この探索者に新たな日課を!
『緊急クエスト発令! 冒険者の皆さんは大至急正門前に集まってください!!』
「「「!?」」」
めぐみん達に必死の弁明をしていると、けたたましいサイレンの後アナウンスが流れた。
なんかヤバイ奴でも来たのかな? 周りの人たちも慌ててるし。
私たちも準備を終え、道すがら近くにいた冒険者に何があったか聞いてみよう。
「あの、なにが来たかってわかりますか?」
「お前新人か?」
「は、はい」
「だったら覚えとけ。今年は比較的早いがこの時期になると集団でやってくるそいつらの名は……」
「名は……?」
どれぐらい強いのかな? もしかして魔王軍幹部とか!? 結構楽しみかも。
「キャベツだ!!」
「………………は?」
□■□■□■□
「おかしい、なんでただの野菜炒めがこんなに上手いんだ……」
「そりゃあ私の料理の腕が素晴らしいからでしょ」
「自分で言うか? 普通」
予想外の敵と遭遇し若干慌てた私だったが、「まぁ野菜が飛ぶぐらい前世でもあったよね」と気付き落ち着きを取り戻した。
それからは門の創造でウハウハですよ。
行き先を檻の中に設定してキャベツが通る所に置いとくだけでいいんだもん。
「てかなんでお前は普通にしてられるんだよ!? 俺と同じ日本人なんだろ!?」
「まぁうん」
「おかしいだろ……!? キャベツが空飛ぶとかサンマが畑で採れるとか!」
「そりゃあ場数が違うからね」
ここでミステリアスな雰囲気を醸し出しつつふふっと笑う。
男はこういう仕草に弱いって探索者仲間が言ってた。
カズマを落としたいわけではないんだけどね。私はめぐみん一筋だし。
「そうですよカズマ、キャベツが空を飛ぶなど普通ではないですか」
「あぁ、むしろ飛ばないキャベツなどあるのか?」
「あ、もういいです。俺が間違ってました」
うむ、わかればよろしい。
「はいめぐみん、あーん」
「? あーん」
なんとなく会話に詰まったからとりあえずめぐみんにあーんさせておく。
「どう? おいしい?」
「はい! それにしてもサツキは本当に料理が上手ですね」
「ふふーん、すごいでしょー」
「私にも教えてくれませんか? 料理を」
めぐみんに料理を教えるだって? そんなの……最高じゃん!
「もっちのロン!」
「ホントですか! ありがとうございます!!」
「You`er welcome♪ 今夜ホテルで一緒に作ろうねー」
「ええ! では私もお礼に爆裂魔法を教えてあげましょう」
「お、いいねいいね」
そんな風に話を盛り上げていると、カズマが割って入ってきた。
「ちょちょ待て待て! なに、お前ら一緒に住んでんの?」
「え、うん。私他に宿ないし」
「おいめぐみん、こいつ危険だぞ。とっとと離れた方が身のためだ」
「おいカズマ、私が危険とはどういうことだ。大体意味は分かるがあえて聞こう。どういうことだ」
「わかってんならいいじゃねえか」
いやだって私に百合っ気があるから危険だと思ったんでしょ?
……大正解だよ。
「だって離れたくないしー。めぐみんもいいよね~?」
「まぁ別に。毎朝美味しいご飯が食べれますし」
「チクショウすでに胃袋を掴まれてやがる」
ふふーん、そこはすでに抜かりなしなのだよ。
もはやめぐみんは私なしでは生きられない体になっているのだ!
私がいないときっとご飯を食べるたびに「サツキならもっと美味しく作れるのに」と思ってしまうだろうからな! ふーっはっはっはっは!!
「大体カズマとアクアだって一緒に寝てるじゃないですか。男女である分そちらの方が問題あるのでは?」
「いやあれはもう違うだろ」
私たちをほっぽり出して冒険者たちと飲んだくれてるアクア様を見て不覚にもたしかにと思ってしまった。
□■□■□■□
翌日、先に魔道具店によってから冒険者ギルドに向かうと、丁度カズマがダクネスを罵倒している所だった。
よくみるとダクネスの鎧がピカピカになっているし、多分それについてだろう。
どれ、たまには普通に褒めてやろうとするかね。
……まぁ私たちまだ会って2日目だけど。
「おはようダクネス」
「あぁ、おはよう」
「鎧直してもらったんだ。いいね、似合ってるよ」
「!?」
おい、そこまで驚くことか?
「一体どんなごほ……罵倒が飛んでくると思ったら普通に褒められただと!? うれしいような物足りないような……あぁもうなんなのだこの感じ!」
「……はぁ。悪いけど今はそこまでダクネスにかまってあげる余裕ないの、ごめんね」
「なにかあったのか?」
そんなの決まってるじゃん。
「はぁ、はぁ……魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色つや! そして肌触り!! 最高です……!!!」
「ね?」
「「うわぁ……」」
まぁ私にしてもアレはちょっとイッちゃってると思う。多分一時的発狂ぐらいはしてる。
「ちょっとどういうことよ! なんでこんなお金が少ないのよ!!」
しばらく3人でめぐみんを眺めていると、受付の方からアクア様の絶叫が聞こえてきた。
「そ、それは……アクアさんが捕まえてきたのはほとんどレタスでして……」
「なんでレタスだと換金率低いのよぉぉぉぉぉ!!!」
あわれなアクア様の悲鳴が響き渡った。南無三。
「かーずーまーさん?」
うわ、こっち来た。
「今回の報酬、ぶっちゃけいくら?」
「……100万ちょい」
「「「ひゃっ!?」」」
私でも60万だったのに!? カズマの幸運どんだけなのさ!?
おかしいな~、私も幸運大分高い方のはずなんだけどなー……それはもう人間やめてるレベル。
「カズマさーん!! 私この酒場に10万近いツケもあるんですけどお!!」
こっちもこっちである意味人間やめてるレベル。もとから人間じゃないけど。
どうやったら一杯300エリスぐらいの酒場で10万もツケ作れるんだか。
てかよく見たら入り口にドス舐めてる人とかいるじゃん、こわ。
「知るか! 大体俺はこの金で馬小屋生活から脱出したいんだよ!!」
「そりゃあカズマさんも男の子だし? 夜中となりでごそごそしてるのも知ってるけど……」
「ちょ!? ストーップ! ストーーップ!! わかった! 貸す! 貸してやるから!!」
ふーん、そうなんだー。みたいな目でカズマを見つめてみる。
「サツキ!? そんな目で俺を見るなよ!!」
「そうか、そうか。つまり君はそういうやつだったんだな」
「エーミーーーーーーーール!!!」
あわれなカズマの悲鳴が響き渡った。南無三。
□■□■□■□
あれから一夜明け、早速冒険者ギルドに向かうとカズマが衣装チェンジをしていた。
「おぉ、カズマが普通の冒険者みたいにみえるのです」
「馬子にも衣裳、だな」
「まぁジャージよりはマシレベルね」
「30点」
「ちょっ!? なんでお前らそんな辛口なんだよ!? ちょっとドヤ顔してたこっちが恥ずかしいじゃねえか!」
ちなみに上からめぐみん、ダクネス、アクア様、私である。
正直私は普通に褒めようかと思ってたんだけど、流れに乗ってみた。
「初級とは言え魔法も覚えたんだぞ、盾は持たず魔法剣士みたいにするつもりだ!」
「へえ~、かっこいいじゃん」
「なるほど! 盾ではなく体で受け止めるのだな!」
「爆裂魔法じゃない、0点」
「言うこと
「サツキ、お前だけが俺の救いだよ……」
わかると思うけど今度は上から私、ダクネス、めぐみん、アクア様ね。
「まぁ爆裂魔法じゃないとはいえ折角魔法を覚えたんですし討伐クエストに行きましょう! それも雑魚敵がたっくさんいるやつです!! あぁ……早くこの新しい杖で爆裂したい……」
「いや、一発が重くて気持ちいい強いやつにしよう!!」
「いいえ、お金になるクエストにするわよ! ツケを払ったから今日の食費もないの!」
「「……まとまりがねぇ」」
私たちの心が一つになった瞬間である。
「ジャイアントトードが繁殖期に入って街の近場に出没したらしいから……」
「「!? カエルはダメ」なのです!!」
「……なぜダメなのだ?」
あそっか、ダクネスは入ったばっかりだから知らないのか。
「この2人はこの前カエルにパックリいかれたんだよ、頭から」
「だから軽くトラウマになってるってわけ」
「か、カエルに頭からぱっくり……」
あ、今ちょっと興奮したね。
□■□■□■□
「「「「「ま、魔王軍幹部!?」」」」」
「ええ、そのせいで弱い魔物は隠れてしまっているんです」
他のクエストを見てみようってことになってクエストボードに行くとそこには高難易度のクエストしかなく、なぜかと思っているといつものおっきいお姉さんがそんな言葉を零した。
へ~、どれぐらい強いんだろ……。
「ちょ、お前ら!? なんでそんなやる気マンマンみたいな顔してんの!?」
げ、心読まれた。
「俺たちじゃそんなの絶対勝てないし、無理だからな!!」
ちぇー、カズマさんのケチ。
魔王軍幹部たってたぶんゴ=ミさんの数倍強いぐらいでしょ? 余裕じゃない?
……流石に甘く見すぎかな……駆り立てる恐怖の数倍くらい?
翌日、私とめぐみんとなぜかカズマで山道をズンズンと突き進んでいた。
めぐみんいわく魔法の練習をするから付き合ってほしい、だそうだ。
「だいたいなんで俺たちも一緒に行かなきゃいけないんだよ、一人じゃだめなのか?」
「ダメに決まってます! 爆裂魔法を撃った後、私は動けなくなるんですよ?」
はっ!? つまりそれはめぐみんを合法的にお姫様だっこできるということでは……!?
「てことはもしかして俺お前のことおぶらされんの?」
「その通りなのです」
「マジ?」
「マジです」
なんでカズマそんなイヤそうな顔してるの? こんな最高なイベントを。
「だったら私が運んであげるよ!」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
「だー!! ストップストップ!」
なにさカズマ、今大事なとこなのに。
「こんな欲望にまみれた眼をしたやつにいたいけなロリっ娘をおぶらせられるか!」
なんだよー、邪魔すんなよなー。
「お前そのまま宿じゃなくてラブホに直行しそうでこええんだよ、お前がするぐらいなら俺がする」
なん……だと……? すべてバレている……!?
くっ、カズマがここまで頭が回るやつだとは思わなかったぜ。
「さ! 着きましたよ!! 実はこの前丁度いい的を見つけたのです!!」
爆裂魔法の的になれるものなんてあるの? ぶっちゃけ。
「それは……あの廃城、です!」
おー、確かに誰もいなさそうどころか悪魔でも住み着いてそうな城だね。
確かにあれなら結構な強度もありつつ爆裂してもだれも困らなそう。
「では早速行きます!」
「おー!!」
「お~……」
む、カズマなんだそのテンションの低さは。折角の新しい杖のお披露目だっていうのに。
「紅き黒炎、万界の王。天地の法を敷衍すれど、我は万象昇温の理。崩壊破壊の別名なり。永劫の鉄槌は我がもとに下れ!エクスプロージョン!」
瞬間、世界は破滅の炎に包まれた。
城はまたたくまに爆炎で見えなくなり、数舜遅れてやってきた爆風がその威力の凄まじさを如実に表している。
そして、しばらくその光景を眺めた後、ぱたりとめぐみんが倒れた。
「「あ」」
「燃え尽きろ……紅蓮の炎に、ガクッ」
め、めぐみーーーーん!!
□■□■□■□
こうして、俺とめぐみんの新しい日課が始まった。
仕事のない日は毎日そこに行き爆裂、帰り道を俺がおぶって帰るというものだ。
……ただ一つ気になることがあるとすれば…………。
「いつも言ってるけどその射殺すような目やめてくれないか? マジで怖いんですけど」
「ガルルルルル……私のめぐみんに万が一でも手を出したら……コロス」
これである。
行きの道はめぐみんはもちろん俺ともとても楽しそうに会話をし、爆裂した後にはなぜかその道のプロかと思うぐらい適格(?)なアドバイスをした後めぐみんに何かしらの魔法をかけ、俺に渡してくる。
しかし、ずっとニコニコとかわいらしい笑みを浮かべていたにも関わらず、俺がめぐみんをおぶった瞬間般若のような形相に変わり俺を睨みつけてくるのだ。
正直冗談抜きで怖い。視線だけで人殺せるんじゃねえの? ってぐらい怖い。
いつもは大体こんな感じだったのだが、その日は違った。
いつもは般若なのに対して、その日はなぜか笑っていたのだ。
それはもうご機嫌そうにニコニコと。
「な、なんかあったのか?」
たまらず俺がそう質問すると、んー? と少女のような気の抜けた声と共に軽やかな返事が返ってきた。
「いやー最近、これを初めたぐらいからかな? それぐらいからどんどんめぐみんが楽しそーーに暮らすようになってさ。心なしか肌ツヤもよくなったかも?」
「へ、へー。そうなのか」
「そうそう! これもカズマがいつも付き合ってくれるからかな? ありがとね!!」
「……誰だお前」
いやホントに誰だよ。俺の知ってるサツキはいたいけな少女みたいな見た目をしてるにもかかわらず超真っ黒なやつだ。特にダクネスには女王様みたいな雰囲気すらかもしだしている。
コイツは知ってるのだろうか、実は冒険者ギルドに「サツキ様に罵られたいの会」と「サツキちゃんをひたすら愛でたいの会」という2大勢力が存在していることを……。
……ホントに知ったらどういう反応するか気になるな。
両方の会に嬉々として飛び込んで求められる自分を演じそう。
う~む、教えるべきか教えないべきか……
というわけで……教えてみた。
「ふぇっ!? なにそれ!? そそそ、そんなのあるの!?」
あれ? 思ったより普通の反応してる。意外にかわいいかも。
これ案外楽しい反応がみれるかm……
「前半はともかく……後半のはなにさ!?」
「うんうん、わか……え、なんて?」
さっき書いた通り先に罵倒次に愛でるの順番で教えたよな? 俺。
え、普通逆じゃね?
「なんだよ『愛でたい』って!! なんども言わせんなぁ! 私は21の成人なんだよぉぉぉ!!!!」
あ、はい。やっぱお前はそういうやつだよな。知ってたどころかちょっと安心したわ。
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