オープニング
同時に動き出す。奴は斧を振り下ろすが、俺は左下に避ける。斧はそのまま地面に当たり少し動きが鈍ると思っていたが、奴は地面に当たらない様振り抜くと斧を引き戻し横薙ぎに振る。俺はジャンプで躱すが続けて盾が迫る。シールドバッシュってやつだ。俺はそのまま走り抜けて回避し、盾の影に隠れ奴の後ろに回り込む。自分の盾で俺を見失った奴は堪らず盾を振り回すが、俺は既に奴の後ろにある森に入っていた。奴の直ぐ後ろにある木に飛び乗り奴の首を狙い奇襲を仕掛ける。
その時、少し離れた所にある林の中で何かが光った。その光を目にしたのは俺だけでは無く目の前のドワイトも同じだった。俺の攻撃が当たるより前に体勢を下げくぐる様に躱す。
奴は自分の頭上を通り過ぎた俺目掛け、斧を振り下ろす。俺は盛大に空振りした後だから体勢を立て直す暇はない。その場で攻撃を受け流す事にするが、流石に膂力の違いで身体中の骨が軋む。
流した直後に距離を取ると改めて体勢を立て直す。奴も咄嗟の回避からカウンターを放ち呼吸が乱れたのか、直ぐには動かなかった。
ドワイト「大した者だ。この状況でまさか後ろから奇襲を受けるとは思わなかった。」
俺「こっちだってあれを躱すとは思わなかった。」
ドワイト「お前と戦うのにこれは邪魔だな。」
そう言うとドワイトは盾を捨て斧を両手で持つ。剣道で言う正眼の構えで立つ。防御を捨て攻撃と速度に極振りした。こっちもそろそろ限界だから次で決めよう。ただ普通に挑んでもリーチの差で、奴に攻撃自体が届かないだろう。思い付く手が1つある。上手く行くかは運だが今の状況を考えれば選択の余地は無い。刀を鞘に入れ構える。
エレナ「何で剣を仕舞う?諦めたのか!」
エレナが心配して声を上げたがそれに答えたのはドワイトだった。
ドワイト「ほう、確か何処かの大陸の剣技に鞘に仕舞った状態から一気に抜き放ち、斬り付ける技があったな。居合い抜きだったか?」
良く知ってるな。この『世界』に日本に近い国があるのか?今はそんな事考えてる場合じゃないな。集中しよう。
少しだが穏やかに風が流れる。次の瞬間ドワイトが上段に構え、右足を踏み込み斧を振り下ろす。ぱっと見俺が出遅れた感じだが、位置や体格で差があるのに一か八かで奴と斬り合うのは現実的じゃない。俺の狙いは武器破壊。斧の柄だ。奴の斧が迫るタイミングで俺も右足を踏み込み、それと同時に刀を抜き斧の柄を切断する。
ドワイト「な!」
流石に驚いていたがそれでも既に回避行動に移っていた。俺は逃すまいと更に踏み込み斬り付ける。しかし軽い切傷を複数付けただけだった。ドワイトは呻き声を上げながら後ろに下がる。
俺「今後の為にもあんたにはここで退場してもらう。」
ドワイト「まだこの程度では終わらないぞ!」
俺「あんた狼男だったよな?狼の獣人に変身出来る特殊能力がある筈だ。そんなあんたを生かしとくと面倒だからな。ここで仕留めさせてもらう。」
ドワイト「く、何処まで知っている。」
俺「さぁ、どこまでだろうな?」
アイリーン「シリウス!」
俺がドワイトに近づこうとすると林の中の影が俺に向かって突っ込んできた。俺はその影を避けつつ後ろに下がる。さっきドワイトに協力して俺の奇襲を教えた奴だ。
姿を見て分かった。その男は特殊工作部隊の筆頭だ。
俺「名前は確かジェイド・ブラントだっけ?」
ジェイド「何!」
ドワイト「何故知っている!」
俺「ん?え〜と、神のお告げ?」
言った後に気が付いたが言わない方が良かったか?でもそんな言葉をそのまま信じる奴はいないだろう。俺が"神の使徒"なのは事実だけどそれを鵜呑みにする奴は普通ならイカれてるだろう。そう思っていたが以外な言葉が返って来る。
ジェイド「やはり貴様が使徒か!」
俺「は?」
何故ここで"使徒"なんて単語が出る?その俺の疑問を置き去りにして奴等が話し出す。
ジェイド「ここは退くぞ!」
ドワイト「何!今目の前に予言の使徒がいるんだぞ!ここで討たねば、今後いつ頃討伐の機会が来るか分からんぞ!」
ジェイド「確かにここで協力すれば奴は殺せるだろう。だが俺達のどちらかは死ぬぞ!今だってそうだ!自分でも理解している筈、ここに来ていた貴様の部下は全滅だ!これでも相当な痛手だぞ!」
ドワイト「チッ!」
俺「勝手に話進めてるが俺が逃すと思うのか?」
ジェイド「貴様は逃がすさ。これ以上はそいつ等が一緒では戦えまい。」
そうエレナやアイリーン、生き残った町の人達もいる。こいつ等にはこのまま退いてもらった方が助かる。ただここで何も言わずに逃がすと何か負けた気がする。
俺「ふん!さっさと行けよ!だけど皆に何かあった場合、俺はもうお前等を逃がす理由は一切無くなるけどな!」
暗にいつでも倒せると仄めかす。奴等2人して少し悔しそうな顔をする。
ジェイド「チッ!覚えておけよ!」
ドワイト「お前は必ず殺してやる!」
何とか追い返した。振り向くと皆安堵した顔をしている。全員とはいかなくても今生きてる人だけでも無事でよかった。そう思った。
エレナ「母さん!」
エレナがアイリーンに言う。いつ言ったの?そう聞きたいが今はそれどころでは無いらしい。
俺「ごめん。」
アイリーン「何で謝る。お前は十分やってくれたさ。あたしはあんたを誇りに思うよ。エレナ、あんたはこれから1人で生きて行かなきゃならない。シリウスと上手くやりな。今まで半端な母親ですまなかった。シリウス、後は頼むよ。」
エレナ「母さん!」
俺「ああ。」
この後、間も無くアイリーンは逝ってしまった。もう少し安らかに逝かせたかった。俺にとっては母も同然だ。簡素な葬式だったが、その遺体は実家の近くに墓を作り埋める事にした。
生き残った町人達は、マリアさんの実家で世話になる事になった。俺も街まで護衛として付いて行く事にした。
エレナ「私はやっぱり冒険者になる!強くなって今度は!」
俺「あまり気負うなよ。まぁ、強くなるのは賛成だけど。」
マリア「しばらくは私の実家の方で生活の援助をするわ。」
生き残った人で大人達は仕事を見つけ安定するまで、子供達はある程度成長して個人でどう生きるか決められるまでマリアさんの方で援助するという。皆のこれからに多少の目処が立ち、俺は辺境都市の"イージス"に戻る事にした。大した説明もせず飛び出したからその点も踏まえて話をしに行かないといけない。
エレナ「気を付けろよ。」
俺「そっちもな。じゃあ、マリアさん。皆んなの事、お願いします。」
マリア「ええ、貴方も元気でね。」
挨拶をして辺境都市へ戻る。
帰りの道中に色々と思い出していた。ここ2年程は辺境で過ごしたが今までの10年はアイリーンに育てられた。悪さをして怒られたり、手伝いをして褒められたり、家族として楽しく過ごしていた時を思い出す。
大変な時もあったが、それでも楽しく生活させて貰った。彼女の身に何が起きるか全て理解していたし、覚悟もしていたつもりだ。
結果としては勝ちとは言い難いが本来なら助からない筈の人すら救えた。悪くない結果だ。だけどそれでも俺は母さんに生きていて欲しかった。そう思うと自然と涙が出た。
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