第22話 フリンデと赤の聖女
フリンデは春香と忍を除いた5人にバンデル王国に赴き病に苦しむ国民の治療をしてもらえるよう懇願し頭を下げた。そして美琴達はなにも疑うことなく誰が行くかを話し始めるのであった。
「ねぇ、7人居るから3人行くようにすれば問題ないよね。1人だけだと寂しいし。それでなんだけど私が行ってもいいよ。海があるからお魚食べ放題だし美琴も一緒に行かない?」
そう言ったのは黄の聖女(恵み)の渋谷南。転移した時に喜んでいた2人組の内の1人だ。陸上部で短距離走選手の彼女は日に焼けた肌がよく似合うショートカットで活発な性格の女の子。目がクリクリして小動物のように可愛らしい。
「南が行くなら美琴も行かないと駄目だよ。だって見守ってくれる人が居ないとバカ南はなにするか判んないからね」
「えー、それってちょっと酷くない?そう言う桜だってバカな事ばっかり言ってよく美琴に叱られてるよね」
黄の聖女こと渋谷南と言い合うのは青の聖女(清涼)の鳴神桜。転移時喜び組のもう1人である。肩下まである綺麗な黒髪で少しタレ目で愛嬌のある可愛い顔。性格は南とよく似ていて活発だが実はインナーでゲーマーだ。
「うーん、それじゃあ私達3人がバンデル王国に行くことにしようか?南と桜はいつも一緒に居るからその方がいいでしょ?」
「「そうだね」」
美琴の意見に息ピッタリで返事をした南と桜は「なにが食べたい?」「海で泳げるかな?」などと楽しそうに会話を始めた。そしてタイミングを見計らって話に割り込むフリンデは笑顔で美琴達にお礼を言った。
「橙、黄、青と3人の聖女様に我が国に来て頂けるとマグルート様もさぞお喜びになる事でしょう。本当にありがとうございます。
それではこれから私はダジール女王陛下の元に行きバンデル王国救済の話を進めますので、出来れば一緒に来て頂き聖女様にもお言葉添えを頂ければ助かります」
「えっと、今からですか?出来れば春香、赤の聖女と話をしてからにしたいのですが?」
フリンデの申し出に少し躊躇する美琴と「さあ行きましょう」と腰を上げるフリンデ。
「赤の聖女様とはダジール女王陛下との話し合いが終わってからでも問題ありません。この間にも我が国の民が1人また1人と亡くなっていくのです。どうかお願いします」
フリンデが言葉巧みにお願いするごとに美琴達の気持ちが変わっていく。フリンデが持つスキル『話術レベル5』の威力は侮れない。
そして美琴、南、桜の3人は今からフリンデと一緒にダジール女王陛下に会いに行くことに頷きその準備を始めた。
「聖女様、ご無理を聞いて頂きありがとうございます。ではステラに急いでダジール女王陛下と謁見出来るよう取り次ぎに向かわせます」
そう言ってフリンデは目でステラに合図すると後ろに控えていたステラが頷きドアに向かって歩いて行き部屋のドアを開けた。そして部屋を出ようとしたステラだが、何故か後退りして部屋の中に戻ってきた。
そのステラの様子を不思議に思ったフリンデと美琴達はその開いたままのドアを見る。そしてドアから入ってくる春香とその後ろに隠れるように付いてくる忍に気が付いた。
「ようこそ私の部屋へ。ステラさんと見知らぬお方。私の居ない間に来て挨拶もせずに出ていこうとするのは頂けないですね」
何事もなかったのように静かに話す春香に不気味さを感じたフリンデは、落ち着きを取り戻し自分のペースに持ち込もうと上げた腰を下ろしソファーに座り、冷めた紅茶を一口飲んだ。
そして春香に向けて笑顔を作り話し掛け、話術スキルの影響下に置こうと試みる。
「これは失礼しま‥‥‥‥」
「誰が話していいと言ったの?」
フリンデの話を静かに遮る春香。その目はとても冷ややかだ。そして春香は後ろに居る忍の方を向き、2人にしか聞こえない声で忍に指示を出す。
『忍、あの2人を鑑定して私に教えて』
『判った』
その忍は春香の陰から顔を少しだけ覗かしてフリンデとステラを見て言った。
『鑑定 ぶぶっ!』
そして吹き出す忍に不思議な顔をする春香。
『どうしたの?大丈夫?』
『問題ない。ちょっと異世界のシークレットコントを見せてもらっただけ。それであの男はバンデル王国の子爵。スキルに話術レベル5がある。もう1つあるけど今は関係ないから後で教える。それとステラもバンデル王国の人。教会の神官助手に違いはない。でも多分‥‥‥これも今は関係ないから後で教える』
いつも物静かで表情が変わらない忍が含み笑いをしながら話す姿に春香は不思議に思いながらもその情報を元に現状を分析する。
(バンデル王国。どんな国なのかしら。それでこの国の貴族も知らない聖女の事を知っていると言うことは、聖女召喚に関わっているか、この国に敵対していて内部情報を探っていたかのどちらか?それとも両方とも?まあともかくそれは後で聞けば済むこと。今はあの男のスキルを封じることが先ね)
そして春香は忍にお礼を言って前を向き、不思議そうに見る美琴に向かって指示を出す。
「美琴、橙の聖女『癒し』の特殊能力をそこの2人以外に使いなさい。今すぐに」
「わ、判ったわ」
美琴は春香の有無を言わせぬ指示に戸惑いながらも橙の聖女の力を使った。
「彼女らに癒しを」
すると美琴から橙色の淡い光が現れ、美琴を含め春香達7人にその光が飛び散り舞い降りる。そして春香と忍以外の5人は夢から覚めたような表情をした。
「えっと‥‥どうして私達は春香に相談することなく勝手にバンデル王国に行こうと思ったのかしら?」
「「全然気にならなかった」」
そう話す美琴達はフリンデのスキル『話術レベル5』の効果が切れたようだ。自然に自分の考えだと思わせる話術のスキル。これはとても危険なものだと春香は感じていた。
「美琴、詳しいことは後で聞かせてもらうわ。もちろん桜達もね。それで今は私のすることを黙って見ていて」
そう言った春香はゆっくりと視線をステラに向け、そしてフリンデに視線を移して少し間を空けて微笑み話し出した。
「初めましてバンデル王国フリンデ子爵。私は赤の聖女、朝比奈春香」
「あ、ああ私がフ‥‥‥」
「まだ話せとは言ってないわよ?」
その春香の一言に開けた口を閉じることなく身を固めたフリンデ。たかが小娘と侮って部屋に乗り込んだ男は春香がこの部屋に戻って来てから一度も主導権を握ることが出来ずに翻弄されているばかりだ。
「フリンデ子爵。私が嫌いなものを知っていますか?」
そしてそのフリンデに出来ない子供に話すように語り掛ける春香。
「それは部屋主が居ないのに勝手に上がり込むような常識知らずな人。それと変な
そう言って春香は「誰だか判る?」と小さく冷たい声で
「ファントムドラゴン」
それは狂暴な顔をした爆炎に包まれた飛炎龍。異世界で見られる竜ではなく日本古来の龍の姿であった。そのファントムドラゴンは部屋に合わせた小型サイズで双龍だ。
「ド、ドラゴン‥‥‥」
フリンデとステラはその狂暴な姿に驚き怯え、ファントムドラゴンが纏う爆炎で汗が吹き出し止まらない。それは本当に爆炎の熱さによる汗なのか春香の冷たい眼差しに怯え出た冷や汗なのかは判らない。
『春香、部屋が燃えちゃう。でも熱くないのが不思議』
春香の後ろで冷静な顔をして驚いている忍が小さな声で言った。そして春香が答える。
『これは幻の龍。私達は美琴が掛けた癒しの効果で状態異常無効になってるから幻の爆炎は効かないの。そう、私達にはね』
忍に答えた春香は再び視線をフリンデに向けて言った。
「さあ、そこの愚か者。もう話してもいいわよ。あなたの企み全てをね」
春香はそう言って美琴達が驚いて忍の側に行って空いたソファーに座り、対面に怯えて座る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます