第52話 真相
「冴島くん」
目の前に兼近さんがいた。
幻覚?
会いたすぎて俺は幻覚まで出してしまったのだろうか。
「ねぇ、冴島くん。大丈夫?」
ヤバい。幻覚だけならず幻聴まで聞こえる。
俺はいよいよ重い病気に掛かってしまったようだ。
妄想がいくところまでいく事態に陥ってしまった。
早く眼を覚まさないと。
そう思って俺は床に向けて強く頭突きをした。
「きゃー! え? 冴島くん。何をしているの?」
俺は額から血を流していた。
「あれ? 兼近さんが見える。俺はまだ夢から覚めていないのか」
「しっかりしなさい!」
パチンと俺は兼近さんに平手打ちを頬に食らった。
強い痛みに俺は現実に戻った。
「あれ? 兼近さん? どうして?」
「私はここよ。魅音。やりすぎだよ。実験はもう終了でいいよね」
「アズがそう言うなら仕方がないか。いいところだったのに」
スッと巫女ティは仮面を外した。
黒髪の清楚系美人で顔は幼さを残す可愛さがあった。
「実験? どう言うこと?」
「いやーごめんね。冴島くん。動画撮影に新しい風を吹かせようと思って冴島くんには反応を見てもらおうと企画に参加してもらった次第なんだよ」
「企画?」
「実況形式の他にもアウトドア系もどうかなって思って企画を練っていたところ。ほら、アウトドア系なら運動不足も解消されるし一石二鳥でしょ?」
全ては企画の一環。つまり、ドッキリという訳だ。
心配して考えていた俺がバカみたいじゃないか。
「いい加減にしてください。俺、どれだけ心配したと思っているんですか。本当に兼近さんに何かあったと思って不安だったんですよ」
「ご、ごめん。何も言わなかったのは本当に悪いと思っているよ。少しやりすぎたかなっていうのはうっすらあったし」
「だとしてもあんまりです。それにその女は誰なんですか」
「あぁ、彼女は羽川魅音。巫女ティって名前で活躍している私と同じVtuberだよ」
「いつからグルだったんですか」
「最近知り合ったんだよね。怪しかったけど、会って見たら凄い気が合っちゃって。同じ夢をみる仲間ほど話の合う人っていないっていうか。すぐ仲良くなっちゃって」
「だとしても」
「冴島くん。アズを攻めないで下さい。今回の件は私が悪いんです」
「どういうこと?」
「私が考えたんです。アズから相談があったんです。冴島くんの気持ちを確かめるためにはこれくらいのことをした方がいいって背中を押したのは私です」
「俺の気持ちを確かめる?」
「今回の件を通してハッキリしたんじゃないんですか? 冴島くんがどれほどアズのことを思っていたのか」
「なっ!」
気持ちがバレた。
俺が兼近さんのことが好きだってこと。
リア友ではなくそれは一線を通り越した恋だってことを知られた?
「冴島くん」と兼近さんは思い詰めたように言う。
「は、はい!」
「冴島くんの気持ちはよく分かった。でも、私からの返事は待ってもらえるかな?」
「は、はい。それは構いませんけど」
「うやむやにはしないから。絶対ちゃんとした答えを言う。でも今は恋より夢が忙しいの。だから少しの間、待ってもらえると嬉しいかな」
「はい。いくらでも待ちます」
「ありがとう。ごめんね。こんなどうしようもない私を思ってくれて。ちょっと嬉しかった」
「ちょっとですか」
「あははは。なーんてね」
いつもと変わらない兼近さんの姿がそこにあった。
それだけで俺は安心した。
彼女が無事でいてくれるだけでそれ以上のものは求めない。
むしろいらないかもしれない。
悲劇の一部始終はこうして終わりを迎えた。
「あ、それより速水さん! 大変だよ。兼近さん。速水さんが誰かに連れ去られて……」
「速水さんならそこにいるよ」
「へ?」
階段からひょこっと速水さんは顔を覗かせた。
「ごめん。出るに出られなくて」
「どうして?」
「実はあれ、私でした」と兼近さんはニコリと微笑みながらそう言った。
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