自称リーダーはじめました
「はっはっは! 僕がリーダーだって、いやそれはないわー。それだけはないわー!」
仮拠点としていた九階層の広場から下層階段へ向かう道すがら、畳んだテント一式などを纏めて背負ったまま進む最中に突然振られた話題はなかなか衝撃的なものだった。
どうやらヴィルは僕の事をこのパーティのリーダーだと勘違いしていたのだそうだ。
いやぁ中々に面白い話を聞かせて貰った。
それにしても何をどう思ったら僕がリーダーになるのか。
《宵の明星》における僕の基本的な役割は『荷物持ち』だ。
「…………嘘だろう?」
だがヴィルはそんな僕の自己申告も信じられないようだ。
うーむ、これは喜ぶべき事柄なのかどうか。
「なぁ、聞いたかリエル。やっぱり僕の身の内からはカリスマ性? オーラ? そういうものが溢れちゃってんのかなぁ。ここはいっちょリーダー交代してみるか!」
「冗談でもやめてよね。アンタにリーダーなんて任せたらその日のうちにパーティー離散になるわよ」
相変わらずのヒデェ塩対応だ。
「はぁ!? そんなことあーりーまーせーん! 僕は福利厚生にも充実したリーダーシップを発揮するので女子の制服を強制的にバニースーツにするとか市民に喜ばれる政策をうーちーたーてーまーすぅー」
「リーダーの仕事と一切関係ないじゃない」
「そういうのは一生おひとりでやっていただきませんか。お願いですので」
「あら、ワタシはいいわよ。バニースーツ。イクスちゃんがお望みなら着てア・ゲ・ル」
「止めろよ! 想像しちゃうだろ! 夢に出てきたらどうすんだ!?」
ちらっとカイのバニー姿が脳裏に浮かんでしまった。
「いや、だが待ってくれ。君はその……戦える側の人間だろう?」
「僕がぁ? 無い無い無い! そこらへんのゴブリンにだってタイマンで負ける自信があるよボカァ!」
出来て軽い偵察程度で間違っても戦闘要員ではない。
間違っても戦力として数えていいものじゃない。
どうやらヴィルのなかではなんらかの盛大な勘違いが起きているようだ。
「ふむ……そうか。いや、そういうものかもな。解った。イクスは戦力としては数えないという事でいいんだな」
「悪いがそう思っていてくれ。その分雑用とかはやるからヴィルも困ったことがあれば遠慮なく僕に言ってくれよな」
結果的にヴィルも僕の役立たずっぷりに納得してくれたようだ。
正直戦えと言われても盛大に足を引っ張る未来しか見えないから助かったわ。
そんな風に雑談をしながら九階層の最奥、フロアボスが居た筈の広間を抜けていく。
グリント大迷宮では倒したボスは三日は復活しないらしい。
ハッキリ言ってしまうと、今回の探索で僕達は殆どフロアボスを倒していない。
行く先々で既にフロアボスが討滅されたばかりだったからだ。
おそらくは先行している
それによって三日間のインターバルタイムを利用する事によって僕等はフロアボスをスルーして迅速にここまで深層に潜れたのだ。
本来ならばあまり意味のない行程だ。
なにしろ冒険者がダンジョンに潜る理由の多くを占めるのはフロアボスを倒す事によって得られる財宝や報酬が目当てなのだ。
その報酬が得られないのに深く潜っても危険度が増すばかりでメリットが殆ど無い。
今回のように先行する魔王を追いかけるという目的に特化しているからこそできる強行軍だ。
とはいえ事ここに至って魔王に追いつけていない以上、僕たちの目的達成は相当に厳しいのが現状だ。
「そういえば、ここのフロアボスはヴィルの倒したサイクロプスなんだよな」
「ああ、そうだ。戦闘に巻き込んでしまってすまない」
「いや、それはいいんだけどさ。そうなると魔王は既に三日以上前にここを通過したって事か?」
ふと思い至った疑問を口にする。そうでなければ辻褄が合わない。
迷宮のルールが層を跨ぐ際に大きく変わるという事も無くはないが、グリント大迷宮においてはそういった前例は確認されていない筈だ。
「そうなりますと、やはり時間的に魔王は既にこのダンジョンを立ち去った可能性が高いですわね」
「まぁ仕方ないわよォ。いずれにせよアタシ達も脱出するには最下層を目指すしかないわァ。魔王が最下層で足止めされていると願うばかりね」
「そういえばヴィルくんはここに来るまでの間に怪しいヒトとかには出逢わなかった?」
「怪しい……ヒトか……」
何故か思案顔でこちらをぐるりと見渡すヴィル。
うん、なんだ。客観的に見てウチがだいぶアレなパーティーと言いたいのか。
ああ、確かに僕以外常識に欠けた奴等が多いもんな。そりゃあ仕方ないな。
ところでなんでウチのメンバーは全員自分だけは関係ないなって訳知り顔で頷いてんだ。
「そもそも大魔王ローってどんな見た目してんだ? やっぱ角とか牙とか生えてんのか?」
「噂じゃあ見た目はそこまで特徴のないヒト種の男性らしいわよん。ただ悪魔みたいに凶暴だって言われているわねェ」
「ふーん、それじゃあヴィルくんも知らない内に魔王と出遭っているかもしれないね」
「……いや、心当たりはないな。八階層で一人になってからはヒトに逢ったのは君等が初めてだ」
「そっか……そうなんだね」
ヴィルの言い方は八階層で一人にならざるを得ない何かがあったと言う事を示唆している。
それを察してかリエルの問いかけも尻すぼみ気味に小さくなってしまった。
「八、階層、主。打倒、実施、ジエンテ?」
「……? ああ、いや、八階層のフロアボスを倒したのは俺じゃあない」
「そうすると九階層ですれ違ったって可能性もないわけじゃないのか」
グリント大迷宮は文字通り層それぞれが広大な迷宮となっている。
数多の回廊と広場によって構成されている複雑な構造となっており、その全容はいまだに解明されていない。
本来であればただ下層に向かうだけでも相当な時間と苦労を強いられる筈だ。
だが古い迷宮ゆえか、下層へと向かうルートに限って言えば先人の努力の結果、かなりの精度のマッピングが完了している。
当然ながら代価は驚くような金額ではあるがツテさえあれば地図を入手する事は可能だ。
結果的に、僕らはほぼ最短ルートを通ってここまで迷宮を進むことができた。
進行速度から推測するとおそらく魔王もほぼ最短ルートで下層へと向かっていた筈だ。
それがここにきて急に道に迷っている、と考えるのは希望的観測が過ぎるだろう。
あえて何日も意味もなく同階層をウロウロする理由も特に思い浮かばない。
「どちらにせよこのままじゃ魔王と出遭っちまう可能性は低い、か」
それは嘆くべきことなのか、喜ぶべきことなのか。
今更わざわざ語るべきことでもないが、僕と僕以外のパーティメンバーの最終的な目標は大きく違っている。
魔王打倒という過程は同じだが、リエル達と違って僕は
僕としてもリエル達の目的が叶うことは喜ばしい事ではあるが、その為にわざわざ危ない橋を渡る必要なんてない、というのが僕のスタンスだ。
だからこそ魔王と出遭わないという結果は現状維持でしかないものの悪い事ではない。
希望的観測だがリエル達も似たようなことを考えているからこそ、魔王を取り逃がしてしまうかもしれない現状をどこかドライに受け止めているような気がする。
そんなことを喋っている間に階段を降り切って僕等は最下層へと足を踏み入れた。
やはり今までと同様石壁と石床に囲まれた古代遺跡風の通路と広間で構成されているようだ。
グリント大迷宮。最下層の攻略が始まる。
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