第9話 退治とお出かけ
この日は休日だった俺は図書館で勉強しようと出かける準備をしていた。
どこで勉強しようと変わらないが、気分的にリフレッシュできることから好んで図書館に通っている。
そんな時だ。
「冴島くん。居る?」
兼近さんが扉をノックしながら俺を呼ぶ。
何か面倒な予感がした俺は居留守を使おうと部屋の奥で息を殺す。
「こら! 居るのは分かっているのよ! 出て来なさい!」
「は、はい」
俺はビックリして扉を開けてしまった。
兼近さんを怒らせると後が怖い。
「何で居るのが分かったの?」
「あ、やっぱり居るじゃない」
「居るじゃないって分かっていた訳じゃないの?」
「そんな気がしただけ」
「騙された」
「それより大変! うちに来て」
「へ?」
俺は強引に兼近さんの部屋に呼ばれる。
この部屋に入るのは二回目だ。相変わらず不要なものやゴミで溢れている。
動画配信するエリアは綺麗にしてあるが、エリアから外れると見るに堪えないゴミの山。これがVtuberの部屋の実態か。と改めて思い知らされる。
「出たのよ」
「出た?」
「Gが! お願い。退治して」
ゴキブリか。
「何だ。そんなことか」
「そんなことかじゃくて早く」
部屋の中ではカサカサと動き回る気配を感じた。
俺は雑誌を丸めて構える。
「冴島くん。そこ!」
テーブルの下から黒テカリの物体が姿を現す。
「でーい!」
手応えがない。外した?
「きゃー!」
「兼近さん!」
俺は兼近さんからGを近づけないように盾になる。
格闘の末、仕留めることは出来なかったが部屋から追い出すことに成功する。
「ちっ。命拾いしたな」
「上等だよ。ありがとう。黒い魔の手から救ってくれて」
「その黒い魔の手の原因はこの部屋にあると思うけど」
「それは言わないで。後でまとめて片付けるから」
それは出来ない人の発言だ。おそらく一生経っても片付けるつもりはないだろう。
「それより外出用に着替えているんだね。どこか出かけるつもりだった?」
「あぁ、図書館に勉強をしに」
「そうなんだ。私もお供していいかな?」
「いいかなって別に面白いことないけど」
「Vtuberって部屋の中で過ごすことが多いじゃない? だから身体が鈍ると言うか健康に悪いのよ。出かけるとしてもコンビニとか学校だしたまには出かけることも必要かなって。それに冴島くんの過ごし方も気になるし」
「えーと……」
「何?」
「いえ、別に」
「そう。じゃ、着替えてくるからちょっと外で待っていてね」
「は、はい」
断る間も無く兼近さんは俺の外出に同行することになった。
一瞬、睨まれたので断ると何をされるか分からない。
またしても勉強に身が入らない気配が漂っていた。
「うーん。図書館で勉強コースだったが変更しようかな」
今からデートが始まる?
そんな淡い考えが巡り始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます