第20話 バンデル王国潜入

 バンデル王国はラバニエル王国の北に隣接しており海に面している国だ。ラバニエル王国が唯一国内供給出来ない海産物が主産業となっている。三代前から良好な関係を持ち、先代王の時にダジール女王陛下の兄マジルートとバンデル王国第三王女との結婚で、その絆はより深いものとなっていた。


 カリーナは隠密部隊を率いてバンデル王国に向けて夜の空を飛んでいる。その隊員は全員で6名。そのうち2名を奏の監視兼護衛として置いてきた。その奏には内緒にしている。


「隊長!いつ乗ってもこの飛竜は最高ですね!この風を切り裂く感覚がたまりません!」


 カリーナに並飛して楽しそうに話す細身の男はダンディー。暗殺を得意とする20歳独身。


「ダンディー、お前この向かい風の中でよく平気な顔していられるな。俺は風が冷たくて凍えそうだ。早く降りて暖かいもでもの飲みに行こうぜ!」


 ダンディーが乗る飛竜を風避けにしてその後ろを飛んでいる男はクール。罠や鍵の解除、設置などあらゆる道具を使いこなす27歳独身。


「クール、お前が飲みたいのは腹の中がカァッと熱くなる飲みもんだろ?」


 その2人の横で突っ込みを入れる男はボッケ。ただの突っ込み要員だ。そして16歳のチェリーボーイ。


 因みに名前は偽名だ。各々が自分で好きな名前を付けている。


「お前達うるさいぞ!隊長は今、静かに考え事をしてるんだ。集中出来ないだろ!」


 そして3人を叱る怒鳴り声が一番うるさいのが濃い青色のボブカット女でエリザベスことエリー。なんでも出来るエキスパートで白馬の王子様に拐われて王女になることを夢見る16歳王子様募集中。


 そして先頭を静かに飛ぶカリーナ。偽名はリーナ。面白味の無い女である。


(私は寒いのが辛くて固まっていただけなんだけど‥‥‥‥まあいいか。それと毎度騒がしい隊員達なんだよね。仕事は出来るからいいんだけど、それ以外は全然ダメなのよね)


 カリーナ達隠密部隊は数少ない飛竜を扱うドラゴンライダーでもあり、今回聖女関係で国を空ける時間を少なくする為に飛竜で行動する事にした。その飛竜を使えば夜中にバンデル王国に着く。うまく情報収集出来れば翌日夜には飛んでラバニエル王国に戻れるだろう。


「お前達、そろそろバンデル王国に着く。5km離れた場所に降りてそこからは走っていくので各自準備しろ」


 カリーナの言葉に隊員達の目付きが変わる。各自素早く持ち物を再確認し、到着後の状況に合わせた数種の行動パターンを認識し合う。

 そして目的地に着き飛竜から降りると目印となるものをクールが素早く設置し、皆はバンデル王国王都に向けて走り始め、飛竜は空高く飛んで行く。その飛竜は人里離れた場所で待機し、隊員からの特殊な角笛で呼び出す事が出来るよう訓練されている。


 そして僅かな時間で王都の城壁にたどり着いた隠密部隊。全力疾走したにも関わらず、誰一人息を乱す者は居ない。

 その隠密部隊はベルトのバックルから小型の鉤爪を外し、腰のポシェットから細い特殊ロープを取り出して結び付ける。これは奏が持っていた物を参考にして作ったものだ。

 そしてクールがコの字型をした鉄棒を特殊な道具で飛ばして城壁に打ち付ける。そのクールが鉄棒に鉤爪を引っ掛け登り、次の場所へと鉄棒を打ち付け上へ上へと登っていく。

 そのクールが城壁の上まで登りきり周囲を確認後、下に合図を出すと他の隊員が登っていった。そして最後尾のエリーが器用に使い終わった鉄棒を外しながら上まで登っていく。鉄棒が開けた穴を補修材で塞ぎながら。


 そして一番に登り周りを確認したクールがリーナに報告する。


「隊長、我々の行動範囲内に居る警備兵は城壁の上に2名他は無し。ここはその中間辺りで気付かれずに降りて街に入れそうです。南側から向かえば街の灯りは僅かで巡回の兵も数が少なそうです」


「判った。皆、長手のロープと鉤爪で一気に下まで降りる。その後は南側からマジルート様の屋敷に向かう。プランはBだ。ダンディーとボッケは城近辺で情報収集。問題無いな?」


「「大丈夫です」」


「よし、降下だ」


 そして降下したリーナ、クール、エリーはマジルート邸へと向かい、ダンディーとボッケは一般人を装う為に服を着替えて闇の中に消えていった。


 それからリーナ達は巡回兵に見つかる事無くマジルート邸に到着し、今はすぐ近くの建物の影に隠れている。


「隊長、外の警備は冒険者を雇っているようです。それも酒を飲んでるみたいです。この貴族区域は壁で覆われて門番も居るので形だけの護衛なんでしょう。私達はあっさり侵入しましたけどね。でも人数だけは居るので中に入るには最低1人は眠ってもらう必要があります」


 そのエリーの言葉にリーナは頷き、エリーとクールに待機のサインを出して気配を消した。そして警備する冒険者の後ろから音も気配もなく近付き他の人には聞こえない小さな声で言った。


「紫電」「バチッ」


 そしてリーナの冒険者に向けた右手から紫の雷棘がほとばしり、その冒険者はなにも気が付くことなく地に伏せた。それを見たエリーとクールは素早く駆け寄り、その冒険者を壁に寄からせ寝ているように見せかけた。


「さすが紫の聖女の末裔ですね。これなら本人も何が起きたか判らないし、見付けた者も打痕も無いから酔っぱらって寝たと思うでしょう」


「よし、急ぐぞ」


 そしてリーナ達は屋敷の壁を越え鍵爪を使って屋根まで登り屋根裏からマジルートの部屋まで行って様子をみた。そのマジルートはよく眠っている。それを確認したリーナ達は予め決めていた担当の部屋から情報を集める作業を開始した。

 それから10分後、情報を集めた3人は屋敷から撤退して城壁付近まで戻った。そしてダンディーとボッケは朝方まで戻らない。なのでそれまでは物陰に隠れて待つことになっている。


 リーナは物陰に隠れると思案顔になった。情報に関しては2人が戻ってこの城壁を越えて安全な場所まで行ってからとしているが、自分が集めた情報だけでも大体の予想はつく。

 それはある程度予想されていた事だが、それでもまさかそこまでとは思わなかったリーナであった。

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