分岐点
それから月日は流れ、俺は7歳になった。修行や町民とのコミュニケーションと、日々を忙しく過ごしていた。ただ今日は別の意味で忙しい日だ。悪ガキ4人組みの住んでいる街でイベントが開かれる。
職業選定という儀式だ。
年に1回のイベントで普通の人にはただのお祭りだ。何しろ選定自体、普通の人には意味が無い。授かる条件は基本的に遺伝で、親と同じかそれに近い職業になるって話だから親に発現してない人には当然授からない。
偶に突然変異でいきなり授かる場合があって、ここに来てる人達はその突然変異を期待している。出たら凄いなってくらいだ。
因みにジン達の場合はその突然変異って事になる。そもそも魔王討伐の為の力で普通に生きてる人が持つ必要は無い。この選定の儀式ってのはノルン達からすると、"職業"を持ってると何かしらの凄い力をくれるという認知を広める為の物だ。
それはジンには凄い力があるから魔王を討伐するのは当たり前って考えを植え付け、外堀から埋めていく作戦だ。なんとも酷い話だ。
そういえば魔王の話とは関係ないけど、前に魔力が無い人は努力をしても報われないって話をした。だけど1つだけ特例で魔力を手に入れる方法がある。それが突然変異だ。
どっかの学者が言うには魔法を使う"職業"を授かるとそれを助ける為に体内の魔力袋が拡張するらしい。レントゲンとか科学的に調べた訳じゃないから分からないけど。"魔法が使えなかった奴が急に使える様になった事例があるんだ。"とアイリーンが言っていた。どっちにしてもその魔力袋自体が無い俺には関係ない話である。
ついでに儀式の方法だけど、選定の方法は神父の前で屈んで祈るだけだ。声として聴こえるのか、頭の中に文字として現れるのかは分からない。とにかく神父の頭の中に現れるらしい。
祭りが始まると、近隣の村や町の子供達が儀式を受けて行く。授かってるのは商人とか漁師とか普通の"職業"だ。というかこの辺、海無いけど漁師ってどうするんだ?
それはさて置き和やかな雰囲気の中、例の[聖騎士]に選ばれる悪ガキ4人組が儀式に参加する。リーダーから順に火の[聖騎士]になるマット、水のカイルと風のスレイそれに土のクライドが選ばれ歓声が上がる。
そしてとうとうジンの番だ。ジンが祈りを捧げる。しばらくすると神父が信じられないと驚く。俺としては『地球』で見ていた時と一緒だから結果は分かってる。しかしそれを知らない人達からは驚きの声が上がる。いきなり5人も[聖騎士]が出て来れば驚くだろうな。ジンはシナリオ通り、光の[聖騎士]になった。
最後にエレナが少し緊張している様子で祈りを開始する。
神父は俺の記憶通りにエレナを[魔導師]だと言った。この『世界』には当然[魔法使い]ってのもある。どう違うかは扱える技の数だって話だけど。違いは良く分からない。
とにかくこれから何日か経つと国の役人が来て[聖騎士]の5人を教育する為、王都の学園へ連れて行く。[聖騎士]は希少性が高く与えられる力も強い。それ故にその"職業"に選ばれた者の家族すら貴族になれる。将来有望な[聖騎士]となれば国が抱えて育てるのは当然だろう。
とりあえずこれで一通りイベントは終了。と思っていた。
アイリーン「ちょっと待ってくれ。」
アイリーンが急に割って入った。しかも俺の腕を掴みながら。
アイリーン「こいつも見て来れ。」
神父「分かりました。では祈ってください。」
仕方ないので俺は祈る事にした。しばらく祈ると
神父「何もありませんな。」
ここも予想通り何も得られなかった。しかしアイリーンは食い下がる。
アイリーン「そんな事は無いだろう!もう一度確かめてくれ!」
俺「何度祈っても一緒だろ?もう戻ろう。何か恥ずかしくなって来た。」
アイリーン「何言ってる!お前だけ何も無いなんてあたしは認めない!」
神父「認めないと言われても困ります。そもそも何も授からないのが普通なんですよ?それに[聖騎士]が5人という奇跡がもう既に起きてますから。」
アイリーン「そんな。」
何故か凄く凹んでいる。後で改めて聞いてみるか。
俺「ほら、行くぞ。」
アイリーンとエレナを連れて会場から離れた。
エレナ「残念だったな、何か得られれば良かったのに。」
俺「別に良いよ。俺は気にしてないからそっちも気にしなくて良いぞ。」
エレナ「それにしてもジンが[聖騎士]か。似合わないよな?」
俺「性格的には合ってるんじゃないか?俺としてはあの4人組が[聖騎士]になったのが気に入らないな。」
エレナ「確かに。でもこれからあの4人とは多分会わなくなると思うぞ。これから貴族としての爵位を貰って、家族揃って王都住まいだって言うし。」
俺「まぁ、そうだけど。」
予定ではジン達5人は王都で爵位を貰う。そして悪ガキ4人の親は王都で貴族として生活する。ゲームだとジンの両親は貴族なんか似合わないと町に残る。その所為で町が壊滅すると同時に殺させる。ジン達は騎士になる為学園に入り、ジンがその事実を知るのは戦争が始まった後だ。
その話は誰にも言えないが、ジンはこれから大変だろうなとも思う。両親も一緒に王都に行くよう言っておかないとな。危険だし。そんな事を考えながら歩いていると
アイリーン「ちょっと良いかい?シリウスに話がある。」
俺「ん?どうした?」
エレナ「何?」
アイリーン「エレナはジンの所に行ってて来れないか?すぐ終わるから。」
エレナ「うん。」
不思議に感じながらエレナは俺達と離れ、ジン達の所へ行く。俺とアイリーンは他の誰かに聞かれない様に移動する。
俺「で?話ってのは?」
アイリーン「エレナの事さ。」
俺「ああ、魔導師に選ばれたな。」
アイリーン「それもそうなんだが、実はあの子の親の事さ。」
俺「ん?親戚の人だっけ?預かってるんだったよな?親代わりで育ててるんだろ?」
アイリーンの顔が少し曇るそして意を決した表情で言う。
アイリーン「一応そういう話になってるけど、あの子の実の母親はあたしなんだよ。」
俺「はぁ?」
そんな話今まで聞いたことが無い。
俺「父親は?」
アイリーン「7年前酒場で飲んでいた男とたまたま意気投合してね。気が付いたら朝だった。」
俺「流れかよ!それでその男とは?」
アイリーン「それっきりさ。生きてるのか死んでるのかも分からないよ。」
『地球』で聞いた話と大分違う。これも何かの不具合か?
俺「エレナがアイリーンの実の娘ってのは分かったけど。本題は別なんだろ?」
アイリーン「あんたは面白いね。実はあたしの実家はある占い師の家系でね、しかも良く当たるからタチが悪い。」
アイリーン「あたしはあまり家業が好きじゃなくてね。20歳の頃に実家を飛び出したのさ。実家を飛び出す少し前にあたしの母さんが一族を集めて言ったんだよ。"近い将来一族の中で産まれながら[魔導師]の宿命を持った子が産まれる。"ってね。」
俺「それがエレナか。」
アイリーン「ああ、だけど話はそこで終わらなかったんだ。その子供は12、3歳で死ぬかも知れないと言われてね。」
俺「どういう事だ?」
アイリーン「話によると魔王が現れる時に[勇者]になる子供と[魔導師]が対になる様に生まれてくるらしくてね。」
それは俺の記憶通りだな。
アイリーン「勇者や魔王なんて信じられないだろう?・・・まるでお伽噺だ。だけど予言はそれだけじゃなくてさ。その魔王の率いる魔族達は[勇者]と[魔導師]が12、3歳の時に2人を殺しに来るって言っていたんだ。多分ジンは[勇者]だ。だとするとあの予言の[魔導師]はエレナだ。このままじゃ娘が殺される!そんなの認められない!」
俺「まぁ、確かに。」
とは言え襲われるのはシナリオ通りだ。理不尽にも助かるのは彼女だけ。ただその予言の死ぬって所が気になる。2人に死なれると困る。
アイリーン「ただまだ希望はある。予言の最後の一節で、2人の近くに希望を繋ぐ人間がいる。そいつはなんでも神の使徒で剣聖らしい。常に2人の近くにいて導き守る者だそうだ。」
俺「へぇ~」
一応、俺は神の使徒って事で良いと思うけど。剣聖ってのは何の話だ?
アイリーン「あたしの一族はそれから来たるべき日の為、[勇者]と使徒つまり剣聖を探し始めた。そんなお伽噺みたいな出来事を信じて時間を無駄にしたくなかったし、一族総出で探してる。あたし1人探さなくても良いだろうと思ってね。だからあたしは一族を無視して1人で逃げ出したのさ。・・・あたしはね剣聖ってのはあんたの事だと思ってるよ。」
俺「教え導くならアイリーンの方だろう?」
アイリーン「いや、お前達に色々教えていて気付いた。あの2人は近いうちにあたしより強くなる。あたしが守る必要が無いくらいにね。」
俺「なら尚更、俺じゃない気がするけど?」
アイリーン「あんたは2人を守れるくらい強くなるさ。その為の剣聖の称号だろう?」
俺「そんなの持ってないよ?」
アイリーン「それを確かめようとしたんだ。」
成程、選定の儀での騒ぎはそういう事か。でもそういうステータスの類が分からないからな。それにノルン達からは称号なんて話聞いた事が無い。
アイリーン「とにかく、娘が危ないってのが事実ならあたしはここで妥協は出来ないよ。」
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