第28話 商業ギルド(1)

 私は朝早くから髭もじゃオヤジの後ろをテクテクと歩いている。その行き先は商業ギルドだ。どうやら私が教えたウイスキーの製造方法を商業ギルドで登録するらしい。

 この登録は専用の魔法紙に内容を書き神様に捧げる事でその登録者の物となり、許可無く使用したり秘匿内容を盗んだり、悪用することが出来なくなるそうだ。ただしなんでもという訳ではなく、神様に認められたものだけが対象となる。地球でいう特許制度みたいなものだ。

 もちろん登録者以外がその内容を知るためには情報料が必要で、使用する場合は使用料が発生する。そしてなんとこの約束事を破ると神罰があるのだ。(異世界って怖いね)


「ねえエルフィーさん、別に登録しなくてもいいんじゃない?ドワーフ族の人達が製造方法を漏らさなければいいだけだし」


「バカもん!そんなもんどこで漏れるか判らんじゃろうが!あのな、火酒の製造方法も神様に捧げて守ってもらってるから紛い物が出回る事もなく、ドワーフの宝酒として人々に認められ愛されているんだ。余計なこと言わずにさっさと歩け!」


 私の前を歩く髭もじゃはご立腹だ。(ここで膝カックンしたらどうなるかな?)


「はいはい、判りましたー」


 朝の商店街は食べ物の屋台が多く私の心を揺さぶってくる。その屋台は定番の肉串はもちろんパンに野菜や肉を挟んだものや具沢山スープ、野菜炒めを出している所もあった。

 お客はその場で用意された椅子に座って周りの人と賑やかに話ながら食べたり、自前の箱や袋に入れて持ち帰る人も多かった。

 そして何処を見ても賑やかで楽しそうに、そして元気に生活しているように見えた。


「エルフィーさん‥‥‥今は不治の病で苦しんでいる人が増えているんだよね?でもここの人達はそんな風には見えないんだけど‥‥」


 私は感じたことをそのままエルフィーさんに聞いてみた。そのエルフィーさんは「ああ、その事か」と言って立ち止まり、私に向かって困った顔をして話し始めた。


「奏、ここは城下町で一番の商店街。この城下町の表の顔だな。だからここは街ではある程度裕福な生活をしている者がくる場所。それは高価な薬草やポーションを買って病気にならないように予防している人達だということだ。

 まあ完全には予防出来ないみたいだけどな。それがあのサーシャだ。カルビーンは元王国騎士団団長だ。それなりの金は持っていてポーションを買って飲んでいた。でも病気になって動けなくなってしまった」


 そこまで言ってエルフィーさんは「ん?」と思案顔になった。そしてある事に気が付いて私に聞いてきた。


「そういえば今朝サーシャがワシを出迎えてくれてたぞ。ウイスキーの事で頭がいっぱいだったから気が付かなかったが‥‥おい奏!サーシャの病気は治ったのか!どういう事だ!」


 そんなエルフィーさんに私は人差し指を口の前に当てて「しー」と小さな声で言って可愛らしくウインクをした。


「ま、まさか奏、お前が‥‥‥い、いやなんでもない。とにかくサーシャが治って良かった。それだけ判れば十分だ」


 エルフィーさんは私に何かあると感づいたようだ。だけどそれを追及してこない所が好ましい。そして何事もないような顔をして話の続きを語り始めた。


「それでだな。ここは城下町の表の顔、なら裏の顔もある訳だ。特に酷いのが街の北側だ。興味があるのなら今度連れていってやる。だから約束しろ。絶対に1人では行くな」


 そう言ってエルフィーさんは再び商業ギルドに向かって歩き始めた。


(その北側の場所は見る必要がある。でないと私は後で必ず後悔する予感がするから)


 それから私達は無言で歩いていた。私もそうだけどエルフィーさんも考える事があるのだろう。(たぶん私の事だけどね)

 そしてやっと着きました商業ギルド。その建物は大きな木造3階建てで風格のある建物だ。エルフィーさんは「ついて来い」と目で合図して両開きのドアを勢いよく開き中に入っていく。(ここは横スライドタイプじゃないのね。少し期待してたんだけどね!)


 私は小さな声で「たのもー!」と言ってエルフィーさんの後ろをついていく。そのエルフィーさんは受付嬢の前に行くと「ギルド長室まで案内を頼む」と言って向かいの椅子に座り、私もその隣の椅子に座った。すると依頼された受付嬢はすぐにやって来てエルフィーさんと私に頭を下げて挨拶を始めた。


「私、受付のアリアと申します。お急ぎの様なので挨拶はこれで終わりとさせて頂きます。それではご案内致します」


「すまんがよろしく頼む」


 さすが商業ギルドの受付嬢だ。客が望んでいる事を僅かな仕草で見抜き対応する。エルフィーさんもその対応にご満悦のようだ。


 そしてその受付嬢アリアさんの案内で最上階の3階の一番奥の部屋まで歩いて行くとアリアさんがドアをノックして「エルフィー様とお連れ様が至急の用件で来られました」と言ってドアを開け私達を中に通してくれた。そのアリアさんは私達に頭を下げて退室する。(とても素敵なアリアさん。ありがとね!)


 そしてこの部屋に居たのは背の低い小太りの男。その男はエルフィーさんを見るなり椅子から立ち上がり、揉み手をしながら近付いてきた。


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