第3話 告白


「なぁ光輝」


「ん? なんだ荒川?」


 閉会式が終わった後、俺は光輝に話しかけていた。


「折角こうやって勝負をしたんだけどさ、やっぱり2人で同時に告白しないか?」


「え……何でだよ」


「俺ってさ、昔から適当にって言い方はアレだけど……生きてきてさ。それで、お前は……光輝は、俺が心から一緒にいて楽しいと思えるような親友なんだよ。だから、こう言う大事なことは……一緒にやろうぜ? な?」


 俺は精一杯の笑顔を浮かべ、手を差し出す。

 すると、光輝が一瞬驚いたような、そんな表情を見せた後、豪快な笑顔を浮かべ

 

「負けた分際で言えるもんじゃないが……頼む。俺にもチャンスをくれ」


 そう言って俺の手を取った─────


 その後俺らは、ある場所に小松さんを呼び出す。


「えぇっと……2人で何の用かな?」


「唐突なんだけど小松さん……」


「沙夜……」


「「俺と付き合ってくれませんか?」」


 2人で手を差し出す。

 小松さんの息を吸う音が聞こえた。

 その数秒後────


 俺の手が優しくて柔らかな温もりに包まれる。


 ふと顔を上げると、小松さんがとびっきりの笑顔を浮かべ俺の手を握っていた。


「光輝には悪いけど……荒川くん、こんな私で良ければよろしくお願いします!」


 俺は飛び跳ねそうだった。こんな気持ち初めてだった。今すぐにでも小松さんを抱きしめたい。

 だが、隣には光輝がいる。そんなことはしてはいけない。

 俺は恐る恐る光輝の様子を見る。俯いているので表情が全然見えなかった。

 もしかして泣いているのか……? そう思ったが……


「いやぁ、やっとくっついたかぁ。お前ら似た者同士の癖に奥手だからくっつけるの大変だったぜ」


 いつもの明るい声で笑う。


「「え?」」


「2人とも、お互いのこと好き好きオーラ出まくりなのにさ。特に荒川なんて全然気付いてなかったし」


「じゃあ、今回のその提案も……」


「あぁ、これで最後の行事だからさ。お前らに後悔を残してほしくなくて」


「光輝……」


「だから……こうでもしないとな。だろ?」


「ありがとうな、光輝。やっぱお前が友達で良かったわ」


「違うだろ? "親友"なんじゃないのか?」


「あぁ、そうだったな」


 2人で腹を抱えて笑い合う。


「じゃ、後はお2人でどうぞっと! また明日な!」


 気を利かせてくれたのか、光輝がその場から去る。

 残された俺たちの間をしばし、沈黙が包む。

 その沈黙を俺は先に破る。


「あのさ……」


「うん」


「何で……俺なんだ?」


「え? 何が?」


「いや、何で光輝じゃなくて俺を選んだんだろうなって…………だってさ、俺って何の取り柄もないし、カッコいいわけでもないし。それに比べて光輝は、カッコいいし、勉強もスポーツも出来るしさ……」


 再び沈黙が訪れる。


静流しずるくん……でいい?」


 10秒程の沈黙の後、沙夜が口を開く。


「その方が嬉しい」


 俺は満面の笑みを浮かべる。

 すると、沙夜も微笑み、俺に語りかける。


「静流くんって……何て言うか───いつも寂しそうだったから」


 あぁ、沙夜にはそう見えていたのか。


「多分静流くんって、私と同じだと思うんだ。のらりくらりと生きてきた感じって言うのかな? 一応楽しくはやってるけど、自分がなくて、周りに流されてるみたいな」


 あぁ、沙優にはお見通しだったのか。


「実は私もね……恋なんてしたことなかった。だから……私が、空っぽな私に似たあの子を笑顔にしてあげたいって思ったの。それで話しかけてるうちに私は静流くんを好きになったんだよ」


「沙夜……」


 俺が名前を溢したその刹那、周りの時が一瞬止まる。

 俺の唇と、柔らかい何かが触れ合った。

 それは



 ──────沙夜のそれだった。




 永遠にも感じる時間の後、そっとそれを離し、二人で見つめ合う。


「改めて……好きだ、沙夜」


「私も……私も大好きです、静流くん」


 俺たちはまだ余韻が残る学校で、温もりを分け合った─────


           *


 あぁ、負けちまったのか……

 普通に勝てると思ったんだけど。


 「最後にあんな嘘つくようじゃ俺もまだまだだな……」


 俺は負けた。

 でも、不思議と涙は出てこないし、悔しさも感じなかった。 多分、心の何処かでは分かっていたんだろう。このような結果になることが─────



 あれは確か……沙夜への気持ちに気づいてからすぐの話。


 俺は、沙夜に話しかけようと沙夜の元へ向かったのだが、ふと足を止めた。

 そこでは、1人の無気力そうな男子と沙夜が話していた……というよりも一方的に沙夜が話しかけていて、嫌々それに返事をしている、というような構図だった。


(何だあいつ。無愛想なやつだなぁ)


 名も知らない男子への第一印象は、お世辞にも良いとは言えなかった。

 嫌々そうな対応をしているので、割り込んで話を終わらせてあげようと思ったが、流石に非常識なのでその場に留まる。


 そして暫く、遠くから観察をしていたらあることに気づいた。いや、誰よりも沙夜のことを見てきた俺だからこそ気づいたのかもしれない。

 沙夜は、本当の自分を晒さず、表面的な部分しか出さないことを俺は気づいている。そんな沙夜の表情に俺はある変化を見つけた。


 少しだけ。ほんの少しだけだが、彼に興味があるような、そんな表情を浮かべていた。


 今まで他のことには自分を出してこなかった沙夜が初めて自分から興味を示したのだ。


 好きな人が気になった人物はどんなだろうか、俺も彼のことが気になった。

 だから俺は、彼に話しかけたのだ。


「俺は山波光輝。お前は?」


「荒川静流」


「荒川か。これからよろしくな!」


「えぇっと……よろしく、山波」


 その後は毎日彼と接していくうちに、いつの間にかとても仲良くなった。

 そしてふとした時、何気ない顔で荒川は俺にあることを打ち明けてくれた。


「俺ってさ、このまま高校を適当にやり過ごして卒業するだけだと思ってたんだ。でもさ、お前のおかげで毎日が凄く楽しい。こんな風に思えたのは初めてだ。だからさ……ありがとな、


 その時、荒川は初めて俺の名前を呼んだ。

 俺も彼の事を名前で呼ぼう、そう思っていた。


 だが、ある時気づいてしまったのだ。

 2人が話している時、荒川と沙夜はお互いを意識している、そんな目をしていた。

 その時、俺は察した


 ─────あぁ、俺が出る幕はないんだって。


 だけど俺は、諦めきれなかった。だって、

 そして俺は、彼に告げた。


「俺さ……沙夜のことが好きなんだよね」


「そうか……」


 荒川は、驚きはしなかった。


「じゃあ、俺も言うよ。俺も小松さんのことが誰よりも好きだ。だから、相手が光輝でも諦められない」


「じゃ、これからは俺ら、親友兼、好敵手ライバルだな」


「あぁ。ぜってぇにお前には負けないぜ、荒川」


 道を見つけてそれに向かって突き進む彼のことが羨ましかったのだろう。

 彼の強い姿に負けを認めたくなかったのだろう。俺は彼の名前を呼びはしなかった。


 その夜、俺は河川敷に向かって叫ぶ。


「俺にだってぇぇぇぇ! 諦めきれないものが…………あるんだよぉぉぉぉ!」


 だから、この言葉が後ろから聞こえた時、俺は確信してしまった。



 あぁ、負けたんだなって──────



 

「沙夜を幸せにしてやれよ。


 俺────山波光輝は水平線に沈んでいく夕日を見ながらそう願い、ポ○リを飲み干した。


                 〈了〉

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最後の青春、僕らはキミに恋をする。 ハンくん @Hankun_Ikirido

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