第27話 悪あがき


「ん、んん! ん?」


 変な体勢で寝ていたことで身体の痛みを感じた俺は目を覚ます。

 何故、廊下で寝ているんだっけ。それにここは俺の部屋ではない。


「そうだ! 片付けの途中だった。今、何時だ?」


 時間を確認すると朝の十時を過ぎていた。

 タイムリミットの昼まで残り二時間を切っている。


「兼近さん! 起きて。大変だ」


「うーん。もう、何よ。人が気持ちよく寝ている時に」


「大変だよ。もう時間がない」


「へ? 片付け終わった?」


 途中で寝落ちしたこともあり、まだ片付けは終わっていない。

 全体で言うと六割程度。リビング周りだけを見れば七割程度が済んだ状態だ。


「えーまだ残っているじゃん。どうするの」


「どうするかはこっちが聞きたいです」


「まぁ、時間もないしでいくしかないか」と兼近さんはボリボリと頭の後ろを掻きながら言った。


って何ですか?」


「冴島くん。今日だけ私の彼氏になりなさい」


「へ?」


 兼近さんの作戦はぶっ飛んだものになっていた。

 時間がない中、最低限の準備を施してその時を待った。

 そして、昼過ぎに兼近さんの家族がアパートの前に到着したと連絡が入った。


「いらっしゃい。お母さん。お父さん。お姉ちゃん。何もないところだけど、ゆっくりしていってね」


「へぇ、随分綺麗にしているのね。って誰?」


 お姉さんはリビングにいる俺の存在に気づいてしまう。


「あ、どうも。亜津葉さんの彼氏の冴島保高って言います」


 俺は家族に頭を下げた。


「亜津葉。あんた、彼氏居たの?」


「うん。まぁね。今日はついでに紹介しようと思って来て貰いました」


「ど、どうも」


「ところでこの部屋、何もないな。うちから持ち出した家具はどうした?」


 お父さんは部屋について疑問を浮かべる。


「あぁ、趣味じゃなかったから捨てたよ?」


「捨てたってお前が欲しいって言うからあげたのに捨てることないだろ」


「へへへ。ごめんね。お父さん」


 部屋に対して疑問を持つのは仕方がない。

 

 そう、あたかも兼近さんの部屋を俺の部屋に見立てるのが兼近さんの作戦である。俺にとっては悪あがきにしか見えないのだが、ここは無理やり押し切るしかない。


「なるほど。冷蔵庫の中身は充実しているな。ちゃんと自炊しているのか?」


「ちょっと。勝手に開けないでよ。ちゃんと自炊しています!」


「へー亜津葉は料理を覚えたのか。今まででは考えられないな」


 まぁ、俺が自炊しているわけで兼近さんはお父様の知る通り何も出来ない人ですと言いたい気持ちを堪えた。


「それはそうとちゃんと勉強はしているの? 好き勝手しているかもってお母さん心配なんだからね」


「しているよ。ちゃんと学校にも行っているし」


「それならいいけど、留年や退学なんて絶対にしないでね。お母さんはそれだけが心配よ」


「あーはい、はい。しませんから大丈夫です」


「それにしても日当たりが悪いな。どうしてカーテンを閉め切っているんだ」


 お父さんがカーテンを開けようと踏み出した。

 まずい。ベランダには俺の洗濯物が干しっぱなしだ。

 見られたらアウト。


「開けちゃダメ!」


 兼近さんが壁となって行く手を阻む。


「どうした。亜津葉」


「いや、あの。そうそう。私、陽に焼けたくないから閉めているの。お肌のためにね」


「だったら電気を付けろ。暗すぎる」


「分かったよ」


 何とかベランダを覗かれることだけは防げた。だが、問題はまだ続く。


「あんた、シャンプーこんな安いの使っているの? 女の子なんだからもっとちゃんとしたやつ使いなさい」


「ちょ! 勝手に風呂場覗かないで」


 これ以上、部屋を物色されると男の部屋だとバレてしまう。

 この家族たちから何とか部屋から興味を逸らさなければならない。


「兼近さん」


「分かっているよ」


 まずは動き回らないように座らせる。

 話の場を整えることが墓穴を掘らない対策となる。


「皆、お茶でも飲んで。今日は私に話があるんでしょ?」


「そうだったな。部屋を見る限り、生活はまともにできていると思う」


 まぁ、それは俺なんだけど。


「だが、お父さんはお前が家出をしたことをまだ認めていないからな!」


 父親の発言で部屋全体に不穏な空気が流れた。



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