終末、そしてまた来週
もちころ
第1話
待ちに待ったしゅうまつ。
大好きな彼女の笑里と、僕が日頃の疲れを忘れて楽しめる日。
でも、僕はしゅうまつが嫌いだ。
だって、その日は何もかもが終わってしまうから。
笑里が僕の目の前からいなくなってしまうのは、いつだって寂しい。
今週は、僕の家で笑里と一緒にホラー映画を見た。
チープでストーリー設定もガバガバ、俳優や女優の演技も大根。
俗にいう「B級映画」という奴だけど、僕と笑里がお互いに突っ込み合いながら話せるのでデートの時によく重宝している。
笑里は、名前の通り笑顔がかわいらしい少女だ。
明るくて、素直で、クラスの人気者。
僕と同じく、B級ホラー映画が好きで、2年ほど付き合っている。
暗い僕にはもったいないくらい素敵な彼女だ。
「今日の映画面白かったね。」
映画を見終わった後に、笑里が言った。
「そうかな。俳優や女優の演技とか、すごい大根だったよ?ストーリーも結構矛盾だらけだし。そんなに面白かったかな?」
「世界が滅ぶ時にモブがあたふたしているところは、結構できてたと思うよ。」
笑里は、独特な部分を好むなと思った。
(そういうところも、僕の好みだけど。)
「ねぇ、もし今日世界が滅ぶってなったら、どうする?」
笑里がいきなり僕に問いかけてきた。
「えっ…急だな。どうしたの?」
「いいから答えて。」
「うーん…、そうだなぁ。仮に世界が滅ぶってなったら、笑里を抱きしめながらこの家で映画を見て、二人で死にたいな。」
「何それ、ロマンチック。」
「人を殺したり、強奪して終わるよりはマシだろ?僕は笑里と一緒に過ごして、そのまま滅びたい。」
「くくっ、変なの。」
笑里が八重歯を出して、朗らかに笑う。
僕はその顔を見て、にこりと笑う。
そうして、お気に入りのホラー映画を3本連続二人で鑑賞した。
あっという間に時間が過ぎて、時刻は17時。
「そろそろ帰る時間だね。」と笑里が言い始めたときに、スマホから緊急警報アラートが鳴り響いた。
驚く笑里をよそに、僕は落ち着いてニュース画面に切り替える。
『本日、太陽系の崩壊により地球全土への隕石落下が発表されました。皆さん屋外には出ずに、屋内で待機してください。繰り返します、本日…』
ザザザっとノイズ交じりの音声と映像から、断片的に聞こえる情報。
今日は、ずいぶん早いな。
笑里との時間が終わってしまうのは、本当に惜しい。
「嘘…。」
さっきまで笑顔だった笑里は、呆然としていた。
僕は笑里が怖がらないように、彼女の柔らかい体を抱きしめる。
遠くで鳴り響く轟音。
騒然とする、近所。
吠える犬。
赤ん坊の泣き声。
ゴゴゴゴゴゴと何かが近づく音が聞こえる。
笑里の震える体を抱きしめて、僕は小さく呟いた。
「笑里、また来週会おう。」
轟音が押し寄せ、身体が熱く感じた。
その瞬間、僕の意識は吹っ飛んだ。
――――――僕らが住むこの世界は、6日めで滅亡する仕組みになっているらしい。
神様は嫌気が指したのだろうか、決まって土曜日に地球を壊す。
そうしてなぜか分からないけど、平日にかけて地球の46億年分の歴史が再構築され、僕たちの日常も戻ってくる。
この世界に生きる人たちは、自分たちが1週間前に生み出された存在であることを知らない。
僕だけ除いて。
なぜ僕だけが、終末の真実を知っているのかは知らない。
少なくとも、笑里と付き合い始めたとき…2年前からこの体験を行うようになった。
最初は絶望した。本気で死を願った。
笑里との初デートの時に急に世界が滅ぶとニュースで報道された。
そのとたん、パニックが起こり、笑里は逃げ惑う人々に頭を踏まれて死んでしまった。
その次の週、水族館に行ったときも同じだった。
イルカショーを見ていた時に、運悪く隕石の破片が飛来し、笑里の華奢な体が潰れてしまった。
大好きな笑里の血液を浴びた僕は、ただ茫然とそこに立ち尽くすしかなかった。
その次の次の週は、慌ててどこかに逃げる車に轢かれた。
その次の次の次の週は、目の前に隕石が落下し、その熱風に焼かれてあっという間に黒焦げになった(僕も含めて)。
何度も、何度も終末を繰り返した。
笑里が僕の目の前で死ぬのは嫌だった。
ホラー映画で殺人鬼やモンスターに殺されてしまう哀れなヒロインのように、彼女が理不尽に死んでしまう姿を見るのは耐えられなかった。
大好きな笑里を守りたい。
だから、僕は暴動や隕石の破片に巻き込まれにくい、自宅デートを選んだ。
笑里の好きなホラー映画のDVDを何十本も買いあさり、彼女が満足できるようにしておく。
映画を見ている時だけ、僕らは生きているって感じがするからだ。
そして、終末の時がきたら僕は彼女を抱きしめて、死ぬ。
ここ半年は、その繰り返しだ。
僕は…終末が嫌いだ。
笑里が僕の前からいなくなってしまうから。
でも、この方法であればその不安は少しだけ和らぐ。
…すべてが消滅した宇宙空間を漂いながら、僕は静かに目を閉じる。
少し眠っていれば、また世界は再構築される。
そうして元の日常に戻る。
笑里。
次の終末に、またホラー映画でも見よう。
次は、終末ものじゃないやつがいいな。
たまには、滑稽で笑えるホラー映画もいいんじゃないかな。
じゃあまた、来週。
終末、そしてまた来週 もちころ @lunaluna1
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