この素晴らしい探索者に思い出を!

 正直、俺はサツキも他の奴らと同じように一見強くても実は欠陥物件なんだと思っていた。


 たとえばめぐみんのように火力はあるが一発しか打てない。


 もしくはアクアのようにダメ人間。


 はたまたダクネスのように性格に難あり&攻撃が当たらない、みたいな。


 だが、それは大きな間違いだった。


 めぐみんが『死の宣告』という呪いを受けた後、サツキは普段コロコロと変わる愛らしい表情がすべて抜け落ち冷たい無表情を浮かべながらこう言った。


「死ね」


 それからは、戦闘すら呼べない圧倒的な蹂躙だった。


 ベルディアが見えないナニカに拘束され、地面に叩きつけられた瞬間もの凄い速度で接近し、おそらく初めて会ったときカエル相手に使ったのと同じ技を使用しフルプレートアーマーを身に纏ったベルディアを紙切れのように吹き飛ばした。


 そして次の瞬間はるか彼方に消えていったと思ったらサツキの目の前にあらわれ地面にクレーターを作った。


 まるで夢を見ているかのようだった。


 こんな世知辛い異世界転生なのに一人だけチート俺TUEE系が混じってるみたいな。


 だとしてもあんなに強そうな気配を漂わせていた魔王軍の幹部が雑魚のように蹂躙されることが、より現実味を薄めていた。


「嘘……あんな強さ、ありえない」


 隣でアクアが茫然としている。


 たしかアイツが与えられたチートは魔力と正気度の無限化。


 それなのにも関わらずあそこまでの圧倒的な攻撃力と速度。たしかにありえない。


 大体正気度ってなんだ? ステータスにそんな項目ないぞ?


 アイツは一体、何者なんだ……?


□■□■□■□


「ふー、戻った戻った」


 気絶している首なしの首根っこを掴んでみんなの前にテレポートする。


 とれまこれで一件落着だろう。流石にここまで痛めつければこれも呪いを解くと思うし。


 ん? そういえばこいつ気絶してるってことはイタズラ呪文使えるじゃん。


 具体的には『悪夢』とか『悪夢』とかあと『悪夢』とか。


 口元に蠱惑的な笑みを浮かべながら首なしに呪文をかけていく。


 これを使えば目も覚めるし一石二鳥だね。


 えいやーっと。


 お、さっそくうなされ始めた。起きるまであと数十秒かな?


「zzz……っは!? っ、ハァ、ハァ……」


 あ、起きた。


「お目覚めかな? 首なし」


「お、お前は……」


「それじゃ、今すぐめぐみんを治して貰おうか。」


「それは……」


「ダメとは、言わないよね?」


 ここで呪文『恐怖の注入』を唱える。


「っ! ……わかった、すぐに治す」


「うむ、わかればよろしい」


 すぐに呪文を破棄し、逆に『癒し』を唱える。


 あ、アンデットだし逆にダメージになっちゃうかな? と思ったが、ここのシステムから外れた呪文だからかその心配はなさそうだ。すごいほっとした感じしてるし。


 よかったよかった。何事もアメとムチが肝心だからね。


「ほら、治したぞ」


「ん、ありがと」


 カズマの横で横になってるめぐみんを見ると、確かに体にかかっていたイヤなもやが取れた感じがする。よしおっけ。


 と思いカズマ達を仰ぎ見ると、みんなの私を見る目が何やら変わっていることに気が付いた。


「およ?」


 なんで、?


 ヤダよ、そんな目で見ないでよ……私は狂ってるけど、それでもまだ人間なんだから……アイツらとはちが……


 その瞬間、私は強い眩暈を感じ、そして意識が闇に沈んだ。


□■□■□■□


 どうしてあのとき、俺たちはあんな目をしてしまったのだろう。


 やったことは魔王軍幹部を倒すという英雄じみた行動だ。


 にも関わらず、なんとなく恐怖を感じたというそれだけの理由であいつを突き放してしまった。


 あのときサツキが見せた表情はまるで親に見捨てられた子供のように悲痛な表情をしていて……そして、気を失った。


「サツキ!?」


 それから俺たちは、とりあえずサツキとめぐみんを2人が泊っている宿に連れて行きベットに寝かせ様子を見ることにした。


□■□■□■□


……目が覚めると、私は知らない部屋に知らない人たちと一緒に寝っ転がっていた。


んー、親の顔より見た光景といえるレベルに既視感。


え……うっそやろおい!? あのタイミングで!?


いやそりゃあいつも唐突だったし何ならテスト中とかにきたこともあったけどさぁ……


てかなに? なんでこっちの世界なのにこの光景が存在するの? やっぱこっちにも神話生物いるんすかねぇ……はぁ、やだなぁ。


とりあえずちゃちゃっと解決するか。


…………なんで死んだあとにまでこれに悩まされなきゃいけないんだか……。


□■□■□■□


最初からなんか既視感はあったよ? でも、改めて部屋を確認したらしれは確信に変わった。


私たちの目の前には赤い……いや紅いスープとメモ用紙があった。


これ、毒入りスープじゃん。


私が初めて邂逅した事件である毒入りスープ。その内容はまだ緻密に覚えている。


てことでさっきも言ったけどちゃちゃっと駆り立てる恐怖倒してショートカットゴールするかー。


と、いうわけでまずは牢屋にいる女の子を解放して仲良くなる。そして拳銃をげっちゅ。


とっとと狩るか~と考えていると、私はだいたい70回目ぐらいに出会ったとある邪神の話を思い出した。


『実はこの子、ある時に操縦してゲットした駆り立てる恐怖なんですよ』


 こ・れ・だ!!


 まぁ操縦:駆り立てる恐怖&運転:駆り立てる恐怖なんてもってないから当然初期値の5ですけどなにか?


 知ってるかい? 成功するまでやれば、達成値は実質100なんだよ?


 まずは肉体の保護に150MPつぎ込む。装甲はたくさん。核が降っても安心だ!


 さぁやるぞー。


~数十分後~


 成功しました。試行回数はだいたい90回ぐらい。


 多分ほかの皆はもう探索終わってると思うけどあの女の子にここに入れないよう頼んでたから大丈夫。


「お手」


「そきじゃfsvkldkpo!!」


「よーしよし、いいこいいこ」


「;lskじhd!!」


「じゃあ死ね」


「!? きゅう……」


クイッとキメた。


こうか は ばつぐんだ!


かりたてるきょうふ に ダメージ 死!


かりたてるきょうふ は たおれた!


YOU WIN!


 はい勝利。


「さてと……どういうことか説明して貰おうか? ニャル」


「はてさてなんのことやら。なによりこれはフォーンの起こした事件ですよ?」


 影からシルクハットと燕尾服を身に纏ってステッキを持ったイケメンが現れる。


「それは知ってる。 けどは違う、でしょ?」


「おやおや、どうしてわかったのかな?」


「本来の毒入りスープには30分っていう制限時間があったのを忘れてるんだよアンタは」


 30分なんてゲットだぜしてる間にとっくに過ぎてるわ。 


はぁ、まったく仕事が荒いんだからこの愉快犯は……


「で、どうしてこんなことしたの? わざわざ世界を跨いで人攫って」


「いえ、ただ少し懐かしい風景を見せてあげただけさ。他意はない」


「嘘つけ」


「あらら、バレてる」


そりゃそうだよ。邪神が他人のために行動するわけないじゃん。


「まぁ本当に大した理由はないんだよ」


「と、いうと?」


「私のお気に入りが物凄い遠くに行ってしまったようでしたから私の力がそこまで届くかどうか試したかっただけさ」


「はぁ、そんな理由で……だったらなんでこんな手抜き工事したの?」


「まぁまぁ、そんな風に全部答えてしまったらつまらないじゃないか。私が教えてあげるのはここまで、さ」


「じゃあとっとと帰してよ」


「まだ大事な任務が残ってるだろう? この事件には」


「はぁ、あのスープ飲めと?」


あれマズいからやなんだよね。


「That`s right!! わかってるじゃないか。さぁさぁ帰った帰った、お仲間が待ってるよ?」


 そう言い残すと、ニャルは再び影に消えた。


 はぁ……あの愉快犯に付き合わされたらなんか気を失う前に怖がってたことがバカバカしくなってきた。


 もとより私は半分人間やめてるしね。


 そう考えると、ちょっとは感謝してもいい気がしてきた。


 非常に癪だけどニャルのおかげであんなに怯えてたのが嘘みたいになくなったからね。


「ありがとね、ニャル」


 どこか遠いところから、どういたしましてと聞こえた気がした。


 さ、スープ飲むかー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る