第2話 今日の魔王は会議です

 ー剣と魔法の世界【アストラル】。

 現在この世界は700年ほど前から魔王となったユークリッド。

 正式な名前はユークリッド・アスラ・ウォーロック…やはりピカソの本名並みに長いので皆様がもし覚える場合はここまで良いと思われる。

 というか本人ですら自分の名前を覚えきれているか怪しいものである。

 「失敬だな作者。」

 では自分の名前を全部言えるとでも?

 「…じゃ、次行ってみよ~。」

 無事魔王がエスケープ決めた所でこの世界の説明を再開しよう。

 ユークリッドが魔王になってから700年ほど人類との大きな戦いは起こってはいなかった。

 無論人類側も魔王と対をなす者、つまりは勇者を送り込んできているがそれも半ば形骸化している。

 その大きな要因として魔王であるユークリッドが人類側に対しての侵攻を全くといっていいほどしなかったからだ。

 無論初期の頃は多くの勇者が魔王の前に立ったが時に激しく時にあしらうように勇者たちをなぎ倒しているうちに殆ど来なくなった。

 そんなこんなでいつの間にか魔王配下の魔物たちも人間を襲う事は少なくなり。

 多くの時が平和に過ごされていた。

 中には親魔物国家、もしくは中立国家も出来ておりその国との取引によって魔王領の経済の一端を担っているのだ。

 ところで何故人間たちとの戦いをしないのでしょうか?

 「ん?めんどくさいから。」

 …さて、そんなこんなでこの世界は長い間平和に過ごしていた。

 「え~リアクション無し~?」

 …過ごしていたのであった(怒)。


 さて今日も平和な魔王城の廊下。

 魔王の私室から玉座へとユークリッドは移動するためサーシャを連れて歩いていた。

 「ったく、玉座ぐらいワープして行けば良いのに。」

 「城内ぐらい歩いてください。本当にオークよりオークらしい体になりますよ。」

 サーシャの小言をヘイヘイといつものように軽く受け流し襟元を軽く緩めるユークリッド。

 その服装は以前着ていたTシャツではなく魔王らしい黒を基調とした服装であった。

 「大体さ~。いつものメンバーでする定例会議なんだからこの服着なくてもよくね?もうジャージでいいだろジャージで。」

 「ジャージで会議って、もはや威厳ゼロどころかマイナスもいい所でしょうが!仮にも王でしょうが!仮にも!」

 ひとしきりツッコミを終えた所でサーシャはコホンと咳払いをする。

 「いいですかユークリッド様。貴方様が行き来している異世界にはこの様な格言があるようです。『親しき中にも礼儀あり』と。」

 ユークリッドが異世界に行き来するのでサーシャも自然と異世界に詳しくなっていた。

 たまに護衛という名目でサーシャ自身も行く事もある。

 まあその大半が彼女の好物である甘いものを餌にユークリッドが釣ったのが殆どであるが。

 サーシャの特性その2【甘いものに目がない】

 「例えどの様に親しい中でも礼儀は尽くさなければならないという意味らしいですが…いい格言です。ユークリッド様も王であらせられるのであれば臣下であれど礼儀を忘れず…。」

 「お!エイレンじゃん。お~い!」

 「聞けよ!人の話!!」

 サーシャの説教じみた話を左に受け流し前を歩いていた人物に声をかける。

 声を掛けられた人物はゆっくりとしたペースで後ろを振り向く。

 「あら、ユークリッド。貴方も今から向かう所?」

 その人物はハーフアップ、いわゆるお嬢様結びにしたセミロングの白髪をなびかせ微笑んだ。

 露出高めの魔術服を着ておりモデルのような体型と病的なまでの白い肌がよくわかる。

 誰もが振り向くであろうその人物は目の下に濃い隈が現れていた。

 「相変わらず凄い隈だが…何日休憩してない?」

 「そうね、十日目までは覚えてるのだけど。」

 エイレンと呼ばれた女性はゆったりとんでもない事を言うがユークリッドは対して気にしていなさそうだ。

 二人で仲良くそのまま談笑になりそうな雰囲気であったが。

 ガチン!と大きな衝撃がユークリッドの頭を襲う。

 「イッ!?」

 突如して起こった衝撃に頭を抱えるユークリッドが後ろを見てみると肩で息をしているサーシャが何かを投擲した模様である。

 横を見てみれば鞘に入った彼女の剣が転がっている。

 「おま、仮にも仕えている主に対して武器を投げつけるなよ。」

 そう言いながら剣をサーシャに返す。

 ちなみだがこの剣、魔王領でも高名なドワーフが希少な魔界銀で作ったもので詰まるとこ片手剣だが硬くて重い。

 それを乱暴に受け取りながらサーシャはユークリッドをジトッと見つめる。

 「主として見て貰いたいのならそれ相応の振舞いをしてくださいませ魔王様。」

 (あ、やば結構マジで怒ってる。)

 長い間王と側近として過ごしているので彼女の怒りの度合いがかなり高い事を察し内心ため息をつくユークリッド。

 二人の間に嫌な空気が流れるがそこにエイレンがユークリッドに耳打ちしてくる。

 「あんまり気にしちゃだめよ。サーシャちゃんはヤキモチやいて」

 彼女の耳打ちはそこで終わった、いや終わらされた。

 サーシャが剣を抜き凄まじきスピードにてエイレンの首に突き付けたからである。

 「技術顧問、勝手な憶測で人の事を分かったように喋らないでもらいたい。」

 淡々とした口調でエイレンを戒めるサーシャの目は絶対零度もかくやの冷たさだった。

 そんな彼女の様子など気にしてない様に先ほどと同様にゆったりとしていた。

 「サーシャちゃん、そんな風にしたら私死んじゃうのだけど。」

 その言葉を思わず鼻で笑うサーシャ。

 「そのジョークは笑えなくもないですね。【不死の女王リッチ】のエイレン。」

 「褒めて貰えて嬉しいけどそろそろ剣を下してもらえないかしら。」

 「先に謝る方が先では?」

 その後しばらく沈黙が包む。

 「あの~。そろそろ時間なのですが。」

 ここで事の発端なのに空気にされていたユークリッドが情けなく声を掛ける。

 「…ハァ~。」

 そんなユークリッドの様子に毒気を抜かれたのかため息をつきながらサーシャが剣を鞘へとしまう。

 その様子を見てエイレンも首に展開していた魔法障壁を解除する。

 剣を突き付けてる様に見えていたがサーシャは本気で剣をエイレンの首に突き立てる気であった。

 だがそこは魔王軍の要職、正しく首の皮寸前で障壁を張られていたのである。

 「じゃあユークリッド、サーシャちゃん。先に行くわね。」

 まるで何事もなかったかのように先に会議室へと向かうエイレンであったがふと足を止め何事か唱える。

 それと同時にサーシャの眉がピクリと動く。

 その様子を微笑みながら見守ると今度こそエイレンは会議室へとその足を止めずに進む。

 「今の【念話テレパス】だろ。なんだまたちょっかい掛けられたか?胸が無駄にデカいとか。」

 「…別に何でもないです。」

 (ツッコミが…こない。)

 軽いボケのつもりだが軽く受け流され床に魔の字を書いていじけるユークリッドを視界にも入れずサーシャは先ほどエイレンにテレパスにて言われた言葉が頭の中で繰り返される。

 (いつかサーシャちゃん、素直になれるといいわね。)

 その言葉の返事をサーシャは誰にも聞こえない様に一人呟く。

 「…出来たら苦労しませんよエイレン。」

 取り敢えずは見て見ぬ振りをしていた自分の主をさっさと玉座に歩かせることにしようとサーシャは気持ちを切り替える。

 多少ごたごたしても今日も魔王城は平和です。

 

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魔王城は今日も平和です。 蒼色ノ狐 @aoirofox

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