第12話 添い寝
店を出て数メートルの移動で既に限界だった。
「食べ過ぎた……」
「無理して食べるから」
「俺の中で出された食べ物は残さないと決めているんだ」
「何、その美学」
「野菜農家の家で育った俺の家訓だ。どんなことでも食べ物を残すべからず」
「なるほど。それは厳しいかもね。それより次は冴島くんが何をするか決める番だよ」
「何をするって言われてもこのお腹でどこか動き回るのはしんどいというか」
「じゃ、帰る?」
「それもいいかもね」
「じゃ、帰ろう。今日は楽しめたし」
「そ、そう? 苦しい思いをしただけだと思うけど」
「そうでもないよ。冴島くんと一緒だったから」
「え?」
「リア友の有り難さを今、身に染みたって感じ」
「そっか。それなら良かった」
そしてそのまま帰ることになるのだが、兼近さんは当たり前のように俺の家に上り込む。あまりにも自然だったので突っ込みがやや遅れてしまう。
「はー。一休みっと」
「あの、ここ俺の家なんですけど」
「うん。知っている」
「帰らないの?」
「ここが良い。というより落ち着く」
「人の部屋で落ち着かれても困るんだが」
「冴島くん。冷たいジュースが欲しいな」
「あ、はい。じゃなくて」
「少し寝るね。おやすみ」
「え、えぇ?」
兼近さんは当たり前のように眠る。
こんなことがあっていいのだろうか。あまりにも無防備なので拍子抜けしてしまう。
そういえば俺も満腹で急に眠気が襲った。
「冴島くんも寝る?」
「寝たいけど、俺の寝る場所が兼近さんに奪われているわけで」
「あぁ、それは申し訳ない。じゃ、一緒に寝ようか」
「一緒に?」
「はい。半分どうぞ」
兼近さんは身体を端にずらして俺のスペースを空けた。
一緒にって良いのか? でもどうぞって言っているわけだし。
「ほら、どうしたの? 早く」
「は、はい」
俺は素直に兼近さんの隣に身を寄せた。
暖かい温もりが微かに伝わる。
女の子ってこんなに良い匂いがするんだ。
「じゃ、おやすみ」
兼近さんはそのまま眠りに入る。
てか、こんな状態で寝られるんだと俺はある意味感心する。
男慣れしているのだろうか。
俺みたいな男なら危険がないと踏んでいるのだろうか。
「兼近さん」
呼びかけても反応はない。本当に寝てしまったのだろうか。
俺は腰に手を回そうと触れた時だ。
寝返りを打つように軽く手を振り払われた。
やっぱり起きている?
だが、寝込みを襲うのは卑怯者がやる行為だ。
俺は最後まで真面目に生きる。そう決め込んで睡魔から逃れることはなかった。
数時間後、目を覚ますと兼近さんの姿は消えていた。
「帰ったか」
頭がすっきりしたことで俺は机に向かって勉強を始めた。
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