だ。正式にはもう少し長いらしい。何故なら元々貴族の嫡男だったらしいけど、職業選定の儀式で聖騎士みたいな貴族らしい職業が貰えなかったから廃嫡されたという。ついてない奴だなとは思うが、その貰ったという職業は悪くない。貰った職業は鑑定士だと言う。大体の物は見ただけで直ぐ鑑定出来るらしく、普通に生活する分には苦労しないだろうと思う能力だ。けど納得出来なかった家族はその流れでランドを廃嫡にしたらしい。

ランド自身は確か"ノブレスオブリージュ"だったかな?それに近い想いがある様で、貴族として生まれた以上は廃嫡されたとしてもそれなりに義務を果たしたいという願望はあった。ただ今の自分の状況だと騎士にはなれない。それで身分に関係無く人々を守れる傭兵になったらしい。冒険者の選択もあったがあっちはどちらかというと何でも屋だ。民衆を守るのとは違う。だけど辺境の傭兵団は国を守る仕事が主だ。傭兵になる決断をしたのはそういう事らしい。因みにここの傭兵団に入ったのはたまたまだと言う。

それにしてもこいつは元貴族だけど常識があり、俺より出世しても威張る事もない。至って真面目な少年だ。こいつこそ、この国の将来にとって必要な男だと思う。

他にも変化はあった。別の都市でも魔物の出現率が上昇し、冒険者と傭兵の需要が高まった。お陰で人が増えランドの様なケースで傭兵になる者もいれば、ただ単にお金が欲しいという理由だけで傭兵になる者や冒険者がこの辺境に集まっていた。たがそれとは違う理由で来る奴もたまにはいる。


冒険者「おい、お前が噂の剣聖魔人とか言う奴か?」


俺「いや。」


真顔で素早く否定する。どうせ勧誘だ。仕事は下働きの要員だろうし関わらないに限る。


冒険者「何?じゃあ本人は何処だ?」


俺「どっかその辺にいるんじゃないか?」


冒険者「チッ、邪魔したな。」


冒険者達は"剣聖魔人"を探しにいった。入れ替わりにランドが来る。


ランド「剣聖魔人って君の事だよな?」


俺「俺は名乗った覚えが無い。」


ランド「後で戻って来るぞ。無駄な事させたんだ。怒られるんじゃないか?」


俺「あいつら、言う程俺に興味なんか無いさ。あだ名だけで名前も顔も知らないんだ。ただの雑用をさせる為の人間が必要なんだろう?」


ランド「相変わらずこの国の価値観は酷いな。」


俺「差別主義はよろしく無いが、これくらいは何処にでもあるだろう?人が人である以上これは仕方ないと思うけど?」


ランド「フッ、達観してるな。さぁ、作戦会議だ。」


俺「俺いる?」


ランド「仲間の立ち位置は把握しておいた方が良いだろ?」


俺「分かったよ。行くさ。まぁ、その後は指揮官殿に全部任せるよ。」


ランド「はぁ〜、その気になれば俺より君の方が隊長に向いてると思うけどな?」


俺「俺があの乱戦の中で上手く捌けるわけないだろ?」


傭兵団も数が増え分隊やら、小隊だのと分けて動く様になった。俺も隊長になりそうだったが、面倒な感じだから代わりにランドを推した。以外とハマり役だったのか部下は同じ歳から3つ下まで5人の小隊で残りのメンバーが隊長のランドと副隊長の俺だ。なんだかんだで副隊長にはさせられてしまった。準備運動しつつランドの話を聞く。


ランド「という事で今回も俺達の仕事は補給と支援、そして援護だ。無理はするな。必要とあらば戦うのも仕方ないが基本は人命を優先しろ。」


ランドは部下達に話しかける。新人達にあまり無理はさせたくない団長が新人の教育係的な部隊として作った側面はある。話の流れで部下の1人のバートが


バート「ランドさん、シリウスさんちゃんと聞いてるんスか?毎回参加してない気がするッスけど?」


ランド「フッ、あれでちゃんと成果を出してるだろ。いざという時は俺達のフォローはしてくれているさ。」


バート「俺、見た事無いッス。」


別の部下であるアンが言う。


アン「私は見てるけど。こっちに向かって来た魔物を私達の所に辿り着く前にアッサリ倒してるからね。」


最近では冒険者に比べると比率は少ないが女性でも傭兵をしている人がいる様だ。よっぽどの事があるんだろう。まぁ、皆最近入った新人だ。いつも通りこいつらに注意しつつ仕事するか。


ランド「さて!そろそろ始まる頃だ。配置に付け!シリウス!頼むぞ!」


俺「おう。」


冒険者「おい!お前!」


俺「ああ、さっきの。お疲れ〜。」


冒険者「ああ。・・・じゃない!お前色んな奴に片っ端から話しかけて最後に傭兵団長のゲイツに聞いたら剣聖魔人はやっぱりお前じゃないか!」


俺「俺、自分から名乗ってねぇしな。勝手に俺の名前みたいに言われても。」


冒険者「チッ!まぁ、良いさ。お前を俺達の部下にしてやる。感謝しろ。」


俺「断る。」


冒険者「フッ、そうだろうな。・・・はぁ?今なんて言った!」


俺「断るって言った。どうせ雑用だろ?他当たれよ。こっちはこれから忙しくなるからお前達の遊び相手は無理。」


これから『世界』救済の手伝いをしなきゃならないからな。色々大変なんだよな〜。


冒険者「お前は傭兵だろう?これから英雄として名を馳せる"蒼天の天馬"のチームに入れるんだ。雑用でも栄誉だろ?」


俺「何言ってんだ?お前等ただの駆け出しだろ?偉そうな事言うのは大物打ち取ってからにしろよ。」


冒険者「言ったな!お前より俺達が優秀と証明出来たら俺達を認めるな!」


俺の返事を待たずに走り出す。というか俺より優秀なら俺は必要無いだろう。あいつ大丈夫か?


ランド「良いのか?あいつが優秀って事になると引き抜かれる事になるんじゃないか?」


俺「認めるとか、認め無いは関係ないだろ?ただ凄いですね。って話になるだけだと思うけど?」


ランド「あのタイプの人間がそれで納得するか?」


俺「経験から言って無いな。あいつが優秀って事になったら騒ぎになるだろうけど、俺が勝てば問題無い。」


ランド「はぁ〜、君も歪んでるな。」


俺「フッ、まぁ、ちょっと行ってくるさ。」


いつも通り魔物達の角笛で一斉に走り出す。ゴブリンとコボルトを倒しランド達の方を確認する。部下達は滞りなく仕事をこなしていて、ランドはコボルトより2回りでかいオーガ、鬼の魔物と戦っている。中々苦戦はしているが体格的には負けてない。とりあえず任せて大丈夫だな。ランドとは反対の所から今度はミノタウロスが現れる。


冒険者「フッ、大物が出たな。よく見ておけ俺達の大活躍を!」


さっきの冒険者達は4人1組のパーティみたいだ。4人でミノタウロスに向かう。魔法使いが牽制、さっきのリーダーが斬り付ける。ミノタウロスの攻撃を素早くタンク、盾を持った戦士が受け止め、別の方向から弓で注意を引く。隙を突く様に魔弾がミノタウロスの顔面に当たり、続けて戦士とリーダーでそれぞれ膝に斬り付けバランスを崩す。高飛車な奴等のわりには中々上手く立ち回っている。以外としっかりしていたから俺は感心する。


俺「へぇ、しっかりしてる。性格はあれだけど。」


そんな事を考えてると今度はランドの近くにミノタウロスが現れる。狙いはランドでは無く部下達だ。補給路を絶つのが狙いだろう。


ランド「な!しまった!」


バート「ぎゃ〜!」


間に入り居合い抜きの構えをする。鍛練のお陰で最近使える様になった技を使う。短い距離だが斬撃を飛ばせる様になった。鎌鼬みたいな物だけど。最初の一太刀で胴を返す刀で心臓の辺り、そしてラストで首を狩る。一応3回斬り付けたが速すぎるのか人によって感想が違う。


バート「何で一太刀で3ヶ所斬れるんだ?」


俺の動きが目で追えない人は大体同じ反応だ。ただランドはちゃんと見えてる様だ。


ランド「いや、あれは数秒で3回斬ったからだ。」


バート「そんな事出来るんですか?」


ランド「俺には出来ないがシリウスには出来るんだ。」


俺「お前、防ぐだけなら出来たろ?」


ランド「来ると分かれば何とかなるさ。」


バート「ランドさんはやっぱり凄いんッスね!でもまさかシリウスさんがここまでとは知らなかったッス!」


俺に対する評価が若干変わったみたいだ。何か部下達視線がキラキラして見える。そんな目で見ても何も出ないっての。とりあえず気を取り直して前を向く。また次のミノタウロスが来る。俺は倒す為に走り出す。


ティム「あいつは年々化け物になってないか?それにあいつの剣、なんか初めて見た時より長くなってる気がする。」


ダン「ああ、俺も気になって聞いたらあいつ自身の身長に併せてサイズが変化してるらしいですよ。」


ティム「はぁ?大丈夫なのかあの剣?」


ダン「いや、俺に聞かれても。」


ゲイツ「まぁ、今ん所何も無いんだ。大丈夫だろ?」


ティム「あんたは適当だな!」


ゲイツ「俺は本人達の自主性ってやつを大事にしてんのさ。」


ダン「物は言い様ですね。」


ティム「だな。」


ジーク「皆、いい加減働いたらどうだ?まだ数が減らないぞ。」


ゲイツ「おい、ジーク。左肩に魔物の臓物が乗ってるぜ。」


ジーク「うん?ああ、本当だ。」


ダン「ぶわ!おい!ジーク!そんな片側を引っ張るから血が俺の方に飛んで来たぞ!もっと優しく両手で持つ様に外せよ!」


ジーク「何を言う。乗っていたのは俺の肩だ。という事は使えるのは反対側の手だけだ。それにそこまで言うならお前が取ってくれたら良いじゃないか。」


ダン「あのな、女の口元に付いてるクリーム取るのとは訳が違うだろ!何が悲しくて野郎の肩にある魔物の臓物を優しく取る必要があるんだよ!」


ゲイツ「お前等も仲良いな。」


俺「あのさ。」


オッサン一同「ん?」


俺「いい加減働けよ!数が全然減ってないぞ!傭兵にとっちゃ稼ぎ時だろ!」


ゲイツ「いや〜、何か、俺達要らないかな?ってさ。」


俺「アホな事言ってないで早く行け!」


オッサン一同「は〜い。」


俺「はぁ〜。」


冒険者「おい!剣聖魔人!ミノタウロス討ち取ったぞ!みたか!」


さほど傷も無く、疲労していない感じで現れた所を見ると危なげなく討伐出来たんだろうとは思う。チームワークも良さそうだ。だけどそう考えると俺みたいなのが入ったら逆に揉めるんじゃないか?


冒険者「それでお前の成果は?まぁ、大した事が無いとしても俺は攻めん。さぁ!言ってみろ!」


別に隠す事でも無いから正直に言う。


俺「ゴブリン20匹とコボルト10匹、後はミノタウロス3体。」


瞬きしながら固まる冒険者。


冒険者「何だって?」


俺「うん?もう一回聞く?」


冒険者「そんな馬鹿な!傭兵がそんなに討ち取れる筈があるか!」


何言ってる。その傭兵を雇いたいと言ったんだろう。確かに単独の戦果としては異常かも知れないが。高飛車冒険者が俺の前で土下座をしてる様な格好で叫んでいる。人目を気にしてないのかな?そんな事を考えていると


ラガー「久しぶりだな!」


冒険者「ぬ!誰だ?」


俺「知らね。」


ラガー「アルバート様の右腕であるガース様から命を受けたラガーだ!」


冒険者「何だ下っ端か。」


俺「いや、下っ端の下っ端だ。」


ラガー「その訂正は要らないだろ!というか下っ端言うな!」


冒険者「ならばお前は俺達が倒す。」


ラガー「フッ、良いだろう。俺をコケにした事、後悔させてやる。」


ラガーと冒険者達は一緒に別の場所に移動する。広い所の方が良いっちゃあ良いけど、あいつ案外他人を気遣う奴なんだな。ただの野次馬根性で眺めていると不意に話かけられる。


?「お前が剣聖か?」


俺「そう言うあんたは?」


アルバート「奴が紹介した第一師団3魔将の1人、アルバート・ウェイドだ。」


俺「へぇ。」


前も思ったが地球にいた時は3魔将とやらは見かけてない気がするけど。ゲームではたまたま別の戦場にいて見てない可能性はあるが。


アルバート「貴様のお陰で魔将が減ってな。私の仕事が増えたよ。奴との仲は元々険悪だったから別に復讐しようなどとは思わん。だが貴様を野放しには出来ん。ここで始末する!」


また面倒なのが出た。しかも少し強そうだ多少の本気は必要かな?そう考えながら構える。そこで気が付く。奴の武器も刀だった。異世界に来て初めて、時代劇で見る一騎打ちのシーンみたいに睨み合う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る