旅立ち

アイリーンの話を聞いて思ったけど、予言?ってのは初めて聞く単語だな。地球でゲームしていた時はそんな話は聞かなかった。

あのゲームはそもそも、今いるこの『世界』のシュミレーションだ。大体の流れは多分シナリオと一緒だろうけどこっちは現実だ。予定と違う事が起きやすいのか、その分状況が変化してるとか?

若干のズレはあるとしても今の所はイベント通りに進んでるとは思う。ただ最終的にどうなるかは分からない。そろそろ本格的に動かないと。

王都から東に行くと砦がある。その先は魔物の生息地である森だ。話の流れでは、その森の魔物達を従え魔族が現れる。そこから人間が初めて魔王の存在を知る。

魔族は大陸の東側にある森全体を領土として、戦力を整え砦を攻める。最初は小競り合いだが、それをきっかけに規模が次第大きくなって行くとその後小競り合いが本格的に戦争になる。勇者を含む王都の正規軍である騎士団と冒険者、雇われの傭兵達、様々な立場の人間が参加。そして最終的に騎士団とトップランクの冒険者達からなる混成軍で、魔王城に突入し仲間の協力を得てジンとエレナが魔王を倒す。

というのが大体の流れだ。

とりあえず砦に行って俺は傭兵になろうと思う。戦いに慣れるのは勿論だが何より魔法が使え無い時点で、この『世界』だと冒険者になる選択肢は消される。冒険者になる為には試験がありその試験で魔法が使えるか。最低でも身体強化が使えるかは必ず問われる。

身体強化が使え無いと魔物とまともに戦え無いからだ。それでも戦う事でしか稼げなさそうな人間が傭兵になる。他の仕事を探すにしても選択肢は無い。何よりこの『世界』は学校が無い。教育機関が無いというだけで人は生き方を制限される。俺は教職者じゃ無いからあまり偉そうな事は言え無い。だけどこの『世界』では普通に勉強するという事は出来ない。

ほとんどは冒険者か傭兵、商人などは親から計算などの知識を継承。騎士などの貴族は勉強出来ようが出来まいが家督を継ぐ。そして村人は村人だ。中々いきなり傭兵になろうとは思わないだろうが教育を受けていない者のほとんどは、荒事の冒険者か傭兵の仕事しか出来なくなる。

仕方ないと言えばそれまでだが、俺の場合はこれから強制的に厄介事に首を突っ込まされるからやるしか無い。これから戦場かと想像すると心臓がバクバクしてくる。慣れれば感覚は変わるかもしないが、どうなるかはこれからだ。


アイリーン「傭兵?馬鹿言うな!何でそんな危ない橋を渡る!」


俺「あんたも分かってるだろう。これからどうなるか。ならやるべきは強くなる以外に選択肢は無い。俺も行きたくは無いけど戦いに慣れるには戦場に行くのが一番早いだろ?」


エレナ「下手したら死ぬぞ!何でいきなりそんな事を言う?」


エレナには予言の話はしていない。だから脈絡は分からないだろうが、俺自身このままと言うわけにはいかない。話の通りならこの後どうなるか、今の内に実戦をこなし本格的に戦える様にならないと行けない。


俺「魔物と戦うとしても危険なのは一緒だろ?なら誰と戦っても変わらない。」


アイリーン「魔物だけならまだ良い。たが、傭兵は状況によっては人を殺す事になるかもしれない。人と魔物は違う!殺せば罪悪感も残る。心が傷付けばもう立ち直れないかもしれない。・・・それを分かってるのか?」


俺「自分自身がどうなるかは分からない。でも多分このままだといずれ手遅れになる。分かるだろ?俺は強くなる。」


アイリーンの目を見て言う。彼女も理解している。予言の話が本当ならエレナの運命はエレナだけでは覆せない。あの内容だと本人の意思や力だけでは恐らく変えられない。周りの人間の協力が不可欠だ。


アイリーン「分かった。無茶だけはするなよ。」


エレナ「行かせるのか?」


アイリーン「仕方ない。こいつにはどうしても必要なのさ。」


エレナ「そんな!」


俺「悪いな。こればかりは譲れない。ちゃんと無事に戻るさ。連絡もする。」


エレナ「約束だぞ。」


さて確かに自分で必要とは言ったがこれから自ら死地に向かうわけで、怖くないと言えば嘘になる。魔物の1匹や2匹は倒した事はあるが、戦場となるとそうはいかないだろう。だけど恐怖に負けたらそれこそ一貫の終わりだ。恐怖心をどう抑えてやっていくか、この『世界』に来て地球と違う感覚、ズレとでも言うかそれがあった。大分慣れて来たのか多少は上手くやれているとは思う。戦いに関してはまだ一般人としての感覚が残っている。

まぁ、戦いの関する物は実際に戦場に行って慣れるしか無い。

あまり慣れたくは無いけど。そして数日が経ち。


ジン「あまり行きたく無いな。」


俺「だけど仕方ないんじゃないか?未来の聖騎士様だろ?オジさんやオバさんに楽させてやれるし。」


エレナ「別に最期の別れじゃない。また会えるさ。」


ジン「そうかもしれないけど。王都には友達いないし、知り合いはあの4人だけだろ?何か嫌なんだよ。」


俺「まぁ、あいつ等と一緒じゃな。でも王都にはオジさんとオバさんも付いて行くから寂しく無いだろ?」


イベントが始まればこの町は壊滅だ。助けられるなら助けたい。全くの平民だったジンの両親にいきなりの貴族生活は大変かもしれないが、ここにいれば無事ではいられない。身の安全を考えると王都の方が良い。


ジン「お前らも一緒に行こう?」


俺「何処に住むんだよ?」


ジン「俺ん家。」


エレナ「いや、狭いだろう。」


ジン「んな事ないよ。俺達家族だけの方が広すぎるよ。」


俺「国が用意したお貴族様の家だからな。」


それなりじゃないと国の財政力を疑われるだろうからな。とは言えその財政を賄ってるのは俺達の納めた税金だ。もっと言えば俺はまだ納税義務が無いから親の税金って話になるが。


エレナ「2家族で暮らせる位広いのか?」


エレナが食いつく。


ジン「うん、メチャクチャ広い。」


エレナ「へぇ~。」


それはそれで確かに興味はあるがこっちにも予定がある。

シナリオ的にはこの後ジンは王都にある学園で貴族と一緒に勉強やら何やら色々学んで強くなって行く。

エレナは色々あって拠点を移し冒険者になる。依頼をこなしランクを上げ、ある程度名の知れた冒険者になった後、魔王軍が本格的に動き出しジンとエレナは戦争に巻き込まれて行く。だからここで一緒に行動する選択は良くないと思う。


俺「駄目だぞ。色々大変だから諦めろ。」


ジン「ぬ~。」


エレナ「む~。」


2人から変な声が上がる。そしてジン達、家族は町を出る。俺もそろそろ始めないとな。手遅れになる前に。ジンを見送り俺も行動を開始する事にした。

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