魔王城は今日も平和です。
蒼色ノ狐
第1話 魔王城の日常
『ついに…ここまで来たな。』
持っている剣と盾を握る手に力を込め感慨深く勇者は呟く。
目の前には禍々しい大きな扉が、魔王が待ち構えている玉座へと続く扉がある。
勇者が周りを見渡すとそこには苦楽を共にした仲間たちが力強く頷いてくれている。
『よし!行くぞ!!』
勇者は力を込めて扉の持ち手を握る。
ふと走馬灯のように今までの記憶が蘇る。
魔王によって滅ぼされた自分の故郷。
自分を勇者と認め送り出してくれた王様。
様々な人々との出会いと別れ。
全ての出会いと想いを力に変えて勇者は扉を開け放つ。
『フフフ、よくぞここまで来たな勇者よ。』
扉を開けた先には予想通り魔王が玉座に座りこちらを見下ろしている。
『魔王!今日こそ決着を着けるぞ!!』
勇者は剣を魔王へ向け力強く宣戦布告する。
それに合わせて仲間たちが一斉に武器を構える。
『まあ待て勇者よ、落ち着いて我の話を聞け。』
それを制したのは他でもない魔王であった。
『勇者よ、お前は人間にしては強い。我が差し向けたモンスター四天王もお前によって滅ぼされる程にな。そこでどうだ我に仕えてみる気は無いか?』
名指しされた勇者だけでなく仲間たちも驚愕の顔をする。
『お前ほどの実力の者を殺すのは惜しい。勇者の下らぬ使命など忘れ我の下で働くといい。我が世界を征服した暁には世界の半分をお前にくれてやろう。』
『断る!!!』
『…ほう。』
気迫を込めて提案を拒絶する勇者を見つめる魔王の目は細く鋭くなった。
『魔王!お前がどんな甘言を繰り出そうと如何なる力を持っていようと俺は、俺たちは決してお前に屈したりはしない!』
仲間たちも勇者の言葉に続くように大きく頷く。
仲間との絆を勇者が感じていると魔王が立ち上がり大笑いをする。
『フハハハハハ!!やはり人間は愚かな生き物だな!自分が生き残れる僅かなチャンスをドブに捨てるとは!』
そう言いながら魔王は膨大な魔力を解放する。
あまりの魔力量に吹き飛ばされそうになる勇者たちだが踏ん張り魔王を睨みつける。
そんな勇者たちの様子を魔王は鼻で笑う。
『フン、生意気な顔は一流だな。やはり人間は我々モンスターが支配すべきだ。』
『そんな事はさせない!お前はここで俺たちが倒す!!』
『フン、顔だけでなく口も生意気のようだな。いいだろう!愚かなる勇者よ!実力の差が分からぬと言うならその体の一片すべてに我の恐怖を刻み込んでくれよう!』
もはや言葉は無用とばかりに魔王も剣を構える。
『行くぞ!!勇者よ!!』
『行くぞ!!魔王!!』
「行くぞ!!…じゃないでしょうが!!!」
大きな声と共に炸裂するドロップキックによってテレビが割れて画面が消える。
「あー-!!何すんだサーシャ!!このテレビ結構高かったんだぞ!!それにこのゲームもセーブもしてないから随分前からやり直しじゃんか!!」
「やかましいです!公務ほっぽり出して自室に籠って遊んでいるいる方が悪いでしょが!!それと異世界から物を持ってくるなって何回言えば分かるんですか!!ああもう!頼むから仕事してください魔王様!!」
「いいですか魔王様。いえ、ユークリッド・D・デモン様。貴方はこの魔界を治める王、魔族の頂点なのですよ。それが自堕落三昧でどうするのですか。」
「いや、魔族の王なんだから別に自堕落でもいいんじゃ…。」
(ジロッ!)
「イエ、ナンデモアリマセン。」
この二人主従関係が混乱しそうだが叱っているのが側近であるサーシャ。
種族はデュラハンでありアンデットとは思えないほど綺麗な金色の長髪と怜悧な顔立ちをした騎士の鎧を纏っている女性だ。
一方叱られているのは白のTシャツに黒字で『貴殿の血は何色ですかぁぁぁ!!』と何処かで聞いたことがあるような無いようなことが書かれた上に短パン。
長い間清潔にもしていないのであろう白髪はボサボサであり魔王ことユークリッドが頭を掻くたびに汚いものが出てきている。
大多数が見てもイケメンと表してもおかしくない顔立ちも不清潔さで駄目にしている。
そんな事を説明している間にもサーシャと呼ばれたデュラハンの説教は続いている。
「大体何ですか!このげーむとやらの内容は!勇者が魔王を倒すなんて内容貴方が一番否定しなくちゃいけない内容でしょうが!!」
「ム、そう簡単に言うがなサーシャ。このゲーム中々面白いんだぞ。魔王に復讐を誓った勇者が仲間と共に成長していく愛と勇気の…。」
「いやだから!その勇者を倒すべき魔王がすべき内容じゃないって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ハァハァと肩で息をするサーシャはひとまず頭の中を冷静にする。
(いけない、このままでは魔王様のいつものペースとなってしまう。ここは一つづつ諫めないと。)
「ま、まぁこの際げーむとやらの内容は後回しにしましょう。魔王様、【異世界への門】を勝手に使うのはお止めください。あれの重要性は貴方もご存じでしょう。」
【異世界への門】とは文字通りこの世界とは違う別の世界へとの道を創る門である。
本来緊急時、それこそ己が消滅しそうな時に逃げ出す時に使うような代物であるがこのバカ…ではなく魔王は何度も自分の娯楽の為に異世界を行き来している。
「なんか作者にバカって言われた気がするけど。」
「?気のせいでは。って言うか作者ってなんですか?」
魔王の特性その1【地の文にも反応ができる。】
「…まあいいや、門のことだけど別にいいじゃんか。別に誰に迷惑かけてるわけじゃないんだから。」
ユークリッドの全く反省していない様子に思わずイラッとするサーシャだが何とか怒りを抑え込む。
それにユークリッドの言う事も正しくはある。
本来【異世界への門】はとてつもない魔力を必要とするそれこそ何人もの魔王がやっと絞り出すほどである。
だが歴代の魔王の中でも魔力量が凄まじいユークリッドはいとも簡単に門を開くことが出来るのである。
「スゴイだろ。」
「いやだから誰に向けて言っているんですか?」
ユークリッドが無駄にこちらにサムズアップしているのにため息をつくサーシャ。
「分かりました、その件については取り敢えず保留とします。」
「いや、こちらとしたら終了してほしんだけど。」
「ですがそれが異世界から物を持ってきていいいと言う事にはなりません。」
ユークリッドの意見を完全に無視し説教を続けるサーシャ。
「と言うよりなんで技術体系が違う異世界の物を使えるのですか。どう見ても魔力で動いているように見えますが?」
確かに本来電気で動くであろうゲーム機もテレビも魔力によって動いていた。
するとユークリッドはあっけらかんと答える。
「ああ、うちの技術顧問に頼んだら魔力で動くようにしてもらえたよ。」
(…あの、技術バカかぁぁぁぁぁぁぁ!!)
思わず髪を掻きむしるサーシャ。
後に紹介することになるだろうがこの魔王城の技術顧問は技術力はとても高いが他の魔物との接触を避けるくせにこの干物魔王ことユークリッドにはとても甘いのである。
ユークリッドがお願いしたならば例え世界を滅ぼす兵器であろうと1日で完成させるだろう。
比較的近しいが全然言う事聞いてくれない技術顧問の顔を想い浮かべればより一層怒りが湧いてくる。
そんなサーシャの様子を気にせずユークリッドは壊れたテレビを見て自分で直せるか検討しながら反論する。
「それに仕事って言っても殆ど誰が何を壊したから金下さいっていう報告だけじゃん。魔物らしいと言えばらしいけどさ。」
「それは…そうですが。」
「だったら異世界の文化でも学んでそれを生かした方がまだマシじゃないか?」
「……。」
確かにユークリッドの言うことにも一理ある。
魔王の仕事といっても通常ほぼ中間管理職でも出来る内容である。
それなら様々な事を学んでもらう方がいいかも知れない。
(…内容は吟味しなくてはいけませんが。)
と納得しようとしていたサーシャだったが。
「まあ何より暇だからな。」
このバカ魔王によってサーシャの堪えていた全てが決壊した。
スゥと息を吸うサーシャは同時に首のチョーカーを外す。
すると手で首を持ち上げユークリッドの耳元にそえる。
ユークリッドが嫌な予感がして後づ去るが全ては遅かった。
「暇なら仕事しろ!!このダメ魔王ォォォォ!!!」
魔力で強化した大声で叫ぶサーシャの生首。
いつものように咄嗟に耳をふさぐユークリッドだがサーシャの怒りは止まらない。
「貴方が!!サボった仕事を!!一体誰が!!やっていると!!思っているんですか!!!」
そうユークリッドがサボった仕事はサーシャとその部下のアンデット部隊が文字通り飲まず食わずで仕事している。
いやアンデットなので飲食も睡眠も必要ないのだがそれでも疲れは溜まるものなのである。
そんな現状を知ってか知らずかユークリッドは面倒くさそうに答える。
「そんなに怒るな。まったくお胸でっかちなんだから。」
「怒るに決まっているでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!あと胸は関係無いでしょうがぁぁぁぁぁ!!」
サーシャの特性その1【胸がかなりデカい】
今日もサーシャの怒りの声が魔王城に鳴り響く。
そんな魔王城の様子をみて城の近くの魔物はこう思うのだ。
―ああ、今日も魔王城は平和である。と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます