第28話 親子喧嘩


「認めていないって私はちゃんとお父さんが出した条件をクリアしたから認めざるを得ないでしょうが!」


「確かに亜津葉に有名進学校に入れるはずはないと無理な条件を出したが、お前は難なくクリアした。お父さんの不覚だった」


「じゃ、問題ないでしょ」


「大ありだ。亜津葉。お前は大学に行く気はあるのか?」


「さぁ。今はわからない。でも高校は意地でも卒業するから安心して」


「分からないってどういうことだ。ちゃんと将来のことは考えているのか?」


「考えているよ。一応」


「それは考えていない奴の発言だ」


 はぁ、と父親は大きなため息を吐いてお茶を一口含んだ。


「ところで亜津葉。例のV何とかってやつはまだやっているのか?」


「Vtuberね。やっているよ。それで今だって生活しているんだから」


「それはそんなに儲かるものなのか?」


「まぁ、生活できる程度はね」


「やめておけ。そんないっときの活動でずっと安定するわけない。お前もお姉ちゃんのように立派な会社に就職して出世しろ」


「あーもう。私はそんな真面目な生き方は合わないからしないって言っているでしょ」


「まだそんなことを言っているのか。安定こそ生活を豊かにする。お前のような将来、分からないようなことをしているといつか痛い目に合うぞ!」


 父親の暴走は止まらない。

 周りにいた俺を含めてお母さんやお姉ちゃんは距離を置く。

 兼近さんが最も敵対視するのはこの父親なのだろう。


「安定、安定ってそんなに安定が大事? 人生は一度しかないんだから私の好きにさせてよ」


「人生一度だからこそ安定が大事なんだ。失敗して将来棒に振るよりよっぽどマシだろう」


「最初から挑戦もせずに安定を求めていたって面白くない!」


「面白い面白くないの問題じゃない。お前に苦労を掛けたくないから言ってやっているんだ」


「別に言って欲しいって頼んでないし。私は挑戦して失敗したなら後悔しない。何も挑戦しない人生は絶対に嫌!」


「いい加減にしろ。一人暮らしをさせているのも特例だ。だが、それも今日で終わり。お前はもう実家に戻ってこい。そんなくだらない活動も辞めてしまえ」

「はぁ。会ったらいつもそれ。マジうざ!」


「亜津葉。親に向かってその態度は何だ!」


 父親が兼近さんに手を上げようとしたその瞬間、俺はその手を受け止めた。

 パシッと兼近さんの前に立ち塞がる。


「黙って聞いていればあなたは娘に向き合おうとしていない。自分の意見を押し付けているだけだ」


「な、何だね。君は。彼氏だが何だか知らないがうちの問題に口を出せないでくれないか」


「そういうわけにはいきません。兼近さんのことを聞いてあげてください」


「くっ! 亜津葉。こいつはそもそも何者だ。まさかお前を訳のわからない道に誘導した元凶か?」


「はぁ、冴島くんは関係ないよ。何なら勉強できるし、お父さんより優秀かもね」


「君、そんなに頭がいいのかい?」


「まぁ、クラスで五番以内には」


「将来はどうするつもりかね」


「えっと、大学に進むつもりです。結構名門の」


「亜津葉」


「何?」


「彼氏さんと仲良くするんだぞ」


「は? 何よ。急に手のひらを返したように」


「お前がV何とかで失敗しても彼氏に養ってもらえばお父さんも安心だ。君もその覚悟があって娘と付き合っているんだろ?」


「え? いや、その……」


 そもそも付き合っていないのだが、親の前で下手なことは言えない。

 だが、そうですと言えば俺の人生は兼近さんに注がなくてはならない究極の選択になってしまう。


「私は誰かに頼った生き方はしないよ。失敗したらそれなりにちゃんと働く。それでも文句ないでしょ」


「好きにしなさい。今はうまくやっているようだが、少しでも失敗したらすぐに辞めるんだ。実家に帰ってもらうぞ」


「絶対そんなことはないと思うけどね」


 父親の前で固い決意を固める兼近さんだが、現状、俺に頼った生活が目立っていたが、独り立ちするのはまだ難しい。

 一層、実家に帰ってくれると安定すると思うのだが、そうなってしまえば俺の部屋に遊びに来てくれなくなるので複雑な心境だ。


「そう言えば亜津葉。パソコンとかどうしたの? Vtuberって機材とか必要だと思うけど、この部屋に見当たらないような」


 お姉さんの指摘に兼近さんは慌てる。


「あ、ちょっと別のところに移しているの。モノがある勉強に集中できないから一時的に知り合いのところを使わせてもらっているんだよね。はははっ」


 慌てる兼近さんも可愛いと思ってしまう。

 何とか俺の部屋だと気付かれずに今のところやり過ごせているが、早く帰ってくれと願うばかりだ。

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