第29話 商業ギルド(2)

 ウイスキーの製造方法を登録する為に商業ギルドに来たエルフィーさんと私はギルド長室へやって来た。そこに居たのは小太りの男。


「これはこれは名匠エルフィー様。本日はどのようなご用件でしょうか。もしや以前からお願いしていた我が商業ギルドでエルフィー様の武器の販売を了承頂けるのでしょうか」


 エルフィーさんはその男の言葉を無視して黒革の豪華なソファーに座り一言口を開いた。


「ギルド長のナンシーは何処だ」


 その男は話を無視された事に僅かに顔を歪ませていたがなんとか笑顔を取り戻し、テーブルを挟んだ対面側のソファーに座って話し始めた。


「ギルド長は先週から出張に出ておりまして戻りは3日後の予定です。その間は私デルブがギルド長代理として業務を管理しておりますので用件をお伺いします」


 それを聞いたエルフィーさんは思いっきり不満顔だ。オマケに「はぁ」とため息をついている。私はそんなエルフィーさんの横に行ってソファーになに食わぬ顔でちょこんと座る。するとギルド長代理のデブ?デルブさんが「お前は誰だ?」と言った目で私を見た。(さっきから表情に出すぎだね。商売人失格だよ?)


「仕方がないな。おいお前、この部屋に誰一人近付けるな。それと魔法紙の準備をしろ。今すぐにだ」


「はい、それではまずお茶の準備をさせますのでしばらくお待ちください」


 デルブさんはそう言って席を立ちドアに向かったが、それをエルフィーさんが止めた。


「ワシは今すぐ準備しろと言ったんだ。茶などいらんわい!」


(エルフィーさんの言動は少し横暴だけど、あのデルブさんの態度がそうさせてるんだよね。だってエルフィーさんと一緒に部屋に入った私を見たのに挨拶1つも無いんだよ?それは駄目でしょ)


 そのデルブさんはまたもや顔を歪ませ何故か今度は私を睨み付けた。そしてその顔のままで「判りました」と言って部屋を出ていった。


「奏、すまんな。すぐに登録を済ませるから我慢してくれ」


 エルフィーさんは私に向かって頭を下げた。


「ふふ、気にしてないから大丈夫」


 それから数分して額に汗を滲ませたデルブさんが書類を抱えて戻ってきてソファーに座った。それは割りと大きめの羊皮紙で何枚かを筒状にしていた。


「お待たせしました。ここに魔法紙5枚あります。それでは記入するにあたって立会人となる私に登録内容の説明をお願い致します」


 エルフィーさんにそう話すデルブさん。私を完全に無視した状態だ。そのエルフィーさんは怒っても無駄だと思ったのか、そのまま話を進めようと口を開いた。


「今回登録する内容は酒の製造方法じゃ。その酒はウイス‥‥‥‥‥‥」


「エルフィーさんちょっと待って。あそこの絵画が飾ってある壁だけど隠し扉だよ。その扉の裏に人の気配がある」


 私はエルフィーさんの話を遮り隠し扉と人の気配があることを伝えた。それを聞いたエルフィーさんはデルブさんを鋭く睨んでいる。(おいおい、お前もうダメダメだよ)


「おい、ワシは誰も近付けるなと言ったよな。何故それを守らんのじゃ?」


 エルフィーさんに睨まれたデルブさんの顔は真っ青だ。そしてそのデルブさんが言い訳を始めた。


「あ、あの、このギルド長室で行う商談は扱う金額が高額なものが多く、後で問題が起きないように筆記専属者が記録するようになっているのです。これはお客様の為でもありま‥‥‥」


「そんなこと知っとるわい!だがその客が誰も近付けるなと言ったんだ。それを了承も得ずにするとはどういう事だ!」


 もうデルブさんは話す気力を失ったようで項垂れて黙ってしまった。その項垂れる時に私を睨んでいたのは最悪だ。


「はぁ、もういいわい。この話は無しじゃ。奏、時間を無駄にして済まんかった。こんな所はすぐに出ていくぞ」


 エルフィーさんと私はデルブさんに挨拶することなく部屋を出ていった。そして1階まで降りると受付をしていたアリアさんが私達に気付いて走り寄ってきた。


「あの、ギルド長代理が粗相をしたようで誠に申し訳ございません。出来れば今後ともご利用頂ければ助かります。本当にすみません」


 そう言って深々と頭を下げるアリアさん。(この人凄いね。状況把握完璧だよ)


「ああ、気にするな。お主が謝る必要はない。また必要なことがあれば顔を出す。ただしあの男は2度とワシに近付けるな」


 エルフィーさんはそう言って歩き出す。私はアリアさんに笑顔で手を振ってからエルフィーさんを追いかけた。そして私が追い付くとエルフィーさんが言った。


「これから冒険者ギルドに行くぞ」


「えっ、そうなの!終わりじゃないの?」


「そんな訳あるか!登録がまだ済んでなかろうが!」


(はぁ‥‥今日は長い1日になりそうだ‥‥‥)


 私はトボトボと髭もじゃオヤジの後ろをついて歩いて行くのであった。


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