第21話 マグルートの企み
バンデル王国での夜が明けて通りの朝市が賑かになり人通りが多くなってくる。リーナ率いる隠密部隊は一般人の装いで偽の通行証を提示して正門から歩いて王都を出ていった。
これは王都に入る際には厳しいチェックが入るが、出る時はその通行証を目視確認するだけと簡易なチェック方法故に出来る裏技だ。
リーナ達はある程度歩くと脇道にそれ、誰も人が居なくなるとクールを先頭に走り出し、目印を付けた場所まで戻る。そして輪になり持ち帰った情報を持って話し合いを始めた。
そして最初に口を開いたのはクールだ。クールは地下設備を確認している。
「地下施設ですが厳重な鍵と魔道具による罠が仕掛けられていました。まあ私には手応えの無いものでしたけどね。それでその地下には大量の魔結晶が保管されていました」
魔結晶とは魔獣が体内に持つ魔石を加工して造るもので、魔道具のエネルギー源として使用される。その魔道具は主に生活に携わるものが多いが軍事利用しているものも少なからず存在するのだ。
その次にマグルート邸の執務室以外を確認したエリーが報告する。
「4つある客室に各2名ずつ計8名の冒険者が寝ていました。その部屋に置いてある装備から銀2級以上と思われます。警護目的で雇うのは銅2級から銀3級までが一般的なので他の用途で雇い入れていると考えていいでしょう」
冒険者の等級は銅5級から始まり金級が一番上となる。さらに上にミスリル級があるがこれは人外レベルなので別枠だ。新人が銅5級、銅3級で一人前、銅2級から銀5級までが一番人数が多く、銀4級と銀3級がベテラン冒険者となる。そしてここで大きな壁がありぐっと数が少なくなる銀2級、銀1級の冒険者はなんらかの特技や特殊能力を持っている者が多い。最後に金級は銅、銀級のような5段階で分けられてなく『金級』として存在する。
そしてマグルート邸の執務室を調べたリーナが顔を歪めながら皆に話を聞かせた。
「執務室では隠し扉が見つかり様々な書類が保管されていた。それは有力貴族、バンデル王国騎士団将軍との密約書、裏帳簿があり小麦を始めとした大量の食料買い付け、鉄の購入と武器の製造依頼に多額の金を注ぎ込んでいた。そしてラバニエル王国貴族との密約書もあった。
クールとエリーの報告からもマグルート様は我が国に戦争を仕掛ける可能性が高い。このバンデル王国で権力を高めて王座に着くかクーデターを起こしてな。そして権力を高める1つの方法が7人の聖女様を利用する事だ。密約書の文面に聖女様を最低1人妻に迎え国民からの支持を高めると書いてあった」
それを聞いた部下の4人は間違いないだろうとリーナに向かって頷いている。そして城の付近で聞き込みをして戻ってきたダンディーとボッケだがダンディーが纏めて話をした。
「それですが多くの住民が飲み屋である噂をしていました。それはこの国でも不治の病が流行っていてその原因がラバニエル王国にあると。そしてなにも対応しないバンデル国王や王子は無能とだとも言っていました。その中にマグルート様の話は全く出ていません。
多分にもう少し国王の支持率が下がり、聖女様を招き入れてから表に出るよう情報操作をしているのではと思われます」
不治の病は『聖女の森』から拡散された飛沫が原因で、その森はラバニエル王国の西にある。そしてラバニエル王国だけでなくバンデル王国の西まで広がっているのだ。
「我が国にはバンデル王国からの使者フリンデ子爵とステラ神官助手が滞在している。すぐにでも移動を開始したいが我々の存在が今バレるのは不味い。予定通り夜を待って飛竜で戻ることにする。それまでしっかり休んでおけ。国に戻ったら忙しくなるからな」
リーナ隊長ことカリーナが最後にそう言ってこの話し合いを締め括った。
ーーーラバニエル王国王城内ーーー
「初めまして、7人の聖女様。私はフリンデと申します。是非とも聖女様とお近づきになりたくてご挨拶に伺いました」
春香が忍の部屋で話をしている隙をみてフリンデ子爵とステラ神官助手が春香の部屋に集まっていた残りの聖女の元へ挨拶にやって来た。
美琴達は転移時から顔見知りのステラが居るので警戒心を持たず笑顔で挨拶をする。
「初めまして、私は成瀬美琴です。代表して挨拶させて頂きます」
そしてフリンデは「少しだけお邪魔させて頂きます」と有無を言わさず流れるように部屋に入り空いていたソファーに座りステラはその後ろに控えるように立った。
それからフリンデは他のメンバーとも挨拶を交わし、自分がバンデル王国に居るマグルートの使者で聖女召喚の関係者であること説明する。そしてそのバンデル王国でも不治の病で苦しんでいる国民が大勢居るので聖女様の力を貸して欲しいと頭を下げるのであった。
「ダジール女王陛下は国民の幸せを望むご立派なお方です。それ故に自国の民の治療を優先してしまうでしょう。ですがそれではバンデル王国の民は多くの者が苦しみ死んでしまいます。幸い聖女様は7人居られます。その内の何人か来て頂ければ両国の民が救われるのです。
ですがそのダジール女王陛下からはその意見は出されないでしょう。ですから聖女様から言って頂ければダジール女王陛下に頷いてもらえる筈なのです」
フリンデは苦悩の表情で必死に訴える。そして美琴達はその熱意に飲み込まれていた。フリンデの持つスキル、話術レベル5の力が作用している事も知らずに。そして美琴達はフリンデとステラの冷めた視線の先で疑うことなく誰が行くかを話し始めた。
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