総合短編集(フィクション)
衣草薫創KunsouKoromogusa
宣言‐飢え‐
‐飢え‐
死にたくないから物語を書いていた
不死身の人生を信じて疑わなかった
ご飯なんか食べなくても睡眠など取らなくてもどうせ生きてるんだと思うと十分に取らなくなった
今日こそはと地を蹴っては転んで血を流しては信じられるものも少なくなってて
何を信じればいいと頭を抱えて息を吸った
人間の壁が一番分厚かったのは事実です
要らないものは正直に捨てられないのは何故ですか
本当は 本当は 大切な代物なんだと
聞こえない未来も触れない愛も本当は大切だから
だから何も言わないでくれ僕はこれでも子供じゃないから
不甲斐ないから下を向いて
情けないから嘘を付く
過去と同じことをして学習しないのは何様だ
だから僕は飢えて だから僕は寝不足で
そんな中派手に運動しては吐き気をたえる
それでも生きてるんだ
それでも景色が見えるんだ
君は お前は あんたは あいつは…
言えない…
「さよならが愛おしいことを証明します。」と
いつかの僕は
僕は宣言しました
〈本編〉
「いつまで起きてるの?早く寝なさい。」
暗がりの中ずっと俺は物語を書いていた。
目の下に隈を作り、痩せ細った体をしている俺を心配する両親のうち、母はノックもせず扉を開けて怒鳴る。
お世辞にも健康体とは言えぬ俺の体を見れば、誰しも心配するのは当たり前だが親子というものは難しいものでつい反抗的な態度をとってしまう俺だけではないであろう。
「はーい。」
やる気のない返事。
母がしっかりとドアを閉めたのを確認すると俺はまたペンを取る。
睡眠も食欲も、ましてや性欲にも欠ける俺は、ただただ書きたい欲だけをぶつけるようにペンを走らせた。
俺は飢えている。
飢えているんだ。
この飢えは何ににも満たされないから。
まだまだ書き足りない。
〈『さようならが愛おしいことを証明します。』と宣言しました。〉
そんな俺でも学校は入っている。
でも友達などいないし、頼れる人もいない。
小・中学と卒業したと思えば高校生になってもう既に1年ちょいがたちました。
毎日が変わらないので楽しくもない学校生活を送っている。
俺は変わらない。
ずっと飢えて生きていく。
・
・
・
休み時間のことだ。
ある先生の顔がにゅっと俺の顔の真横に現れた。
それは突然のことだったためそろりと目玉だけ動かして先生の存在と近さにぎょっとしワンテンポ遅れて悲鳴をあげた。
「ウワァーーー‼」
そんな俺の反応をスルーして先生は言った。
「何書いているの?」
30代には見えぬ程肌が綺麗で美しく、男女関係なく人気のある女性の先生は何気なく聞いた。
「しょ・・・物語でs・・・。」
「見せてよ。」
先生は友達のような言い方でお願いする。
拒否する理由はないのでコクリッと頷いてそっと手元の書き途中の原稿を渡した。
「ありがと。」
先生は手渡されたものを黙々と読んでいく。
沈黙が流れる。
このシーンとした空気から抜け出したいほど気まずく、一人で何かしようとあちこち手を伸ばすが、悲しいことに何もなかった。
俺はパニクりながら先生が原稿から目を離すのを待つ。
すると先生は授業開始のチャイムと同時に顔をあげた。
「すごーい!また読ませて。」
「は、はい。」
正直嬉しかった。
今までは書くだけだったというのに、誰かに読ませるともっと読んで欲しいと思うようになるのだと初めて知った。
ーーーー・・・
毎日休み時間か放課後に自分が今まで書いてきた物語を先生に読ませるようになった。
それは全て空想のもので、ファンタジー、SF、ラブコメ、時代小説、探偵小説、その他もろもろ。
毎回読ませるたびに先生は感嘆な声をあげ、終わったら感想を述べ、終わらなかったら家に持ってかえってまで読んでもらえた。
時にはコンテストに応募することを薦められ、人生で初めて特別賞というものを受賞して・・・とにかく沢山の経験をすることができた。
こんな毎日が楽しいわけだが、ずっと続く訳ではなく高校3年に進級する頃にはいなくなっていた。
先生が離任されたのだ。
そのことを知らされたのは始業式。
それがどんなに悲しく、寂しく、小説を書く気力を失わせたのかは、多分他人から見ても分かるだろう。
おかげで目の下の隈は消え、空腹も収まった。
やることがないのでずっと寝るか食べるかしていた結果だ。
ある日の放課後、俺は帰路に立ってボーッと辺りを見渡した。
まるで誰かを探しているようだった。
「誰か。」はきっと答えは出ている。
知らないフリをしていたかったんだ。
突然のことだった。
頭の中で電気が流れた感覚がした。
気づいたら走っていた。
書きたくなったのだ。
小説を・・・。
それもフィクションではなく、先生と過ごした綺羅びやかな日常。
そう、ノンフィクションだ。
もう飾る必要のない物語を書きたいと思った。
―――・・・
「(題名)満腹
俺は飢えていた。何も変わらない毎日を過ごすのは苦痛だった。ご飯なんか食べなくても睡眠なんかとらなくてもどうせ生きてるんだと思うと十分に取らなくなった。何かに挑戦しようとしても少しの失敗で諦めてしまう。人間の壁が一番厚かったのは事実です。先生と過ごした日々は俺にとって眩しすぎた。それに頼り切ってしまい、普通であった日常が普通ではなくなると俺の好きなことは要らないと一言で終わらせてしまうほどに単純なものとなってしまった。でも、俺は捨てられなかった。本当は、本当は大切な代物だったんだ。嘘じゃないんだ。嘘じゃないんだよ!だから、否定しないでくれ、これでもこれから自由の身となっていく分際だ。責任取れないほどの子供じゃないんだ。先生が離任されたと知った時、俺はどうしても言えなかった事がある。「嫌いだ。」と言ってやりたかった。今までの日常も、あの先生の笑顔も、物語も全部クソだと言ってやりたかったんだ。言えなかったよ。それは全部嘘だからさ。本当はこう言ってやりたかった。「さようなら。」と。」
離任式の先生へ送る言葉。
本当は敬語で感謝と別れを述べる会であるはずだ。
だが、俺は想いをそのまま文章にすることに決めた。
長々と本心をぶつけた最後に、こう言い放った。
「俺は『さようならが愛おしいことを証明します。』」
と俺は宣言しました。
別れが悲しいことを俺は知っている。
だが、人と出会い別れたときの悲しみこそがとても大事であった日常をそのままあらわにさせるんだ。
それがどんなに嬉しいことか。
俺が手紙兼ノンフィクションの物語を読み終えると先生はマイクを手に取りこういった。
「出会いは人を変えます。出会いは経験を与えます。そして、出会いは別れの意味を教えます。」
と。
俺から見る先生は薄い涙を浮かべ、俺にとって最高の言葉を述べたのだった。
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