第12話 城下町を歩く奏
ラバニエル王国に転移して3日目の朝。美味しい朝食を食べながらカリーナさんと今後の話をする私はニコニコだ。
「奏様、本当に宿を手配しなくても宜しいのですか?それにお金も服などの日用品も不要だなんて‥‥‥‥」
私は王国から出されモノを全て断った。だってそんなことされたら面白くないよね。自分で稼いで必要なものは自分で揃える。その過程を楽しまなくてどうするの!
「はは、大丈夫だよ。私の解毒剤を買ってもらったお金があるからね。それとせっかく異世界の城下町に行けるんだもん。出来るだけ1人で頑張って生活してみたいの。なにかあればカルビーンお爺さんに相談するから」
昨日、私の解毒剤をチョロまかしたカリーナさんだったが、ダジール女王陛下に叱られたみたいで買取りすると金貨5枚を手渡してきた。(1粒金貨1枚、日本円で1万円の価値だ)
「はぁ、普通の女の子はそんなこと言いませんよ。私とその隠密部隊はバンデル王国に居るマジルート様が不穏な動きをしていないか偵察に行く事になったので側に居ることが出来ません。本当に大丈夫ですか?」
まるで私の母親のように心配するカリーナさん。母親の愛情を知らずに育った私には、少し照れ臭くもあり嬉しいものでもあった。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。私は『スーパーサバイバルガール』だから」
「なんですかそれ?」
私とカリーナさんはお互いに見つめ合い、そして吹き出すように笑い合った。
「ふふ、私の背後を取る奏様ですから怪我などは心配していません。ただ奏様の奇抜な行動が心配で‥‥‥決して聖女とバレないようにしてください。それと出来れば女の子らしくしてくださいね。食事の仕方が少し男前過ぎます」
(ガーン‥‥‥そ、そんなに男前なの?)
落ち込む私を見て笑うカリーナさん。今日もピンク色の髪を結い、右肩の前に垂らしている姿は可愛らしい。それからお金の価値や街の簡単な情報、そしてやってはならない常識を教えてもらい楽しい朝食を済ませた。そして今は庭でカルビーンお爺さんと談笑中だ。
「そ、それは本当か!本当に奏嬢ちゃんは今日ワシと一緒に街に行ってサーシャの病気を治してくれるのか!」
今日の昼から城下町に繰り出して一人暮らしする事とカルビーンお爺さんの仕事が終わって一緒に家に行くと伝えると、阿鼻叫喚する酒飲み爺さんは私の肩を持って激しく揺らす。
「じじい、揺らしすぎだよ」
私は少しムカッとしてカルビーンお爺さんの脇腹にグーパンをお見舞いした。
「ぐはっ!す、すまん。しかしなんてーえげつない殴り方するんじゃ。ワシの大事な
(お前、死んでしまうが口癖なのか?)
「それなら肝臓を労る為に酒を少し控えないといけないね?」
私はじと目でそう話すと睨む酒飲みジジイ。
「バカ言え!酒を控えたらワシはそのストレスで死んでしまうじゃろうが!」
(このジジイ、もう面倒臭ーい!)
「はぁ、カルビーンお爺さん。ともかく私はいつでも大丈夫だから仕事が終わったら部屋に声を掛けてね」
私は面倒臭いジジイに今度はパーチョップをオデコにお見舞いし、「あばよ!」と言って部屋に掛け上がって行く。そのジジイは「なにするんじゃ!」と怒鳴っていたがその顔は笑顔であった。
ーーーそして時間はお昼前ーーー
ソファーに寝転がりのんびりしている私に外から呼び掛ける声が聞こえてきた。(あー、もうすぐ昼御飯の時間だよ。どうする?カルビーンお爺さん、たぶん待ちきれなかったんだろうね。仕方ないか)
私はカバンからメモ帳とボールペンを取り出してカリーナさんに置き手紙を書いた。
「それじゃあ行って来ます!」
(簡単すぎるけどこれでいいかな?)
そして私はカバンの紐を両肩に掛けて背中に背負い、窓から身を乗り出して飛び降りた。(窓から失礼しまーす。こっちの方が早いから仕方がないのだ!)
「お前、なんで窓から出るんだ?」
そんな私に呆れた顔で話すカルビーンお爺さんを引き連れて、憧れの城下町へと続く扉へスキップで向かう。
「おい、扉は反対側じゃ。何処に行く?」
「……………」
そして私はカルビーンお爺さんに連れられて、憧れの城下町へと旅立つのであった。
「おお、ここが憧れの城下町。いろんなお店や人が居て楽しそうだね!」
喜びに満ち溢れる私の目の前には幅5mほどの石畳で舗装された道路がある。そしてその両脇には様々なお店が建ち並んでいた。
新鮮で美味しそうな野菜、ブツ切りにされた肉、鍋や小物などの雑貨、山積みにされた中古の服、そこに群がる買い物客は私と同じような人種以外にも、頭の上に耳があり尻尾をユラユラとさせている獣人族も多く居る。
カリーナさんの話では、人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族の順で人数が多く。その他にも僅かだけど希少種と呼ばれる種族も居るらしい。そして獣人族は人族に耳と尻尾があるタイプが大半だが、獣に近い姿の人も居る。そしてその中間もだ。
「どうだ?賑やかな街だろ?ここはなんでも売っている城下町で一番の商店街だ」
「ほんとに凄いね‥‥‥」
私はその光景に目と心を奪われていて、カルビーンお爺さんの言葉に簡単な感想しか返答出来なかった。そしてその中で見付けたチョロチョロと動くモノに私はピントを合わせた。
「ね、ねぇ、あれって花を売ってるの?ちっちゃい子供達がたくさん居るの」
私がピントを合わした先には、花を入れた編み籠を手に持って動き回る子供達が10人ほど居た。年齢は5歳前後だろうか。
「ああ、あれは孤児院の子供達だな。西の森から出てくる狂暴種の魔物に襲われたり、不治の病で親を失った子供達が比較的安全なこの王都に集まったんじゃ。もちろん国からの援助もあるが追い付いていない。だから子供達が自主的に教会に花を植え、その花を売って孤児院の運営費にと渡しているんだ。
だから子供達は貧しいながらも飢える事もないし服も中古だが普通の物を着ている。立派な子供達だよ。ワシも偶に花を買ってるぞ」
(なんて健気な子供達だろう。涙が溢れて止まらんぜよ!)
私は子供達が動き回っている中心部分に歩いていき、大きく息を吸ってから叫んだ。
「さあ、そこの花売りの子供達よ。私の元に集合しなさい!その花を私が全て買うわ!」
私は小さな子供達が大好きだ。潤んだ瞳で「お願いお姉ちゃん!」なんて言われたら断る事なんて出来ない性格なんだ!
そして私の呼び掛けに集まってくる子供達。それは建物の裏からや人影からも現れて、あっという間に30人ほどの子供達が私を取り囲んでいた。
(えっと‥‥‥私が見たのは10人ほどだったよね。ちょっと驚きビックリな私です)
そんな私を見つめる60のウルウルした瞳。(ぐはっ!クリティカルヒット!!)
私は大きな声で叫ぶ。
「カルビーンお爺さん!」
「なんじゃ?」
そしてやって来たカルビーンお爺さんの耳元で小さな声で話した。
「ちょっとお金を借りるかも知れないよ‥‥」
私の城下町生活の第一歩はここから始まったのであった。(やっちまったよ‥‥)
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