第14話 サーシャさんの病気(2)
白い光に包まれたサーシャさんの表情は戸惑いから徐々に驚きに変わっていく。そしてその白い光は僅かな時間で消えていく筈だが今回は少し長めだった。
「えっ?これはどういう事なの?奏ちゃんがなにかしたの?えっ?あれほど痛かった間接がどうして‥‥‥‥」
サーシャさんは驚きながらも私の手を借りてゆっくりと上半身を起こす。そしてその手で体のあらゆる関節部分を触り、痛みがなくなっている事を確認している。そしてどこにも痛みが無い事が判ると私を見た。
「毎日酷くなっていくこの関節の痛みは2度と消えることがないとずっと思ってた。痛くて痛くて泣きそうなのを毎日我慢してた。私が作ったご飯を美味しそうに食べるカルビーンの姿を見れなくなって悲しかった。カルビーンが優しく私を抱き締めてくれるのに、私は抱き返す事が出来なかった。それとそれと‥‥‥」
サーシャさんが病気になって2年以上。どれだけ辛かったか、このサーシャさんの言葉が教えてくれる。
「サーシャさん、私はあなたが元気に立っている姿が見たいの」
私はそう言ってベッドから少し離れ、1人で立ち上がってと目で訴える。その私の目を見たサーシャさんは戸惑いを見せていた。
「で、でも2年以上ベッドから降りてないの。体も衰えてるから……」
「大丈夫。私を信じて」
普通なら衰え弱った体で立つことは難しいだろう。でも病気を治す時に衰えた体も治るようにイメージしたから問題ない筈だ。さすがに痩せてしまった体型はどうにもならないけどね。
そして私の言葉を聞いたサーシャさんから戸惑いが消え、私を見て深く頷いた。布団をベッドの脇に避け、右足をゆっくりと動かしベッドから下ろすと同じように左足も下ろす。そして小さく深呼吸をするとベッドの床を両手で支えながら起き上がった。
「初めまして。私は麻生奏です」
私はベッドの前に立つサーシャさんに向かって軽めのカーテンシーを見せ挨拶した。
「ふふ、とても素敵なお嬢さんね。私はサーシャ。あなたが私を救ってくれたのね。心から感謝を。本当にありがとう‥‥‥‥」
そのサーシャさんは私に向かってゆっくり歩き、そして私を強く抱き締めた。
「ガシャンッ!」
そして開いたドアの前から食器が床に落ちる音がする。そこには食器を落とした事にも気が付いていない驚きの表情をするカルビーンお爺さんが立ちすくんでいた。
「サーシャ‥‥お前、治ったのか」
「カルビーン‥‥」
サーシャさんは私を抱き締めたままでカルビーンお爺さんを見つめている。私はそのサーシャさんに笑顔で話し掛けた。
「さあサーシャさん。元気になった姿をカルビーンお爺さんの目の前で見せてあげて。そして今度はサーシャさんがお爺さんを優しく抱きしめてあげるの。ギューっとね!」
私はサーシャさんから離れてその小さな背中を両手で軽く押した。そのサーシャさんは「ふふふ」と小さく笑うとカルビーンお爺さんの前まで歩いていく。
「カルビーン、私の病気が治ったの。もうどこも痛くないの。元気に立って歩けるの。そしてあなたを抱き締める事が出来るの‥‥」
そしてサーシャさんは両手を広げ、カルビーンお爺さんを包み込むように優しく抱き締めた。
「ああ、本当に治ったんだ‥‥もう歩くことは無理だと思っていた。痛みに耐えて笑顔を見せるお前が愛おしかった。ワシが代わりに病気になればといつも思っていた。それがどうだ。今はお前がワシを抱き締めてくれている。これほど嬉しいことはない」
そう言ってカルビーンお爺さんは大切な宝物を2度と離さないように、大きく優しくそして力強く抱き締めるのであった。
(はぁ、なんて素敵な夫婦なんだろう)
私は2人っきりにしてあげたいと思い、抱き合う2人に遠慮気味に声を掛けた。
「あのー、ちょっと街をブラついてくるね。夕方には戻りまーす」
なんとこの場に相応しくない色気のカケラも無い言葉なんだろう。私は2人の返事を待たず部屋の外へと走り出す。後ろから制止の声が聞こえるが無視だ!
それから私はカルビーンお爺さんの家を後にすると、城下町観光に繰り出す事にした。
「さあ、宿も見付けないといけないし、なによりお腹が空いたんだよね。なにかガツンとしたものが食べたいね、ガツンとしたものが!」
そんな私は来た道を引き返し、街一番の商店街へと向かうのであった。
ーーーSIDE サーシャーーー
私は2年ほど前から不治の病で体の間接全てに痛みが走り自由に動かすことが出来なくなった。それは日を追うごとに酷くなり1ヶ月後にはベッドから起き上がれなくなったの。
それからの生活はとても辛かった。それは愛するカルビーンになにもしてあげれない事。私は私の作ったご飯を美味しそうに食べるあなたの姿を見るのが好きだった。あなたと抱き合って笑い会うのが嬉しかった。でも今は痛みを堪えて笑顔を見せることしか出来なくなった。
もう2度と元には戻らないとずっと思っていたのに‥‥‥‥‥
「カルビーン、私の病気は治癒魔法では絶対に治らないわよね。もしかして奏ちゃんは聖女様なの?」
私とカルビーンは奏ちゃんが出ていった後、ベッドに2人で腰掛けて話をした。
「それは判らん。だが実は今王城では7人の聖女様が降臨したと噂が流れている」
「それじゃあ奏ちゃんは本物の聖女様‥‥」
「いや、それは無い。もし奏嬢ちゃんが伝説の7人の聖女の1人なら護衛も付けずに街に放り出すようなことはしないだろう。奏嬢ちゃんは田舎から1人で来たと言っていた。そしてしばらく王城でお世話になるとも。ワシが思うには特殊な治癒魔法が使えるとダジール女王陛下が城に招待したんじゃないかと。そして7人の聖女がそのすぐ後に降臨したから不要になったんじゃないかと思ってる」
「まあ、なんて身勝手な事を!でもあのダジール女王陛下がそんなことするかしら?」
「だからよく判らん。だが奏嬢ちゃんはお前だけではなくワシの病気も治してくれた。ワシらの聖女様は奏嬢ちゃんだ。それだけは判る」
「そうね。こうやってまた幸せな生活が送れるようになったのは奏ちゃんのおかげ。あの子は本当に素敵なお嬢さんね」
「ああ、だからもし奏嬢ちゃんに不利益な事をするようなヤツが現れたらワシが死んでも守り抜く。例えそれがダジール女王陛下であってもだ。それが恩義を受けたワシの使命じゃ」
「もちろん私もお手伝いします」
「まあ、そんな事は起こらない思うがな。それとな、あの奏嬢ちゃんは強いぞ。元王国騎士団団長のこのワシが気が付くこともなく脇腹を殴られたからな」
「まあ、それは本当なの?それでなんで奏ちゃんに殴られたの?詳しく説明してもらおうかしら?」
「あっ‥‥いや、その、たいした理由じゃ無いんだ。はははは」
「ふふふ」
またこうやって楽しく会話出来るようなるなんてとても嬉しいわ。今日は久し振りに料理が出来る。そして私の好きなカルビーンの美味しそうに食べる姿がまた見れる。
奏ちゃん、小さくて可愛い私の聖女様。本当にありがとう。美味しいご飯を作って待ってるから、喜ぶ姿を見せてちょうだいね。
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