第30話 冒険者ギルド(1)


 商業ギルドで一悶着あった私達はその足で冒険者ギルドに向かった。その場所は第一城壁近くにある商業ギルドと違って第二城壁沿いで南門の近くにある。


 そして冒険者ギルドを目指すエルフィーさんと私は話すことなく黙々と歩いている。それは商業ギルドに向かう時に気になった事が今でも尾を引いているからだ。エルフィーさんは私の正体が気になり、私は城下町の裏の顔と言われる街の北側の事が気になっていた。


「おい、着いたぞ。ここが冒険者ギルドじゃ。ここは腕に自信がある者が多く集まっている。そして勘違いしているヤツもな。ワシがおるから絡んでくる者は居ないと思うが、もし居たら遠慮することはない。奏の気が済むまでやればいいぞ。ただし殺しは駄目じゃ」


 大きな建物の前で立ち止まり、私に向かって悪党のボスのような顔をして説明してくれたエルフィーさん。(まずはお前を成敗してやろうか!)


「へい、判りやしたボス!半殺しにすればいいんすね。任しといてくだせぇ」


(悪党のボスとくれば、三下のチンピラがセットだからね!)


「奏‥‥‥‥ワシは少し心配になってきたんじゃが‥‥‥出来れば大人しくしてくれよ。ホントに頼むぞ?判ってるな?」


「ふふふ、判ってますよー。それってアレでしょ?フリってやつ?任せといてよー」


 私はエルフィーさんの隣に立って肘でお腹を突つき、ニヤけ顔でそう答えた。そのエルフィーさんは呆れ顔の心配顔だった。


「いや、頼むから本当にやるなよ。それじゃあ中に入るぞ。奏は脇目を振らずに付いてくるんじゃぞ。お願いじゃからな?」


「もう!そんなに期待されたら私張り切っちゃいますよー!」


(ぶふっ!髭もじゃの困り顔。めちゃくちゃオモれー!腹がよじれるんですがー)


 そんな私はニコニコ顔で髭もじゃオヤジを通り越して冒険者ギルドの両開きのドアを勢いよく開け大声でさけんだ。


「たのもーー!‥‥‥‥ん?」


「しゃーーーー!バシャン!!」


 私が開けたドアは左右に勢いよく滑っていき、遥か先の壁にぶち当たって激しい音をたてて弾けるように止まった。


「えーーと‥‥‥会心の一撃ってやつ?それともクリティカルヒットって言えばいい?」


 私はエルフィーさんに向かって可愛く小首を傾げて聞いてみた。そしてエルフィーさんは「はぁ‥‥」とため息をついて答えてくれた。


「冒険者ギルドは時間帯によるが大勢での出入りが激しいから間口は広くしとるんじゃ。今は朝の忙しい時間を過ぎとるから扉を閉めとった訳じゃな」


(いや、こんなによく滑るレールにしてる事の説明をしてくれよ。お前の店もそうだよな?でも気にしてないよな?なんでだよ!)


 私はなんとか心を落ち着けてエルフィーさんのあとを付いていく。思いっきり脇目を振りながら。(このイラつきを解消させてくれ!)

 でもギルド内に居るゴロツキのような冒険者達はエルフィーボスが怖いのか、誰も目を合わせようとはしなかった。

 そしてエルフィーさんは受付に行ってギルド長室まで案内してもらうよう頼み、私達はその受付嬢さんの案内で2階に上がった。


「コンコン」「エルフィー様とお連れ様がいらっしゃいました。中にお通ししますね」


 そのギルド長室は2階の奥にあり、受付嬢さんが先に入り私達を迎え入れてくれる。そしてソファーの前に立ち私達を待ち、「こちらへどうぞ」とそのソファーに座るようにと勧めてくれた。私達は受付嬢さんにお礼を言って座り、私はギルド長室を見渡した。

 この部屋は12畳ほどで大きく長い2対のソファーが置いてあり、あとは壁に本棚と窓際に大きな机が置いてあった。そしてその机で書類と奮闘している男性が居た。


 その男性は背も横も大きく筋肉質でいい体格をしている。顔は凛々しくイケてるオジサンだがハゲ頭が私的にはマイナスポイントだ。そして左目に大きな傷があり目を塞いでいた。


「おお、エルフィー。久し振りだな。それと隣のお嬢さん、初めましてだな。俺はダルタンで冒険者ギルドのギルド長をしている。そこのエルフィーとは古い付き合いだ。宜しくな。

 それでエルフィー、ちょっとこの書類を片付けるから少し待っててくれるか。メリーナ、悪いが2人にお茶と菓子を出してもらえるか」


 さきほど案内してくれた受付嬢さんはドアの側で控えいる。(この人がメリーナさんか、背が高くてスラッとしててカッコいい女性だな。出るとこもちゃんとあるしね!)


 そのメリーナさんはギルド長ダルタンさんの指示に頷いてドアを開けようとしたが何故かエルフィーさんが待ったをかけた。


「メリーナさん、ワシは自前のものがあるから隣に居る奏の分だけ頼む。ああ、ギルドで売ってる高い方の干し肉を持ってきてくれるか。金はあとで払うから値段を教えてくれ」


 そう言ったエルフィーさんは、腰に着けていたアイテム袋から20年物ウイスキーの小樽とコップを取り出しテーブルに置き、小樽を慎重に持ち直して溢れないように注ぎ始めた。

 すると静かな部屋に「トクトク」と小気味良い音が鳴り、ウイスキーの酒精と独特な甘い香りがほのかに漂った。


「お、おい、その琥珀色の輝き、そして強い酒精と甘い‥‥‥いや、甘いだけでなく複雑でいて高貴な香り。それは火酒なのか?でも火酒は無色透明だった筈だよな。エルフィー、それはなんだ!頼むから教えてくれ!」


 ダルタンさんはそう言って手に持つ書類を放り出し、エルフィーさんの元へと歩き出す。そしてエルフィーさんと私はお互いに顔を見合せニヤリと笑い小さな声で言った。


「おい、ハゲ頭が釣れたぞ。大物だ」


「ぐふふ、今日は大漁ですね」


 あと、オマケで受付嬢も釣れたとさ。


はい、おしまい‥‥‥‥じゃないよ!続くからね!

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