第13話 サーシャさんの病気(1)

 7人の聖女が街でのパレードを行いその存在を公表するまで城下町で一人暮らしをする事になった私はカルビーンお爺さんとその城下町へとやって来た。そこで見付けた花売りをする孤児院の子供達。幼い子供に弱い私はその花を大人買いする事にした。


「お姉ちゃん、ほんとに全部買ってくれるの?たくさんあるけど大丈夫?」


「だいじーぶ?」


 私の前に来た6歳くらいの女の子と3歳くらいの男の子が2人で仲良く首を傾げて聞いてくる。(くはー、すんごい可愛いんですけどー)


「はいはい、全然問題ありませーん。なんならその籠ごと買っちゃうよ!」


「奏嬢ちゃん‥‥‥‥‥」


 そんな私を見て呆れて言葉が続かないカルビーンお爺さん。そして私の大丈夫宣言を聞いた2人はニパッと笑い喜んでいる。


「この籠も私達が作ってるの。難しいから少し上のお姉ちゃん達が作ってるんだけどね、私もこの間から作る練習をしてるんだよ!」


「ぼく、できなーい」


「そうか偉いね!ぼくももう少し大きくなったら作れるようになるよ。だからそれまでは花を売って頑張ろうね!」


 私はションボリした男の子の頭を撫でながら元気付けようとヨイショする。(あー、さっきまで酔っ払い爺さんの相手をしてたから、余計に癒されちゃうよ。メッチャなごむー)


 そして10分ほど子供達に癒されていた私の後ろには、30以上の編み籠に入った花達で溢れている。その子供達は今日の仕事が早く終わったと大喜びで孤児院に帰って行った。


「カルビーンお爺さん、台車ある?」


「お前というヤツは‥‥‥‥」


 カルビーンお爺さんは「後先考えずに買いおって」などとブツブツ言いながら私の後ろに回り込み、腰に下げていたA4サイズほどの布袋を取り外す。そしてその布袋に次から次へと放り込んでいくが、その布袋は膨れてはいない。

 その作業を物珍しそうに見ていた私にカルビーンお爺さんが不思議そうに聞いた。


「ん?奏嬢ちゃんはアイテム袋を見たことないのか?確かにこのアイテム袋は高価で数も少ないが、お偉いさんであれば小さなもの1つくらいは持ってるじゃろ?」


(おー、あれがアイテム袋か。是非とも欲しいけど幾らくらいするのかな?)


「ははは、田舎者なんで初めて見ました。それってどれくらいの容量で幾らくらいするの?金貨2枚で買える?」


 この籠付きの花の代金は全部で金貨3枚だったので手持ちは金貨2枚だ。


「アイテム袋を知らないなんてどんな田舎なんじゃ。それでこのアイテム袋じゃがワシが持っている小さいものでも金貨100枚はするぞ。中は2m角の小さな部屋くらいの広さだな。

 それにこのアイテム袋は希少な物でな。金があっても手に入り難いんじゃ」


「そうなんだ。でもそんな高価なものを腰にぶら下げて盗まれないの?」


「はは、アイテム袋は全て魔力で使用者登録をするから盗まれても手元に戻ってくる優れものなんじゃ。まあ、捕まえ脅して登録者を変更する厄介者も居るがな」


 私の後ろにあった花籠を全てアイテム袋に入れたカルビーンお爺さんは「さあ行くぞ」と私を促して歩き始めた。私はお礼を言って後ろを付いていく。見て珍しいものがあれば質問したり立ち寄って手に取って見たりしながら。

 そして歩くこと10分ほどで商店街から住宅地に景色が移り変わり、それから5分くらい歩くと目的地のカルビーンお爺さん宅に着いた。


「さあ着いたぞ。ここがワシの家じゃ、遠慮せずに入ってくれ。サーシャも可愛い小さな女の子の来客に喜んで歓迎するじゃろう」


 カルビーンお爺さんの家は洋風で水色の屋根。そして格子の入ったお洒落な窓があり、小さい庭だが綺麗な花と果物がなっている大きな木が1本植えてあった。


「お邪魔します」


 私は奥の部屋に居るであろうサーシャさんにも聞こえるように大きな声で挨拶をした。中に入ると広めの玄関があり、左には靴箱があってそこの上にも鉢植えの花が置いてある。右には木製の腰掛けがあり下には粗めのマットが敷いてあった。腰掛けの横にはブラシがあり、ここに座って靴の汚れを落とすのだろう。


 私はそこに座り靴の汚れを落として前に見える廊下を進む。奥の右側にあるドアが開いているのでそこにサーシャさんが居る筈だ。ドアの近くに来ると話声が聞こえてくる。


「こんにちは、サーシャさん」


 部屋の中を覗くと6畳くらいの広さで、ベッドに寝ている女性とそのベッドの前で丸椅子に座って楽しそうに話をしているカルビーンお爺さんが居た。そして私に気が付いたサーシャさんが優しい目をして話し掛けてきた。


「まあまあ、なんて可愛いお客さんなんでしょう。おもてなししたいけど体がいうこと聞かなくて動けないの。ごんなさいね。ほら、お爺さん。座ってないでさっさとお菓子とお茶を準備して下さいな」


 カルビーンお爺さんは「はいはい」と言いながら部屋を出て行った。そして私はカルビーンお爺さんが座っていた丸椅子に座り、改めてサーシャさんを見た。

 ベッドの上で肩から上を出して寝ているその姿は元気な様子。長く伸ばした茶色の髪は白髪が少し混ざっているが年齢は60歳より若いだろう。小柄で優しい目をしたサーシャさんは可愛げのある少女のようだ。


「ふふ、私には息子が1人居るだけなの。だからあなたみたいな女の子が欲しかった。今日あなたに会えてとても嬉しいわ」


 そう言って笑うサーシャさんはとても痛みを堪えているように見えない。だから反対によほど辛いのだろうと思わせる。


「息子さんが居るんですね。もうある程度の年齢になってると思いますが結婚されてないんですか?それとも孫も男の子だとか?」


 サーシャさんの息子ならばたぶん30代くらいだろう。結婚して子供が居てもおかしくない。私はサーシャさんの返答を待った。


「それがね。まだ結婚してないの。もう36歳になるのに駄目な息子よねぇ。早く孫を見せてくれないと私死んじゃいそう」


 冗談ぽく話をするサーシャさんだが、その遠くを見つめている姿が痛々しい。


「でもね、私が居なくなるとカルビーンが悲しむから私は頑張るの。ほんとは体の間接全てが悲鳴をあげて苦しいんだけどね。ふふ、この話はカルビーンには内緒にしてね」


「サーシャさん‥‥‥」


(ずっと痛みがあるんだよね?なんでそんなに笑顔で居られるの?凄いよサーシャさん。あとね、カルビーンお爺さんは知らないふりをしてるだけで、ずっと前から知ってるよ。2人は似た者同士だね。私泣きそうだよ‥‥‥)


「私があなたを死なせない」


 私はそう言って椅子から立ち上がり、布団から少し出ているサーシャさんの小さな手を両手で優しく包み込み、あの言葉を口にする。


「サーシャさんの悪いところを全部治して」


 すると寝ているサーシャさんが布団ごと白い光に包まれる。それはとても暖かな光だった。

 私が治癒魔法を使える事を知らないサーシャさんは、なにが起きたのか判らない表情をしている。そしてそれは徐々に驚きの表情に変わっていった。

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