叫ぶだけのこの世界で
私がなんと言おうと肯定するだけの何も面白みもない君へ。
手紙のように綴るこの叫ぶだけのショートストーリーは誰が見ても無難で、本人には見もしないだろう。
それでも書くのは私の傲慢だ。
―――・・・
夢を見てるんだ。
空色と白い雲が透き通るように床と天井を埋め尽くす。
バスルームのように声が響くこの地には私しか居ないのだと知ると思わず歌いそうになる。
だってカラオケにあるマイクのようで気持ちが良いのは言うまでもないだろう。
でも声は出さなかったし、心臓の音でさえも抑えようとしたのは私の意思では無い。
もう1人いたのだ。
この地で静かに佇む少年。
ザーという何処から来たのか分からない風の音はわけも分からない恋しさを覚えた。
「こんにちは。」
試しにそう呟いてみる。
するとフリフリとその大きな手で手を振るのが見えた。
それが嬉しくて嬉しくて、近付いて顔をよく見たくて距離を縮めようと走る。
長く走っているのに一向に縮まらない距離。
やはり夢だということはこの場では考えられなかった。
距離を縮めることを諦めて速度を緩めると顔の下までしか見えなかったその姿が鮮明に顔まで見えるようになる。
私が大声で君の名を呼ぶが、ただだだその人は静かに微笑むだけだった。
「ねえ、私の事が嫌いなんでしょ?ならなんでこんなとこにいるのよ。こんな私の見える範囲に。卑怯よ。」
ありったけの大声を出すがやはり君は少しの反応も見せない。
一定の距離を保って、それなのに離れようともしない。
そんな君の事が...
「私だってあんたのことは嫌いよ。憧れもあるけどやっぱり嫉妬しちゃう。私に無くて欲しいものを揃えてるから。私には無理だった。」
君の服の裾は風に揺れていて、その姿そのものが幻想的に目に映る。
それがなんだか怖くて、悲しくて、どうしようもない気持ちに苛まれる。
「私は何も出来なかった。私は自分のことを信じてたのに何も出来なかったの。なのに、なのに...。」
現実の君と重なるようで重ならないその姿。
私が一方的に吠えるのは変わらない。
沢山の事が頭の中でうねりをあげる。
こうなることは分かっていた。
だから会いたくなかった。
「ねえ、私は何かを今後頑張ることが出来るかな?何かを信じることはできるかな?人のが自分より上手で選ばれる事に理解してしまうと自分の物が下手に見えるの。」
すると初めて君は口を開いた。
「 。」
「なんて、言ってるの?」
何かを言った気がしたが何も聞き取れなかった。
でも、私の本当に言いたいことを思い出した。
「ごめんなさい。」
君はただそこで風に吹かれて太陽の光が虹を通して輝き、より幻想的な風景がその場を物語っていた。
泣き出す寸前で鼻を啜り涙を引っ込める。
これは練習だ。
君に謝る練習。
誰も助けてくれないのなら。
もういいよ。
気持ちの整理ができた時に。
私が欲しい言葉を知った時に、創ることができた時にもう一度。
私も君に口パクで返した。
「 。」
これは本人にまだ届かぬように祈って。
―――・・・
鳴神の...
目が覚めた時、その言葉が浮かんだ。
雨が降っても夢にはいられないのにね。
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