第45話 なーんて
「本当に私の彼氏になっとく?」
不意打ちのように当たり前のように出た兼近さんの発言に俺は頭が追いつかなかった。
これは告白というやつなのだろうか。
あまりにも自然な流れだったので俺は頭の中で何が起きたのか整理する。
「兼近さん。今なんて?」
「なーんて。嘘だよ。冗談。本気にしちゃった?」
「だ、騙したんですか?」
「騙したなんて人聞き悪いなぁ。どんな反応をするかなって確かめたかっただけ」
「それを確かめてどうするんですか?」
「別にどうにも。嫌な反応をされた時には私、ちょっと凹むかなって思ったけど、そんな感じじゃなさそうだね」
「別に俺は……」
クラッと景色が二重に見えた。
やばい。ずっと眠たかったのに無理して起きていた反動が今更来てしまったようだ。
このまま目を瞑れば一瞬で眠られそうだ。
でもこの場で寝るのは兼近さんに対して少し失礼なのではないか。
そんな格闘の中、俺は瞬きのつもりが完全に目を閉じていた。
そのまま俺は廊下に倒れ込むように寝てしまった。
「え? 冴島くん? ちょっと、どうしちゃったのよ!」
兼近さんの心配する呼び掛けが聞こえた気がするが、俺の意識は遠のいていく。
限界だった。人間、眠気の向こう側を超えてしまうと自分の意思ではどうにもならない。俺の意識はそこで途絶えた。
次に目を覚ました時には頭がスッキリしていた。
かなりの時間寝ていたのだろう。
「いててて。少し頭がズキズキする」
身体を起こした俺は自分の部屋のベッドにいた。
兼近さんは帰っていた。
俺はどれくらい眠っていたのだろうか。
時計を見ると十七時を指していた。
と言うことは俺、半日以上眠っていたことになる。
「嘘だろ! 学校……って今日は土曜日だから休みか」
安心した俺は再びベッドに横になる。
「いや、ダメだ。起きよう」
二度寝の危険を感じた俺はベッドを飛び上がる。
起きた途端、猛烈な空腹に襲われた。
なんでもいい。何か食べるものを胃に流し込みたい。
そう思って冷蔵庫を開けると見覚えのないコンビニ弁当が入っていた。
そこに一枚のメモが添えられている。
『あげる。しっかり食べてね。兼近』
「兼近さんが俺に?」
ただの焼肉弁当だが、俺は温めて夢中で頬張った。
「兼近さんも気が利くところもあるんだな。そうだ。お礼を言わないと」
食後に俺はお礼を言うために兼近さんの家のドアを叩く。
「兼近さん! 兼近さんってば!」
扉をドンドン叩くが中から反応はなかった。
寝ているのだろうか。
この時間に寝ているとしても兼近さんの場合は不思議ではない。
睡眠する時間はいつも不規則なのだ。
「まぁ、そのうち起きるだろう」
俺はその場を離れて自宅へ戻る。
その後、お礼のメッセージを送信した俺は適当に家の中で過ごす。
やるとしても家事や勉強以外することはない。
一人の休日を過ごしていた頃だ。
「兼近さん。まだ起きないのかな」
時刻は二十一時を過ぎていた。
二十二時の生配信に向けて準備で動き出す頃だが、隣人からは無音だ。
生活音の一つもないのはおかしい。一体、どうしてしまったのだろうか。
スマホを開けると兼近さんに送ったメッセージに既読付いていない。
隣人としてお節介かもしれないが、俺と兼近さんの関係を考慮すると気軽に部屋を行き来する間柄だ。
体調が悪いのではないかと心配になった俺は再び兼近さんの部屋を訪れる。
「兼近さん。大丈夫ですか?」
扉越しの呼びかけに対してもやはり反応はない。
中でぐったりと倒れていたら大変だ。
「兼近さん。入りますからね」
意を決して俺は扉を開ける。
「……………………えっ?」
俺は信じられない光景を目の当たりにする。
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