家族

予言と言っても占いの延長でたまたま当たりが続いていただけだと思っていた。家業と言うべきか家族だけでなく一族で占い師をしていた。気付くと母は予言者と呼ばれていた。

確かに時が経つにつれ、占いが良く当たる様になったがそんな大層な人では無いと思っていた。

あたしも多少の占いは出来るが、運命を変えるにはどうすれば良いかなんて聞かれても答えられない。あたしはその程度の腕だから小さい頃からここにいても仕方ないと感じていた。それにあたしには姉がいた。姉は後継者としてやっていける位の実力があったし、あたしはいてもいなくても良いだろう。そう感じていた。

一族の暮らす村は森の奥にあり、今暮らしている家と似た所だった。今思えばあたしは案外あの村での生活がそこまで嫌いでは無かったんだろうと思う。16歳の時、母がある予言をした。あたしはどうせ何処かの貴族の不幸か何かだと思っていたが、その予言は魔王と勇者の話だった。

聞いた時は母の正気を疑った。何だいその話?そう思っていた。

話の内容はざっくり言うと魔王が10年後位に現れ、勇者とそれに並び立つ英雄達が魔王を倒すという話だ。しかし何とも良く分からない内容だ。出現する期間も曖昧で今までそれに近い大事件があった事もない。あたしは本気にしていなかった。ただこの話には続きがあり、勇者や英雄の身に不幸が訪れるという話で、その危険から何としても守るようにというお告げだ。

話を信じてないあたしは内容的には今話した様なざっくりした感じでしか覚えていなかった。ただそんなあたしでも予言の最後の部分だけは何故かはっきり覚えていた。


"その者は神の使徒にして剣聖なり、その者は如何なる悪鬼羅刹も退け勇者や英雄達を守り導くであろう。"


それだけはハッキリ覚えていた。

その予言を受け一族総出で勇者と英雄、それと剣聖探しが始まった。本気で聞いていないあたしは乗り気では無かった。その所為で母や姉と喧嘩し、最後は村から追い出された。今にして思えば追放される口実にしたかっただけかも知れない。あたしは一族だとか掟に縛られない自由を手に入れた。

色々な街や都市に行き1人旅を楽しんでいた。ある街で1人の傭兵と知り合った。何でも職業選定で"料理人"を授かったらしく悪態を吐いていた。仕事に役に立たないというから包丁の様な形をした鉈でも使えば役に立つかもな?みたいな話をした。それから話ている内に何故かいい感じになった。同じ部屋に泊まって気が付けば朝だったが、男の姿はいなくなっていた。

いや、もう少し付き合えよと言いたくなるくらいには寂しさを感じていた。

それからしばらく旅をしてある町に辿り着いた。今の家がある森の近くで、エレナ達にとっては幼馴染のジンの家や友達がいる町だ。そこでエレナを身籠もっていた事を知り、そこで暮らす事を決めた。そして何の因果かあたしがシリウスを拾った。

あたしが言うのもなんだがエレナは賢かった。言葉を話し出したのはエレナが先だった。

シリウスはシリウスでなんとなくこっちの言いたい事は理解しているくらいの賢さはあったと思う。

そんな日々を過ごしているとあの衝撃を受ける日が来た。職業選定の日だ。あたしは何故か胸騒ぎがしていたが、結果を聞いて直感した。母の予言に出て来た勇者はジンで英雄の1人がエレナだと。

話の通りならエレナに死が押し寄せる事になる。そんな恐怖と焦燥に駆られていたが、そこで1つ思い出した。母の話に出てきた剣聖だ。あたしはシリウスを見て感じた。ジンとエレナの出逢いが運命ならあの時この子を拾ったのも運命だと。

その予感は当たりだった。何しろ目の前で魔族を蹴散らし、第一師団長とやらと互角以上に渡り合っている。自慢じゃ無いが魔導師としてそれなりに力があったのにこの状況だ。情け無い。

だけどシリウスは見事魔族を追い払った。シリウスにエレナの事を頼みあたし意識を失った。

感じる。あたしはとうとう死んだんだと。皮肉な話だ。一族の生き方が嫌で村を出たのに、最後は母の予言にあった英雄と剣聖をあたしが見つけて育てていたんだ。母の言った通りになった。まぁ、今はあたしの娘と息子がただ無事に助かったと喜ぶ事にしよう。

それにしてもあたしはこの世界で何か成し遂げる事が出来たのだろうか?


"安心なさい。あんたは確かに偉業を成し遂げたわ。あんたが守って育んだ命は世界を救う。だから安らかに眠りなさい。"


ああ、そうか。ならあたしはそれで良いや。



ヴェルダンディ「姉様。あの娘は?」


ウルド「今、逝ったわ。ちゃんと生命の循環の中へ。」


ヴェルダンディ「そうですか。いよいよですね。ここから本番です。」


ウルド「ええ、基本はあいつに丸投げって感じになっちゃうけど。まぁ、あいつなら何とかするでしょ。」


ヴェルダンディ「そうですね。」




俺は"イージス"に戻った。いきなり出てったから怒られるかなとか思いながら団長の所に行く。


ゲイツ「よう、里帰りはどうだった?」


俺「ああ、散々だったよ。」


とりあえず故郷の事や家族に何があったのか色々話した。


ゲイツ「そうか、お袋さんが。しかし良く帰って来た。所でその妹はどうするんだ?」


俺「とりあえずたまに帰って様子を見る事にする。」


ゲイツ「ここで生活するより一緒にいた方が良いんじゃないか?」


俺「俺が一緒だとあいつ自身が強くなれない。そんな気がする。だから今は別々の方が良いと思う。」


ゲイツ「ふ〜ん、そんなもんかね?まぁ、良いさ。で?まだ何かあるんだろ?」


俺「奴らが本格的に動くのは多分3年後だ。だからその時までこの都市にいるけどその後は。」


ゲイツ「また抜けさせて欲しい、か。3年後って情報を何処から仕入れたかが気になるが、好きにしな。その代わり、いる間はきっちり働いて貰うぞ。」


俺「分かってるよ。改めてこれからよろしくお願いします。」


ゲイツ「フッ、おう。」


もう少しこの辺境都市で戦いながら、次にどう動くか考えよう。何しても状況が変わるのはまだ先の話だ。

俺が辺境都市に戻り、約2ヶ月程経った頃。魔物の森との境界線になっている辺境都市4つの内、真ん中の2つの辺境都市が魔族軍に落とされた。この時から大陸全土に魔物が溢れる事になる。

こっちの仕事が増える分、給料は上がるが休みが減る。何ともゲンナリする話だ。

仕事が増えるのは傭兵ばかりじゃない。冒険者もだ。そのお陰と言うべきか"イージス"も人手が少し増える。



私達の故郷の町が襲われてからそろそろ1年が経つ。私がアイリーンを母と知ったのはシリウスが辺境都市に旅立って直ぐだった。初めて聞いた時は衝撃だったし、父親については顔は覚えてるけど名前は完全にうろ覚え状態だと言う。酒に酔っていたからハッキリしないらしい。名前の最初が"ゲ"みたいな感じの記憶らしい。まぁ、父親の事はこの際どうでも良い。"母"という事実を明かされても中々納得できず、私は"母さん"とは呼べなかった。今にして思えば今際の際で無く、もっと早く言えばよかったと後悔している。

今はとりあえずマリアさんの実家で初級冒険者として依頼をこなしつつ鍛えている最中だ。


エレナ「シリウスの奴、大丈夫かな?」


マリア「あれだけ強いから大丈夫よ。それにあまり無茶な事するタイプでは無いでしょう?」


エレナ「そうだけど、あいつキレると平気で人殴るからちょっと心配で。」


マリア「ま、まぁ、確かに。あの悪ガキ4人組は良く彼に平手打ちされていたしね。」


エレナ「あいつらみたいな同じく平民ならまだ良いけど、下手すると貴族も殴りそうだしな。」


マリア「まさか、彼ももうすぐ成人だしその辺はちゃんと理解してるわよ。」


エレナ「だと良いけど。」


マリア「それよりパーティ組んでくれそうな人はいた?」


エレナ「ああ、まだ確定じゃないけど人族の僧侶とエルフ族の弓使いがね。2人とも女性だからあまり気を使わなくて済むかも知れない。」


マリア「最初はそれくらいで良いと思うわ。私の方でも良い人そうな冒険者探してみる。今の話だと前衛がいないみたいだし。」


エレナ「ありがとう。頼むよ。」


仲間は何とか集まりそうだ。気負うなと言われたがやはり気にせずにはいられない。

母さんを殺した魔族達、早く強くなってあいつらを倒す。その為には先ずは仲間を集めて戦力を整える。正直前衛はシリウスがいれば何一つ問題ないと思う。今度来たら頼んでみよう。

そういえばもう1人の幼馴染"ジン"は今頃どうしてるだろうか?故郷の事は知っているのだろうか?ジンにも会いたい。分からないかも知れないけど、シリウスにジンの事を聞いてみよう。あいつならなんだかんだ言って会わせてくれるかも知れない。そんな事を考えつつ今日も依頼と鍛練で1日を過ごす


エレナ「さぁ、今日も頑張るぞ!」


気合いを入れ私は支部に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る