事後報告

将来勇者になるジンと幼馴染として交流を続けている。子供との交流だ。正確に言うと遊んでいるという表現が正しいか。ただ俺の中身は合計すると30後半のオッサンだ。集中してる時は良いけど、それが一回切れると俺は何をしている?と本気で考えてしまう。


ジン「シリウス、こっちこっち。」


我に帰ってから子供の振りはキツイ。

それはともかく俺は拾われてから四苦八苦しつつも4年程経った。

ある日、アイリーンの手伝いで森に薬草を採取に行くと光る小さい板が落ちていた。どう見てもスマートフォンだ。

この『世界』に無いであろう物が何故こんなところに落ちているのか。多分俺に渡す為にここに置いてあるんだろうとは思う。

拾うと着信が入り、相手はノルンと書いてあった。俺は画面をスライドして電話に出る。


ヴェルダンディ「もしもし?今、大丈夫ですか?」


俺「何とかな」


ヴェルダンディ「説明しなくてはならない事が出来まして、緊急でご連絡致しました。」


魔力に関する話だと思うが、割りと重要だろう?説明が4年後ってのはどうなんだ?


俺「もしかして魔力が無い事についてか?」


ヴェルダンディ「はい。それもあります。ただその前にスマホなんですけど、今後状況によっては姉や妹が連絡する場合が有ると思います。でもいちいち分けて登録するのが面倒なのでノルンで統一しておきましたから。」


この期に及んで最初する話が表示の話か!まぁ、前からこういう所があるから今更といえば今更だ。


ヴェルダンディ「改めて本題なんですが、話したいというのは魔力関連の事です。以前話ましたがこの世界に"神"自身が乗り込んで行動する事は出来ません。多少、啓示や天啓の類いで干渉は出来てもいきなり力は振るえないんです。段階を踏まないと。」


俺「それが使徒か。」


ヴェルダンディ「はい。そちらの『世界』のルールに縛られると私達には干渉出来なくなります。なのでルールの外側にいられる使徒が必要なんです。使徒の貴方には何とか干渉出来ますが、それ以外は難しいのです。」


俺「それと魔力の話の繋がりは?」


ヴェルダンディ「その使徒を作る過程で私達の知らない間に妨害を受けていた様で、魔力と並びに加護等も搭載出来なったんです。何重ものプロテクトが掛かっていて気付きませんでした。今その身体にあるのは、精神が肉体に影響を及ぼし易いという物だけです。」


はぁ、予想していたより状況が悪い。ある程度は覚悟していたけど酷い話だ。


ヴェルダンディ「ポーション等の回復アイテムや回復魔法は相手の魔力を利用してその人の回復力の増幅などの作用を引き起こします。」


俺「俺は魔力が無い。だからその増幅作用が発生しないって事だな。」


ヴェルダンディ「はい、そちらの『世界』では、あなたの回復手段は地球と同じく自然治癒しかありません。つまり戦闘に関して全てノーダメージで凌いでいただくしかありません。」


俺「マジか。」


ある程度理解はしていたが、改めて自分の死の可能性を言われショックを受けた。かすり傷1つでもそこに毒が入ればそれだけで死に繋がる。今の俺に圧倒的に足りないのは回復手段と防御力だ。攻撃力も気になるが死んだら元も子もない。

不意に地球で見たあるテレビ番組を思い出す。貧乏暮らしをしていた人が病院に中々行けず、身体を壊した時はとにかく気合いで治していた。そんな話をしていた。

気合いで治す、つまりは[気]の力でどうにかならないか?これが使えれば防御や回復までできる様になるはずだ。


俺「なぁ、確かこの身体は精神力が強く影響する。そう言ったよな?」


ヴェルダンディ「はい。魔力を扱うのに精神力は必要でしたから。まさか魔力が無いという状況になるとは思いませんでしたが。」


俺「じゃあ[気]とかって使えるようになるか?」


ヴェルダンディ「ああ!そうですね!精神力そのものですから!とにかく気合いと根性で切り抜けて下さい。」


なんか投げやりな発言が聞こえたけど今は気にしない。そうと決まれば鍛えよう。そうで無いと俺は死ぬだけだ。というか地球とする事は大して変わらないのか。


ヴェルダンディ「何かあればまた連絡します。」


俺「分かった。」


早速修行を開始する。先ずは[気]を操る為に感じ取る所からだ。とは言えどうしたものか。

そう言えば別の人の話だが、人のオーラが見えるというタレントがいた。その人はオーラを見る練習方法ついて話していたな。それを思い出し実践してみる事にした。

手を合わせた所から始め、その手を離しまた手を合わせる。それを繰り返し、左右の手の間に光が見えるようになるまでするという事だけど、こんなんで見えるようになるのか?と冷静な方の俺は言う。でも今はとにかくやるしか無い。

走り込みや筋トレなど運動しながらオーラを見る練習をした。ある日アイリーンとエレナが魔法の練習をしている時、オーラかは分からないけど光の線の様な物が見えた。しばらく意識を集中して見ていると線がハッキリ見える様になった。その線は術者の身体から出ると、最初は魔法陣に向かい陣の中に収まる。そしてかざした腕や杖等に集まり、顕現した魔法自体に線が伸びる。そして魔法に意識の線が張り巡らされ魔法が構築されて行く。その後も線が魔法を維持しようと纏わりついていた様に見える。

俺はその線を魔力線と名付ける事にした。その魔力線を弄るとどうなるのか?試してみる事にした。

アイリーンに威力を抑えつつ的に撃ち出して貰い、俺は斜め向かいに立つ。この位置なら俺に当たらないし、石を投げてもアイリーンには当たらないだろう。見える角度は変わるが、ある程度魔法の観察も出来るのでこの状態で実験を開始した。何度か石を当てるが、サイズや位置の問題か最初の内は影響は無かった。だがそんな時、投げた石がたまたま魔力線を遮ると魔法が霧散した。これで魔力線は魔法構築に必要な物だと確信出来た。魔力線を知覚出来るようになると今度は[気]の流れをなんとなく感じられるようになった。ここから更に鍛え防御と回復、そして攻撃に使える様に鍛えたい。


ジン「なぁ、そんな所でジッとしてて何か変わるのか?」


俺は座禅を組んで集中する。


エレナ「何か身体の中を流れる"何か"を感じ取ってるらしいぞ。」


ジン「何かって?」


エレナ「さぁ?」


意識は集中していたが、色々言われると雑念が入る。そういう時は大抵、地球での生活の事を思い出す。

あるゲームの話だがHARDの上にもう一つ難易度が有り、その難易度では敵が途中でパワーアップする。攻略本には【現れたら息をさせるな!素早く倒せ!】と書いてあった。今の俺の状況はそれと同じだと感じている。その攻略本では確かキャラを中心に円を描き、中心に近い奴から速攻で倒せという話だ。要するに空間把握で物の位置を確認して素早く行動しろって事だ。これはゲームに限る話じゃないけど。

自分を中心に意識を広げその中に何が有るか認識する。[気]に関する技術を磨く上では良かった。皮肉な物で高校生の頃に読んだ攻略本の知識が役に立つとは思わなかった。気分は複雑だが、この際利用出来る物はなんでも使おう。


ジン「なぁ、そろそろ何かしよう?暇だよ。」


エレナ「確かに、何して遊ぶ?」


我慢の限界なのか2人が騒ぐ。俺も少し休憩する事にした。


俺「はぁ、隠れんぼでもするか?」


ジン「よ~し、やるか!」


エレナ「ずっと待たされたからシリウスが鬼な。」


相当待ったらしいけど、選ぶ権利も無いのはどうなのか?言っても始まらないし、とにかく開始だ。


俺「分かったよ。ほら、始めるぞ。隠れろよ。」


ジン「良し!」


エレナ「行くぞ!」


2人が隠れる。俺はそれに合わせて目を閉じる。感覚を研ぎ澄まし意識を張り巡らせ、2人の位置を確認する。今何処に隠れているか修行のお陰でハッキリ把握出来ている。

俺はこの瞬間から相手の位置が分かる様になり、見つける事も隠れるのも上手くなった。町の子供達と隠れんぼをしても直ぐに見つけられる様になったが、1つ問題が出来た。

俺はある日、"シリウスと隠れんぼするとつまらない。"と言われた。俺は人に言われた事で久しぶりにショックを受けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る